COLUMN

カインドネスが奏でる、荒んだ時代の優しきダンス・ミュージック

ソランジュからも信頼される音楽家の新作『Something Like A War』

Photo by Michele Yong

シンガー、ソングライター、DJ、プロデューサー。マルチな音楽家、アダム・ベインブリッジによるソロ・プロジェクトがカインドネスだ。2012年のアルバム『World, You Need A Change Of Mind』で鮮烈なデビューを果たして以来、ダンス・ミュージックとR&Bをブレンドした折衷的な音楽性で、2010年代のサウンドを牽引してきた。

ソランジュやブラッド・オレンジら、現代の最重要ミュージシャンたちによる傑作に裏方として携わってきた彼が、ついに5年ぶりの新作『Something Like A War』を発表。本作には、ジャズミン・サリヴァン、ケレラ、そしてロビンといった多彩なシンガーが参加している。11月19日(火)の来日公演も控える(前日にはタワーレコード渋谷店でサイン会も開催!)カインドネスの新作を、ライターの木津毅が音楽面から読み解いた。*Mikiki編集部

KINDNESS Something Like A War Female Energy/BEAT(2019)

カインドネスが担った2010年代の〈ムード〉

Kindness――優しさ、いたわり。

いまにして思えば、そうした抽象的なニュアンスのネーミングも見事だったのだろう。カインドネスを名乗るアダム・ベインブリッジは確実に2010年代のある〈ムード〉を担ってきたミュージシャンだ。チルウェイヴ以降の音響を踏まえた上で、ディスコやハウスのダンス・フィールをユルいグルーヴで捉えたファースト・アルバム『World, You Need A Change Of Mind』(2012年)。一転してビートを減らし、ジャズやソウルを基調とする生演奏のスムースさで聴かせたセカンド『Otherness』(2014年)。柔らかく、少しばかりアンニュイで、そして優しい――そうしたデリケートな〈ムード〉は、彼のプロジェクトに広がりを与えていく。

2012年作『World, You Need A Change Of Mind』収録曲“Gee Up”

 

プロデューサーとして関わった重要作の数々

『Something Like A War』はカインドネスとしては約5年ぶりとなる新作だが、その間むしろソングライターやプロデューサーとしての活躍で彼を見てきたひとは多いだろう。何しろ近年高く評価された作品にいくつも参加しているからだ。

ブラッド・オレンジの『Cupid Deluxe』(2013年)の共同プロデュースやライティングを皮切りに、ソランジュの『A Seat At The Table』(2016年)には5曲で共同プロデュース、エディット、共同作曲、ギターなどで名前を連ねている。傑作揃いだった2016年のなかでもとりわけ高く評価された同作にベインブリッジが参加した意味は大きかった。オルタナティヴR&Bと呼ばれた、アンビエントのタッチを前提とした新しい音響を追求するR&Bのシーンにおける重要なひとりとしての立ち位置を、ベインブリッジはここで確立することとなったのだ。

ソランジュの2016年作『A Seat At The Table』収録曲“Don't You Wait”

その後も同じくブラッド・オレンジの『Freetown Sound』(2018年)やロビン『Honey』(2018年)といった、ポップでありながらオルタナティヴな実験精神を持つ作品に共同プロデュースやヴォーカルで関わっている。個性のあるアーティストとあくまでミュージシャンシップで繋がろうとするベインブリッジの姿勢は、音楽家としての彼の幅を広げることになったに違いない。

また、カインドネスはもちろんグリズリー・ベアや王舟のミュージック・ビデオを監督・監修したり、ソランジュとの繋がりで彼女がキュレーターを務めたカルバン・クラインのキャンペーンでモデルとして登場したりと、その多彩ぶりを発揮しているのもトピックだ。そのように土地性やフィールドに囚われない感性もまた、じつに現代的だ。

アダム・ベインブリッジが監督した王舟“ディスコブラジル”のミュージック・ビデオ

 

yMusicのロブ・ムースや亡きフィリップ・ズダールと制作した『Something Like A War』

こうした広がりのある活動の成果が『Something Like A War』には遺憾なく発揮されている。つまり、本作にはたくさんの才能が参加しているだけでなく、彼ら彼女らの個性が見事に溶け合っているからだ。

サウンドの全体像としては、『World, You Need A Change Of Mind』のダンス・サウンドと『Otherness』のオーガニックな質感を融合させ、そこにストリングスを中心とした流麗なオーケストラのアレンジを加えたものとなっている。ストリングスを手がけたのはyMusicに所属し、近年はボン・イヴェールやスフィアン・スティーヴンスとの仕事で知られるロブ・ムース。なんでもスフィアンとご近所だった繋がりで知り合ったそうだが、彼のあくまで繊細なアレンジはカインドネスの音楽に新たな色気を加えることとなった。

