みずからの音楽的なモードへ忠実に鳴らされる僕らのソウル・ミュージック! 日常に根差した〈楽しく暮らそう〉というメッセージに、何だか胸が疼いて仕方ないんだ……
自分たちを客観視
昨年8月にKAKUBARHYTHMからリリースされた思い出野郎Aチームのセカンド・アルバム『夜のすべて』は、各種ソウルのエッセンスを散りばめながら、彼らならではの世界観を描き出した傑作だった。なかでも彼ら流のメロウ・ダンサー“ダンスに間に合う”はクラブ・ヒットを記録。7インチ・シングルは一瞬のうちに店頭から姿を消した。
「ファースト(2015年作『WEEKEND SOUL BAND』)で持ち曲を全部入れちゃったんで、『夜のすべて』のレコーディングは必死だったんですよ。いろんな人に聴いてもらえるようキャッチーにしようと思ってたし、ソウルに絞ったぶん、DJの人たちにも使ってもらえたらいいなとは思ってました。だから、“ダンスに間に合う”があちこちでかけてもらえたのは嬉しかったですね。小さなクラブで遊ぶなかで実感を持ってあの歌詞を書いたので、クラブで遊んでる人たちと自然に共有できるものがあったのかもしれない」(高橋一、トランペット/ヴォーカル:以下同)。
今年に入ってからはNegiccoの『MY COLOR』やlyrical schoolの『WORLD'S END』にも作家として参加。それまで経験のなかったアイドル・グループとのコラボレーションということもあり、彼らにとって得るものは大きかったようだ。
「前は自分たちがやりたいものだけをやっているという感覚だったんですけど、彼女たちとのコラボのなかで、自分たちに求められているものを意識するようになりました。リリスクみたいにトラックだけ作って歌詞は他の人が書くというケースも今までなかったし、普段、自分たちの曲を作ってるときとは違う脳を使った感じですね。自分たちを客観視できるようになったというか」。
音楽的なふたつのモード
そうしたコラボレーションに加え、前作以降ライヴの本数も増えたことで、高橋いわく「バンドの勢いが増してるし、音楽をやるのがどんどん楽しくなってきている状態」。そんな好調ぶりを存分に発揮したのが、今回リリースされた5曲入りのEP『楽しく暮らそう』だ。フル・アルバムというフォーマットを活かして一晩の物語をドラマティックに描写した『夜のすべて』に対し、今回はライヴを重ねるなかで培われてきたバンドの勢いが全面に。収録曲は5曲ながら、聴き応えのある作品となった。
「前回のレコーディングはクリックを聴きながらかなり細かく録っていったんですけど、今回は〈気持ちのいい揺れ〉みたいなものも表現できればと思っていて。ライヴ感を大事にしたし、それが勢いに繋がってるのかもしれない。そのぶん練習を重ねて、何度もテイクを録りましたね」。
また、高橋は「自分たちの今の音楽的なモードは2種類あるんですよ」とも話す。
「ひとつはシカゴ・ソウルとノーザン・ソウル。J-Popのなかでいまあまりない要素だと思うんですけど、このバンドだったらおもしろくできるんじゃないかと思って。もうひとつあったのが、ジャンル・ミュージックではない自分たちのオリジナリティーを形にすること。そこにはNegiccoやリリスクのレコーディングの経験が活きてるかもしれない」。
本作はシカゴ・ソウルの雰囲気たっぷりの“楽しく暮らそう”で幕を開け、高橋が「ジャッキー・ウィルソン歌謡をイメージしていた」と話す彼ら流のノーザン・ソウル“去った!”と続く。「最初はメロウ・ディスコとして作ってたんですけど、コネくりまわした結果、ディスコ・レゲエになってました(笑)」という“無許可のパーティ”でさらにテンションを上昇させると、熱帯夜メロウ・ファンク“サマーカセット”、さらには「最初ゴスペル感をイメージして作りはじめたんですよ。PJモートンみたいなゴスペル感がありつつモダンなものを自分たちなりにやろうとしたら合唱みたいになっちゃって(笑)」という“僕らのソウルミュージック”で新機軸も垣間見せる。
「自分たちとしてはクラッシュの『Sandinista!』のイメージもあったんですよ。あのアルバムにはジャッキー・ウィルソン的なソウルやレゲエの曲も入っていて、そういうゴチャ混ぜ感を想定していたというか。“去った!”もジャッキー・ウィルソンの曲をクラッシュがカヴァーしてるイメージなんです(笑)」。
共有する問題意識
そのように多種多様な楽曲を貫いているのが、現代社会に対する高橋の眼差しだ。風営法以降の都市部の現状が色濃く反映された“無許可のパーティー”を筆頭に、各曲の歌詞には高橋とメンバーが共有する問題意識が映し出されている。
「自分は生活のなかで感じたことしか書けないタイプなんで、こういう世の中になると、〈ただ単に楽しい歌〉がどうしても書けないんです。世の中がどんどん悪化していて、〈楽しく暮らそう〉という言葉ですらポリティカルな意味を持ちかねなくなっている。いろんな主義主張を持つ人たちがいるわけですけど、楽しく暮らしたいという思いはみんな一緒だと思うんですよね。この作品はそういう問い掛けでもあって」。
前作『夜のすべて』との大きな違いは、その問い掛けの対象がより広範囲に及んでいるということだ。〈クラブの住人たちによる、クラブの住人たちに向けたメッセージ〉という側面もあった前作に対し、今回の彼らはクラブから路上に出て、行き交う人々にこう問い掛けている――〈誰でもここに居て良いだろう/誰もが許し合えるだろう/少しは助け合えるだろう/これから君と〉(“楽しく暮らそう”)。
「〈クラブ〉というシェルターも風営法のなかで奪われかねないし、これからは〈暮らし〉のなかでメッセージを歌っていかないといけないだろうなと。そういうことは考えていました。ただ、ひとつの思想を押し付けるんじゃなくて、たとえわかり合えなかったとしても、お互いの存在を認め合うことが必要だと思ってるんですよ。それが〈誰でもここに居て良いだろう〉という歌詞に繋がってくるんです」。
なお、前作のレコ発からオリジナル・メンバーである山入端祥太(トロンボーン)が復帰。本作は8人編成に戻ってから初めての音源となる。
「彼がいないことがみんなどこかで引っ掛かってたんですよ。やっと全員揃ったという思いもあるし、アンサンブルの幅も広がった。8人で初めての作品ということも自分たちとしては大きいんです」。
ようやくバンドの体制が整い、さらなる好調期に入った思い出野郎Aチーム。今も彼らは毎週1回スタジオで3時間の練習を行い、練習後には最寄りのコンビニで缶ビールを開ける生活を続けている。そんな彼らが奏でるソウル・ミュージックが、今日も誰かの心をノックする。
思い出野郎Aチームの作品。
バンドの好調ぶりに繋がるメンバーの外仕事たち
バンドのコンディションがどんどん上昇している思い出野郎Aチームの好調ぶりの理由には、作家や演奏者として携わった外部仕事からの良いフィードバックもある模様。まず、本文にもある楽曲提供ものとしては、Negiccoへの“スマホに写らない”と、lyrical schoolへの“オレンジ”が。前者は女性らしい煌めきを散りばめたソウル・ポップで、後者は主役のラップをファンキーに支えるグルーヴィーなナンバーでそれぞれのアイドル性を際立たせつつ、特にNegiccoのほうは歌詞も高橋が手掛けているせいか、思い出野郎によるセルフ・カヴァーも聴いてみたいほどにより〈らしい〉仕上がり。そのほか、NHK Eテレの子供向け番組「シャキーン!」には “逆にパワー”を書き下ろしており、軽快なバブルガム・ソウルに乗せて逆境を力に変える秘訣(?)を番組の登場キャラ・モモエと共に歌い上げている。
また、高橋一(トランペット)と増田薫(サックス)、山入端祥太(トロンボーン)らのホーン隊を中心に、メンバーはプレイヤーとして多くの作品に参加。chelmico“OK, Cheers!”、一十三十一“Swept Away”といった近作に加え、VIDEOTAPEMUSICやEnjoy Music Club、高橋飛夢などの作品にも招かれており、溌剌とバウンスするナンバーからトロピカル・ラウンジーなムードに浸る楽曲まで、その世界観を増幅するアクセント役を担当。さらに異色なところでは、Alfred Beach SandalとSTUTSのコラボ曲“Quiet Blue”が。STUTSが思い出野郎によるソウル由来の演奏をサンプリングし、極上のAORに仕立てている。 *土田真弓
関連盤を紹介。
『楽しく暮らそう』をもっと楽しく聴くためのサブテキスト

