BOREDOMS加入の誘いを断る大学生イトケン

新間「社会人といえばイトケンさんは新卒から30歳ぐらいまでTEACでエンジニアとして働いてたんすよね。会社辞めたきっかけって音楽一本で行こうと思ったから?」

※ティアック株式会社。世界的音響機器メーカーでイトケンはMTRの開発に従事していた

イトケン「俺食って行こうと思ったのかな、あれ。会社はやめようと思ったけど、音楽で食って行こうと思ったかは正直覚えてない。このままいけば管理職って感じで仕事が忙しくなりそうだった。で、仕事と音楽を天秤にかけた時に、音楽のほうが人生かける価値あるなって思って辞めたのかな」

柴田「そういう時ってあんまり迷わないですよね不思議なぐらい」

イトケン「迷わないね。何かがあるから辞める、じゃなくて仕事との両立がきついからもう辞めるっていう。よく暮らしていけたよね、あの頃」

新間「ある程度、貯金はしてたんすよね」

イトケン「とはいえ、仕事ないんだからずっと収入がないじゃん。まあ人との出会いですよ。その時に栗原さんに出会ったのが大きかった」

※栗原正己。自身が主宰する栗コーダーカルテットや「ピタゴラスイッチ」「おかあさんといっしょ」のコンポーザーとしても活躍中

新間「出会いのきっかけって何ですか?」

イトケン「デートコース(DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、現DC/PRG)に誘われて」

柴田「え、デートコースもやってたんですか?」

イトケン「ナルさん(菊地成孔)に、芳垣(安洋)さんが忙しすぎて出られないからリザーバーとして誘われて。そこでベーシストが栗原さんだった。で、いろいろ話してたら住んでる場所も音楽性もめちゃ近いってことになって、栗原さんのレコーディングに誘われるようになって」

柴田「なるようになるさだね本当に。それがしっくりくるほうに向かうのがすごいんだよね人間って」

イトケン「あんときほんとデートコースに誘われてなかったら普通にサラリーマンに戻ってたかもしれないし」

柴田「やっぱ出会いって大事だ、本当に。イトケンさんの歴史を聞くと、自分で人生を切り拓いてるんだなって感じる。いいタイミングでうまく会えてるし、変なまわり道がない」

イトケン「でも唯一〈あの時ああしてたらどうなったんだろうな〉って思うのは、BOREDOMSに誘われたのを断ったこと。あれ加入してたらどうなってたんだろうな」

柴田「え、そんなことあったんですか。なんで断っちゃったんですか?」

イトケン「いや当時大学生だったし東京住んでたしまだマインドが普通だったから。今でもそれは思い出すなぁ」

柴田「もし加入してたら就職しなかった?」

イトケン「かもね」

柴田「へー面白い」

新間「加入してもしなくともコアの部分はあんま変わらない気もしますが、開発スキルとか工程管理とか会社員時代の経験はミュージシャンになった今でもフルに活かしてますよね」

イトケン「そうだね、ちゃんと見積もり取るとか。今でもTEAC時代の仲間とは付き合いあるし」

柴田「イトケンさんはバランス感覚が本当にいいですよね」

 

トクマルバンドと相対性理論を脱退しても1983に残った謎

新間「じゃあ、イトケンさんに質問コーナー。何でもいいよ」

柴田「えー! じゃあ誰にも言えない秘密とか知られたくない趣味ってありますか?」

イトケン「誰にも言えない秘密? 言えないじゃんそれ! まああるんじゃない。趣味はないかな、基本オープンだから」

柴田「スーパーオープンですよね」

イトケン「意外とツイートしてるかもね、何やってるか大体アウトプットしてる。今日家にいるとか」

柴田「メールへの返事もすごく速いし。inFIRE誘った時も3秒ぐらいで返信来た(笑)」

新間「1983のアルバム作ってたときもキーボードの谷(谷口雄)がシンセの音作りについて質問したら、1分後には設定のポイントとともに実際に参考の音色が動画で送られてきて速度に超人を感じた」

柴田「イトケンさんっていつも3人ぐらいいるんじゃないかと思う。あ、そうだ、いろんな音楽をやっているけど、それってどういう基準で選んでいるんですか? 断ることもあるんですか?」

