INTERVIEW

思い出野郎Aチームは血の通ったソウルで明日を照らす――彼らが新作で向き合った、今、鳴らすべき音と言葉

思い出野郎Aチーム『Share the Light』

思い出野郎Aチームは血の通ったソウルで明日を照らす――彼らが新作で向き合った、今、鳴らすべき音と言葉

灯りを分けあうことで、パーティーは続く——声を上げざるを得ない現代に向け、ヴィンテージなソウル/ゴスペルの音と精神性をモダンに伝えるアルバムが完成!

声を上げざるを得ない

 2009年に多摩美術大にてバンドを結成してから今年で10周年を迎えた8人組バンド、思い出野郎Aチーム。メンバー間の熟成された関係性がそのまま投影された彼らのソウル・グルーヴは、より太く厚く、味わいを増し、リリースを重ねるごとに大きな成長を遂げてきた。そして、昨年発表のEP『楽しく暮らそう』では、バンドを離れていたオリジナル・メンバーであるトロンボーンの山入端祥太が復帰。鉄壁の布陣となった彼らが前作『夜のすべて』から2年ぶりとなるニュー・アルバム『Share the Light』を完成させた。

思い出野郎Aチーム Share the Light KAKUBARHYTHM(2019)

 「僕が離れている間にバンドの周囲の環境や規模はどんどん大きくなってましたけど、バンド内のやり取りはいい意味で全然変わってないんです。ただ、音楽的には演奏をどう効果的に聴かせるか、ということを以前よりも意識できるようになったと思います。そうしたバンドの成長を1曲目の“同じ夜を鳴らす”から披露することができて、プレイヤーとして手応えを感じましたね」(山入端祥太、トロンボーン)。

 「曲作りは僕がマコイチさん(高橋一、トランペット/ヴォーカル)の家に行って、2人でパソコンに向かい、打ち込んだドラムに対して僕がベースやギターを入れたり、メンバーが持ってきたコード進行を使ったりして、ああだこうだと意見しながら短いループを大量に作って。そうやって2人で作った曲の大枠をバンド内でアレンジしてまとめていくんですけど、一番最後に入れるメロディーと歌詞を活かすためにアレンジにゆとりを持たせる、そのさじ加減がやっとわかってきました」(長岡智顕、ベース)。

 毎日の生活と愛すべき音楽、友人や恋人と出掛ける週末のパーティー。音楽好きのシンプルにして豊かなライフ・スタイルを謳歌する彼らが、血の通ったソウル・グルーヴに乗せて描く歌の題材は変わらない。その軸がブレていないからこそ、本作が物語るバンドと周りを取り巻く状況の変化はいっそう際立っている。

 「国内外の分断やヘイトスピーチの問題は、できれば歌いたくないことではあるし、あまりに歌われなさすぎることでもあって。しかも、状況は目に見えて悪化していることを考えると、声を上げざるを得ないんですよね。

前作以上にコンシャスなメッセージが盛り込まれたもう一つの理由は、曲の作り方、アレンジが変わったことで、言葉の譜割も変わって、1曲に詰め込める情報量が増えたことも大きく関係していて。具体的には曲ごとに歌詞を書くのではなく、まず、歌いたいことをまとめて書いて、出来た曲ごとにテーマを設けながらパズルを組み合わせるように言葉を割り振っていったんですよ。作業としては時間がかかったんですけど、日常の描写とポリティカルなメッセージがブレンドされて、なおかつ、アルバムをまとめ上げる一貫したムードが熟成された作品になったんです」(高橋)。

 

ゴスペルの精神性

 どこにでもある日常の美しい風景とダンスフロアで鳴り響く音楽が象徴する、人と人の温かい繋がり。そして、そんな幸福のひとときと隣り合わせで存在する、分断や社会の闇。そのすべてをありのままに描いた本作では、チカーノ・ソウルに触発された“繋がったミュージック”から瑞々しいラテンのリズムが溢れ出したかと思えば、“それはかつてあって”では強烈なアフロビートと共に強いメッセージが投げ掛けられるが、“同じ夜を鳴らす”や“灯りを分けあおう”をはじめ、作品の大きな流れを生み出しているのは、甘くゆっくりと高まっていく感情と、心の平穏や安らぎが入り交じったゴスペルのフィーリングだ。