“去った!”の発想源となったのは、60s後半~70s中盤にかけてシカゴ・ソウルの盛り上がりを支えたブラウンズウィックの看板シンガー。一時の低迷からの復活を決定付けた表題曲をはじめ、自然と心が浮き立つゴキゲンなグルーヴは思い出野郎と共に体感したいものだ。

思い出野郎の初作をプロデュースした人気者による6年ぶりのソロ最新作。外仕事ではスマートなソウル・テイストを日本のポップ・シーンに注入してきた人だが、本作は80sのクリスタルなムードを持つナンバーがあったりの独自視点。時流に寄りすぎず、内なる興味と普遍性に従った逸品だ。

ロンドン・パンク勃興の礎となったバンドがレゲエ~ダブやディスコ~ファンクなどにも手を伸ばし、アプローチの幅を大きく広げた3枚組の大作。歌詞はレベル・ミュージックとしての色も濃く、サウンドの複合性のみならず、思い出野郎とは精神性も少なからずリンクする面が。

マルーン5の一員としても活躍する鍵盤奏者/自作自演家のゴスペルを基盤とする作風は“僕らのソウルミュージック”の発端に。スティーヴィー・ワンダーを想起する“First Began”で始まる本作は、ルーツィーな温もりと上品さを併せ持つ豊穣なソウル/R&Bがどこまでも沁みる。
夏の終わりに特有の切なさを滲ませる“サマーカセット”あたりを好む方には、前作で〈ハワイ愛〉を音源化したトラックメイカーによるこの続編を。日常に根差す思い出野郎とは対極に、こちらはエキゾ&ラウンジーな〈空想の楽園〉に響く晩夏のサウンドトラックだ。

『楽しく暮らそう』における“サマーカセット”路線と共振するトークボクサー/シンガー・ソングライター。最新作に収録の“トロピカルダメージ”には高橋一も参加しており、思い出野郎とは音と言葉に〈日常から派生するメロウネス〉が託されている点で共通。

