〈モロ〉から逸脱したソウル~ファンクで、ウソのないウィークエンドのパーティーを!

週末のソウル・バンド

 煌めくミラーボールの下、昂揚感溢れるディスコとメロウなソウルを鳴らしてフロアを揺さぶる7人の男たち――その名も思い出野郎Aチーム。躍動感溢れるグルーヴに乗せて人生の哀しみと喜びを綴った前作『WEEKEND SOUL BAND』(2015年)で話題を集めた彼らが、ついに2年ぶりのニュー・アルバム『夜のすべて』を完成させた。本作は先行シングル“ダンスに間に合う”を発表したKAKUBARHYTHMからの初アルバム。同レーベルからのリリースとなった経緯について、トランペット&ヴォーカルの高橋一はこう説明する。

 「前からA&Rをやってくれてる仲原(達彦)君がKAKUBARHYTHMに入ったんですけど、彼から〈思い出野郎はKAKUBARHYTHM感があるからKAKUBARHYTHMから出せば?〉と言われて。YOUR SONG IS GOODのファースト(2004年作『YOUR SONG IS GOOD』)やSAKEROCKの黄色いDVD(2005年の『ぐうぜんのきろく』)も大好きだったし、KAKUBARHYTHMは高校生の頃から憧れのレーベルだったんですよ。自分たちの好きなことを好き勝手にやってるDIY感にも影響を受けたし、〈カテゴライズできないものをやってもいいんだ〉という指標になり続けてきたと思う」(高橋:以下同)。

 思い出野郎Aチームが結成されたのは2009年の夏。メンバー全員が多摩美術大学の同級生だった。

 「メンバーみんな古いソウルやハウスも好きなんですけど、アフリカのディスコを集中的に聴いていた時期があったんですよ。ナウ・アゲインやオーサム・テープス・フロム・アフリカの音源だとか、メンバーによってはハイライフにも興味を持つようになったり。僕はもともとパンクが好きだったんですけど、パンク好きな自分とダンス・ミュージックが好きな自分が混ざり合わない感覚がずっとあったんですね。でも、あるタイミングでJAGATARAを聴き直してみたらピンとくるものがあって」。

 JAGATARAやMUTE BEATが活動していた80年代後半の東京にあったボーダレスで雑多な魅力を継承しつつ、バンド形態でソウルやディスコを演奏することが改めてひとつのスタンダードとなった2010年代の時代性も巧みに盛り込む――プロデューサーにmanaguaを迎えたファースト・アルバム『WEEKEND SOUL BAND』ではそんなアクロバティックなことを成し遂げた彼らだが、同作のレコーディングは基本的に土日を使って行われたという。まさに文字通りのウィークエンド・ソウル・バンド!

 「平日は仕事がありますからね。そのスタンスは今も基本的に変わらない。練習は日曜の夜8時からやると決めていて、スタジオで3時間練習した後、最寄りのコンビニで缶ビールを飲んで帰るということを毎週やっています(笑)」。

 

音楽ぐらいはないと

思い出野郎Aチーム 夜のすべて KAKUBARHYTHM(2017)

 そんな前作から約2年半。骨太なライヴ・パフォーマンスの噂も広がるなか届けられたのが、今回のアルバム『夜のすべて』だ。

 「今回はみんなが共通して好きなモダン・ソウルであったりフィリー・ソウルで一枚作れたらいいんじゃない?という話になって。前作以上にスッと聴けるもの、ポップ・ミュージックとして成立するものにしたかったんですよね」。

 なお、高橋とバリトン・サックスの増田薫はG.RINAの2015年作『Lotta Love』にも参加。その次作にあたる彼女の最新アルバム『LIVE & LEARN』も80年代的なディスコ・ポップ~シンセ・ファンクへアプローチした作品だったが、近年のディスコ~ファンク・リヴァイヴァルの潮流に対して彼らはどのように考えているのだろうか。

 「今のトレンドは80年代からさらに90年代に移り変わってますよね。時流と逆走してるかもしれないけど、僕らは昔からダップトーンみたいにヒップホップ解釈で古めかしいことをやってるものが好きで。ダップトーンの作品って案外洗練されたものをミニマルにやってるんですよね。今回はそのあたりの感覚も取り入れたくて。確かに90年代のファンク~ソウルも好きなんだけど、自分たちは行きたくないというか……キャラクター的に行けない(笑)」。

 本作は金曜夜の退社シーンを思わせる“ダンスに間に合う”から始まる。週末の夜の乱痴気騒ぎとメロウな朝を経て、ラストの“月曜”でふたたびウィークデイへと戻るという、いわばウィークエンドの夜を巡るストーリー仕立ての構成となっている。

 「最後から2曲めの“大切な朝”は〈ここにもう1曲明るくてアッパーな曲が欲しいよね〉という話になって、全体の流れを踏まえて新しく作った曲なんですね。前作はライヴでやってた曲をまとめたものだったので、ある意味、みんなで初めてフル・アルバムを作ったという感覚があるんですよ」。

 愛すべき友人たちについて歌う“アホな友達”、〈ダンスビートとあの子が夜のすべて〉というリフレインに心が揺さぶられる“夜のすべて”、アフロ調のリズムを敷いたメロウ・ファンク“生活リズム”、彼らならではのアーバン・レゲエ“フラットなフロア”、スタックス的なサザン・ソウル“彼女のダンス”など、しなやかさを増した思い出野郎流ソウル~ファンクが次々に飛び出してくる。そこに加え、本作を特別なものにしているのが高橋の歌唱だ。決して器用なタイプなどではなく、無骨で骨太。そこには〈でも、やるんだよ!〉という男の哀愁もじっとりと滲む。

 「ソウルやディスコをやるにしても、メンバーみんなモロなスタイルでやることに抵抗感のある人たちなんですよ。僕みたいにガラガラ声のヤツが歌ってるからこそコテコテのソウルもできるというか(笑)」。

 今回のリード曲となるのが極上のメロウ・ダンサー“ダンスに間に合う”。先述したように金曜夜の退社シーンを綴った曲かと思いきや、高橋は「ダンスに限らず、手遅れになりつつあることって結構あると思うんですよ」と話す。

 「社会が取り返しのつかない方向に向かってるんじゃないかっていう不安がすごくあって、それに対して〈まだ音楽は鳴っている〉ということをこの曲では歌いたかった。自分たちは身の回りのことをモチーフとして曲を書いている以上、社会に漂う不穏なものを歌うのは自然なこと。そうことを書かないと、いくらパーティーのことを歌ってもウソになっちゃうと思うんです」。

 生きているといろんなことがあるし、世の中は気が滅入るようなことばかり。それでもパーティーはまだ続いている。この『夜のすべて』から伝わってくるのは、〈僕らには音楽が必要なんだ〉という切実な思いだ。

 「音楽ぐらいないとやってられないというか(笑)。自分にとっては音楽が人生唯一の無駄な部分なんですよ。なくなってしまうと、あとはシステマティックに生きていくだけになってしまうんですね、自分の場合」。

 音楽を愛するすべての人に思い出野郎Aチームを。ダンスにはまだ間に合います。

思い出野郎Aチームのメンバーが参加した作品を一部紹介。

 

関連盤を紹介。