また、ミックスはファースト・アルバムのプロデュースを務めたフィリップ・ズダール。本作はカシアスの『Dreem』(2019年)と同様、不慮の事故で先日他界したズダールにとっての最新にして最期の時期の仕事のひとつで、この見事なミックスを聴くだにあまりにも悲劇的な彼の死が身に迫るようだ。

フレンチ・タッチの重鎮と言われた彼らしく、細やかなカット・イン/カット・アウトが施され、本作のハウス・サウンドには立体的な厚みが感じられる。オープニングの“Sibambaneni”から、生々しい感触のストリングスがハウス・ビートを連れてくる“Raise Up”の展開、その控えめながらも豊かなグルーヴには舌を巻かずにはいられない。

『Something Like A War』収録曲“Raise Up”

 

新作で見せるプロデューサーとしての才覚

また、『Something Like A War』は、シンガー・ソングライターとしてのベインブリッジ以上にプロデューサーとしての彼が前面に出た作品でもある。多くのヴォーカリストが参加し、それぞれのシンガーの個性に合わせたサウンド作りになっているのだ。たとえば“Younger”(2014年)のヒットで知られるスウェーデンのシンガー、セイナボ・セイが歌う“Lost Without”では彼女の深みのある声を生かしたジャジーなハウスを展開、いっぽうでロビンが登場する“The Warning”ではサイケデリックなフィーリングが漂うシンセ・サウンド、というように。

『Something Like A War』収録曲“Raise Up feat. Seinabo Sey”

メロウな歌声で引きこむR&Bシンガー、ジャズミン・サリヴァン(“Hard To Believe”)。透明感のあるヴォーカルでベインブリッジとオーガニックなコーラスを聴かせるアレクサンドリア(“Who You Give Your Heart To”)。メランコリックなストリングスが陶酔を運んでくるダウンテンポでムーディーな歌唱に徹するUKのシンガー、コシマ(“No New Lies”)。ジャジーながらも音を削ぎ落としたトラックで落ち着いたラップを披露するバハマディア(“Something Like A War”)。そして、クロージングでコシマとともにアンビエント・ソウルの彼岸にリスナーを導くナディア・ナイーア(“Call It Down”)。多彩な声と多彩な音がしかし、カインドネスの〈ムード〉によって統合されていく。

『Something Like A War』収録曲“Hard To Believe feat. Jazmine Sullivan”

 

荒んだ時代の〈優しさ〉に満ちたダンス・ミュージック

すでに親交のあるケレラやサンファのプロデュースとしての参加、またジャズ・ピアニストのマティス・ピカードの演奏も含め、『Something Like A War』は大勢の人間の個性がぶつかり合うことなく共存している。それは何か、本作の、引いてはカインドネスの〈受容〉のフィーリングを表しているように思えてならない。2000年代のアンビエントを吸収したエレクトロニック・ミュージックから、2010年代のオルタナティヴR&Bへと至るなかで、よりスムースなサウンドを仕上げるにはたくさんの才能と交わることが必要だった――ベインブリッジはそのことを深く理解し、実践してきたのである。

カインドネスの〈優しさ〉に満ちたダンス・ミュージックは、他者への敬意と共感で溢れかえっている。それが、荒んだ時代にあまりにも心地いい。

『Something Like A War』収録曲“Cry Everything”

 


INFORMATION

2019年11月19日(火)東京・渋谷 WWW X
開場/開演:18:30/19:30
前売り(オールスタンディング):6,500円(税込/ドリンク代別)
※未就学児(6歳未満)入場不可
企画・制作・招聘:Live Nation Japan
協力:Beatink
お問い合わせ:info@livenation.co.jp
https://www.livenation.co.jp/artist/kindness-tickets

 

Kindness(カインドネス)最新作『Something Like A War』発売記念スペシャル・インストア・イベント
2019年11月18日(月)タワーレコード渋谷店 6F特設イベント・スペース
開始:20:00
イヴェント内容:サイン会
http://towershibuya.jp/2019/08/29/137608
参加方法:タワーレコード渋谷店にてカインドネス最新作『Something Like A War』(日本盤CD/輸入限定盤LP)もしくは来日公演前売りチケットをご購入いただいたお客様に、先着でイヴェント参加券をお渡しいたします。
※CD/LPをご予約いただいたお客様には優先的にイヴェント参加券を確保し、対象商品ご購入時にお渡しいたします。なお、チケットの販売(予約・取り置き不可)は9月7日より1Fのぴあカウンターで開始しております。ご注意ください
配券対象店舗:渋谷店
対象商品:カインドネス『Something Like A War』日本盤 CD(BRC609)/輸入限定盤LP(FEMNRGLP3C1)/来日公演前売りチケット(Pコード:162-759)※1Fぴあカウンターで販売中

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