イトケン「基本断ってないかも。日程が合わない以外は断ってないかな」

柴田「それが不思議。こいつとはやりたくねえとかは?」

イトケン「そういう人からは誘いが来ないんじゃない? 誘うなよビームを俺出してんじゃないかな」

柴田「あー、やっぱり自立しすぎてる人って変な人は寄ってこないですよね、取りつく島がないみたいな」

新間「しばたさとこ島はどう?」

※編集部注:柴田が2012年にリリースしたファースト・アルバムのタイトル

柴田「どんどん上陸してくる。私そんな自信ないタイプだったから。でも、最近はそういう考えはやめて、もう孤島でいいやって思ってる。北センチネル島みたいに生きて出られないようにしてやるって」

一同「(笑)」

イトケン「でも、まあミュージシャンとしてはさ、来た仕事は受けるよね」

柴田「勝手なイメージですけど、イトケンさんは来るもの拒まず去るもの追わず感ある。バンドで演奏している人って、絶対にこれだけは手放せないとかこだわるとこあるじゃないですか」

イトケン「うん、それは全くないね。絶対次に転がるじゃん、それが終わったとしても」

柴田「それがすごいやっぱり。執着が無い人あんまりいないと思う。例えば自分がやってた現場を、違う人がやってて悔しいとかっていうのは?」

イトケン「それもないかもな。自分とは違うものが欲しかったんでしょってことだから」

柴田「人間としてできすぎてる……」

新間「やっぱりイトケンさんは、感情とか価値基準が他の人と違うところがある。1983で一番謎だったのは、トクマルシューゴバンドの一軍から退いたり相対性理論は辞めたりしたのに、なんで1983は続けるんだ!?ってみんな驚いた記憶がある」

柴田「へー! それはなんでだったの?」

イトケン「まあ1983が楽しかったってのはあるんじゃない? トクマルに関してはもう10年やったし、もう俺いないで次行ったほうがいいよって思った。正確には一軍から引退ってだけで、必要とあれば参加する関係性だけどね。相対性にしてもドラマーがもう一人いるし、オケ流しながら演奏するから大丈夫かなと。どちらも自分がいなくても成立すると思ったのが共通点かな」

柴田「本かけるんじゃない? 『イトケンメソッド~選ばれる秘訣~』。普通執着するよね。逆に執着するものあるんですか?」

イトケン「プラグイン(笑)」

イトケンの2015年作『スピーカー』収録曲“a kind of chess”

柴田「じゃあ音色ってこと?」

イトケン「音色はあるかもね。俺どのプラグイン買っても同じ音作ってんだよ」

新間「じゃあなんで新しいプラグイン次々と買うんすか」

イトケン「そう、そこが自分でも謎なんだよ」

柴田「音色だけは解決できないってことかぁ。なんか錦織圭がスポーツの中で唯一苦手だったテニスをやってるのと同じものを感じる」

イトケン「まあ、いろいろバンド辞めて時間ができたから何かしようってのは特になかったけど、そうやって時間ができたところにバタやんからinFIREに誘われるとかそういうのはあった気がするな」

 

〈もっと来いよ!〉だけじゃダメ

新間「今inFIREやっててどうですか?」

イトケン「面白い。本当に歌詞が面白い」

柴田「歌詞が面白くって、音楽大丈夫か?っていつも思うんですよ。大丈夫?」

イトケン「そこでバンド・メンバーが遊べるじゃん」

柴田「よかった。それだけがいつも不安」

新間「ちょっと前に〈ドラマーとしての誘いが増えて嬉しい〉ってSNSで書いてましたけど、楽器の中だと何が一番好きですか?」

イトケン「最近ドラムかな。まあ俺、鍵盤弾けないからね」

柴田「いや、SPEAKERS(イトケンのリーダー・バンド)やってて弾けないっていうのは……SPEAKERSが演奏してると他のメンバーは真顔で必死に演奏してるのに(イトケンは)一人だけイェーイ!って感じでニヤニヤしながらすごく楽しそう」

イトケン with SPEAKERSの2018年のライヴ映像

イトケン「〈やっぱそこ間違えるよね!(笑)〉みたいな。作ってる時は難しくないんだよ。普通の曲をグリッド変えたりテンポ変えて弾き直して並べ変えると〈あ! これリズム取りづらくなって面白い!〉でその積み重ねでどんどん難しくなる」

