美麗なエレクトロニカ・サウンドで人気を博すティコ。彼が、2019年の前作『Wrather』とは双子の関係にあるというアルバム『Simulcast』をリリースした。歌ものの楽曲に取り組んだ『Weather』とは打って変わり、全編をインストゥルメンタルのトラックで統一した 『Simulcast』。生楽器とエレクトロニクスを柔らかなタッチで重ねた本作は、彼ならではの優美なチルさを堪能できるアルバムだ。では、ティコ・サウンドの研ぎ澄まされた心地よさとは、何に由来したものなのか。ライターの小野田雄による、デザイナーというバックグラウンドからのティコ論。*Mikiki編集部
新たな響きを生み出すことを意図したリワーク・アルバム
2016年の『Epoch』と女性ヴォーカリストのセイント・シナーをフィーチャーした前作『Weather』が2作連続でグラミー賞にノミネートされたサンフランシスコ在住のスコット・ハンセンによるソロ・プロジェクト、ティコ。『Weather』と対を成す新作『Simulcast』では、前作収録のヴォーカル・トラック5曲をインストゥルメンタルにリワーク。さらにインストゥルメンタルだった『Weather』の3曲はそのまま収録されているが、曲順を大幅に変更することで、新たな音の流れや響きを生み出すことを意図したアルバムだ。
曲の順番やかけ方によって、聴こえ方が変わるというのはDJの醍醐味であり、また、リミックスというと多くの場合、クラブの現場でプレイされることを念頭に行われるものだ。しかし、ティコは頻繁にDJを行っているわけでもなければ、この作品もシンセサイザーやギターは加えられているもののダンス・ミュージック色を強めるために大幅なビートの改変は行われておらず、体裁としてはダブ・アルバムやリミックス・アルバムではなくリワーク・アルバムと形容すべき作品だ。