 「〈ゴスペル感〉は今回のキーワードの一つですね。僕は無神論者なんですけど、ゴスペルが内包する許しや祈りの感覚は今の自分にとって染みるものがあって、よくわからずに聴いてきた昔のソウル、ゴスペルで歌われていたメッセージが今の日本の社会において機能するように感じて。単純に過去は過去、今は今と切り離されたものではなく、その音楽とメッセージはシームレスに続いてきたものなんだなと腑に落ちたんです」(高橋)。

 ソウル、ゴスペルのサウンドと精神性を伝えるべく、過去と現在をどう繋げるのか。今回、彼らは曲作りの段階で、ネタとなる作品からサンプリング的にフレーズを引用し、バンドで弾き直す手法にトライしたという。

 「例えば、“朝やけのニュータウン”のサビに一瞬だけ出てくるエレピのフレーズはハロルド・メルヴィン&ザ・ブルーノーツ“Wake Up Everybody”の引用なんですけど、その曲は音だけじゃなく、歌っている内容も考慮した引用なんですね。この曲ではさらに今の流れを意識して、シカゴ・ソウルやサザン・ソウルのニュアンスとトラップのリズム・アプローチを自分たちなりに解釈した結果、意図せずしてオリジナルな曲になりました。

それから“夜明けのメロディー”ではファラオ・サンダース“Oh Lord, Let Me Do No Wrong”のリズムをレゲエのワン・ドロップとシャッフルが組み合わさったパターンに変えて引用したり、ブラックバーズ“Dreaming About You”の有名なブレイクを下敷きにした“パラダイスの夕暮れ”は曲名をアキ・カウリスマキの映画から取ったり。そうしたひねりを加えることで、ジャンルを横断したり、曲に広がりを持たせることができたんじゃないかなと思います」(高橋)。

 

現代性をいかに表現するか

 古いソウルやレア・グルーヴの引用とその現代的な再解釈をそれとなく忍ばせた楽曲は、温かく力強く、クリアな響きを持つ音の鳴りにもヴィンテージかつモダンな感覚が共存している。

 「〈現代性をいかに表現するか〉ということはずっと考えていたんですけど、例えば、少し前に流行っていたアーバンな、AOR的なテイストはリスナーとしては大好きなんですけど、現代でそれを鳴らす必然性を考えた時、僕らの音楽にはハマらなったし、今までは自分たちのなかで同時代性をうまく形にできなかったんです。ただ、ここ最近は人と人が分断された時代に抗うように、チャンス・ザ・ラッパーやサム・ヘンショウをはじめ、US、UKの現行アーティストによるソウルやゴスペル回帰の流れが活性化してきていますし、そのモダンな解釈が肌に合うようになってきた。

僕らの作品はどうしてもレトロ、オーセンティック、ヴィンテージということになりがちなんですけど、今回は時代のタイミングもあって、モダンな鳴りにしたかったんです。だから、ヴィンテージ機材を今まで以上に贅沢に使わせてもらいつつ、音の鳴りは、アンダーソン・パークの『Ventura』がそうであるように、J-Popとは違うバランス感で音が分離しつつ、ダンス・ミュージックのゴリッとした強さを求めて、タイラー・ザ・クリエイターやチャンス・ザ・ラッパーを手掛けているエンジニア、マイク・ボッジにマスタリングをお願いしたんです」(高橋)。

 コピーや模倣が容易になった現代にあって、本質は時として置き去りになりがちだが、今、鳴らすべき音と言葉に向き合った思い出野郎Aチームは、明日を照らすアルバム『Share the light』を見事モノにした。

 「ただ、無事にアルバムは出来たんですけど、これをライヴでどう演奏するのかは考えてなかったんです(笑)。まぁ、でも、それを考えるのが作品制作とは別の楽しみというか、アルバムとは違った血の通わせ方ができるんじゃないかと思っています」(長岡)。

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