柴田「基本、難しいことを本当に厭わないですよね」

イトケン「そうだね」

柴田「創作でそれはめちゃくちゃ大事。難しいことを避けようとすると全部バレる。できないからできるほうをと思ったらもうダメだと思う」

イトケン「まぁメンバーにはそれを勧めるけどね〈そこ、全部弾かなくてもいいんじゃない?〉とか。でも、自分の演奏に関してはどれだけ難しくとも絶対に端折らずやるな」

柴田「精神力が強い。ずっとこんな感じなんですか? メンタル弱かった時期とかないんですか?」

イトケン「基本変わってない気がするな」

柴田「ずっとなんだ。イトケンさんってかなり稀有ですね」

イトケン「そうなのかな」

新間「ミュージシャンって変わってるって言っても、類型化した変わり者が多いもんね」

柴田「うん。どこからも距離を置いてる感じがする。属してない中でも、俺流みたいな感じで個性を打ち出しすぎる人もいるじゃないですか。そういう感じでもないっていうか。染まれるし、抜けれるし、みたいな。一見淡白とか思われ……」

イトケン「……るかもね」

柴田「淡白だと思われそうではあるけど、inFIREで一緒にやってて思うのは、淡白だと感じるのはやってる側の問題なんだなって」

新間「どういうこと?」

柴田「やっぱ、イトケンさんがさっぱりしてると、どうしても執着を持ってもらいたいときがあるじゃん。〈もっと来いよ!〉みたいな。でも淡白っていうのとはちょっと違うのかなって。音楽に対しては全然熱いし」

新間「熱いよね」

柴田「だからツマミがいっぱいある人、みたいな。本当にいろんな状態とか引き出しがある感じがする」

イトケン「人間プラグイン(笑)。まあリアルにそうだから」

柴田「意図をちゃんと伝えたらしっくりくる演奏で返してくれる。いくらでもツマミがある!」

イトケン「やってるほうも〈こっちのツマミか!〉って練習になるからね」

新間「やっぱ相手ではなく自分次第?」

柴田「そう、だからソロでもバンドでもめちゃ勉強になる。〈来いよ!〉だけじゃないんだって。みんなが同じノリになったってしょうがないし」

イトケン「いわゆるロックバンドだったらまだしもね」

柴田「inFIREやっていると、違う人間が集まってるから楽しいって感じがするな」

 

1983『渚にきこえて』について

新間1983の新譜(『渚にきこえて』)、聴いてみてどうだった?」

柴田「私、1983の音楽って素敵なイメージだったんだけど。今作1曲目からゴリっとしていておおって思った。特に1、2曲目のコーラスがすごくロウな感じで。バンドがロウな感じをやる時って本当にかっこいい」

新間「柴田さんにコーラスほめられるのはすごく嬉しい。1曲目“スカイライン”は作曲者の松っちゃん(松村拓海)のコーラス・アレンジと、イトケンさんの音響加工技術がフルに活かされてる」

1983の2019年作『渚にきこえて』収録曲“スカイライン”

イトケン「あれはバンドの新機軸だよね」

柴田「最後のほうは、今まで通りの素敵な風も吹いてて。いろんな曲が入っていてよかったです」

新間イトケン「ありがとうございます!」

柴田「リリース・ツアーも頑張らないとね」

 


LIVE INFORMATION
1983「渚にきこえて」ツアー

9月7日(土)兵庫・神戸 旧グッゲンハイム邸
開場/開演:19:30/20:00
前売り/当日:2,800円/3,300円(いずれもドリンク代別)
出店:asipai(鳥取のカレー屋さん)
共催:塩屋音楽会

9月8日(日)京都・木屋町 UrBANGUILD
共演:ゑでぃまぁこん
開場/開演:18:30/19:00​
前売り/当日:2,800円/3,300円(いずれもドリンク代別)

予約/問い合わせ(Cow and Mouse):
cowandmouse489@gmail.com
080-3136-2673
※件名に〈1983 神戸公演〉と明記の上、お名前(フルネーム)・お電話番号・チケット枚数をご記入いただき、上記メールアドレスにお申し込みください。確認後、ご購入方法などを折り返しご返信いたします
企画制作:Cow and Mouse
https://www.cowandmouse.info/1983

9月28日(土)愛知・名古屋 K.Dハポン
共演:テト・ペッテンソン
開場/開演:18:30/19:00
前売り/当日:2,800円/3,300円(いずれもドリンク代別)
supported by jellyfish
予約:https://reserva.be/jellyfish489
問い合わせ:https://www.jelly-fish.org/
http://www.the1983band.com/live/2019-9-27-japon/