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〈踊る〉ことは、何かを振り払う仕草とも言えるのかな?

――今作は、サウンドもそうですが歌詞も全体的に不穏で悪夢のようで、希望の中に悲しさがあり、絶望の中に喜びがあるような不思議な世界観だなと思いました。

「きっと、自分が思っていることを全部そのまま吐き出していたとしたら、めっちゃ暗い歌詞になっちゃうので(笑)、そこから希望が見出せるものにしたいなと思って。〈OBLIVION=忘却〉という意味のアルバム・タイトルも、すごくポジティヴな意味でつけたんです」

――というと?

「忘れることって、ネガティヴに捉えられることも多いと思うんですけど、でも辛いことや悲しいこと、苦しいことは忘却しても絶対にどこかに残っているものじゃないですか? 〈だったら忘れるくらいでちょうどいいんじゃないかな〉と思ったことがあって。それに、忘れることによって、新しいものが自分の中に入ってくるということもある。そこから〈OBLIVION〉というタイトルが浮かんだんです。

あと、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の一節を、“Luminous”の歌詞の英語の部分で引用していて。〈太陽が見えていなくても、そこにあることを知っていれば生きていける〉みたいな意味なんですけど、それもすごくしっくりきて。自分が辛いとか、行き詰まっていると感じる時に、どこかには絶対に希望は存在していて、いまはただそれが見えにくくなっているだけなんだって。それがすごく腑に落ちて、そこから曲が生まれていったんです」

『OBLIVION e.p.』収録曲“Luminous”
 

――“Luminous”は〈気が触れないように踊っているの〉という冒頭のラインがものすごくインパクトありますよね。

「〈踊る〉という行為は、楽しくて体を動かすだけじゃなくて、何かを振り払う仕草ともいえるのかなって。何か嫌になっちゃった時とか、爆音で音楽をかけながら一人部屋で体を揺らすのって、それに近いと思うんですよ。振り払わないとおかしくなっちゃうから、とにかく踊るっていう、そういうイメージが湧いてきたんです」

――ダンス・ミュージックの要素は、サウンド面でも以前より強まっていますよね。

「私、ホラーズの“Something To Remember Me By”という曲がすごく好きで。それまでの彼らの楽曲にはなかったタイプのアレンジなんですけど、それをライヴ(2017年の〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER〉)で演奏していた時の高揚感というか、みんなが楽しそうに踊っている感じもすごく良くて。ああいう感じの楽曲を作りたいなという思いがなんとなくあったんです。そこから試行錯誤していく中で、声のループやピアノの音とかが出来ていって。それを橋本さんに送り、〈ニューウェイヴっぽくしたいんです〉みたいに話していく中で、ああいう形になっていきました」

ホラーズの2017年作『V』収録曲“Something To Remember Me By”

 

MINAKEKKEが考えるシューゲイザー

――今回、3曲のミュージック・ビデオをミラーレイチェル智恵さんが監督していますね。

「知り合いのバンドの友達で、私が対バンした時にたまたま観てくれて。それでTwitterでフォローし合うようになったら、好きなものとかいろいろ共通点を感じていたんです。それで、今回MVを作るとなった時にパッと頭に浮かんだのがレイチェルさんだったんですよね。

それに、さっき話したバックグラウンド・ストーリーが女の子の話だったので、今回は同世代の女性作家さんとコラボがしたかったんです。前作の時に作ったMVでは、自分の中にあった映像の世界観を細部まで伝えてカタチにしてもらったのですが、今回は曲のざっくりとしたイメージを伝えつつも、レイチェルさんの思う楽曲のイメージを自由に映像化してもらうことにしました」

――実際に出来上がってきたものを観て、どんなふうに感じましたか?

「不思議な感じでした(笑)。〈自分が作った楽曲を、人が映像化するとこうなるんだ!〉という驚きとともに、観れば観るほどいろんな発見があって。周りの人からも反響を沢山いただいたし、〈ああ、お願いしてよかったな〉って。もう、何回も観ています(笑)」

――“Luminous”でのカーテンとか、デヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』を彷彿とさせますよね。夢と現実、生と死の狭間というか。

「なるほど(笑)。特に最初から意図していたわけではなくて、撮影で借りたアトリエにいい感じのカーテンがあったので〈そこでも撮ろう〉ってなって。なので、たまたまです」

――そうでしたか(笑)。“Acid”はストリングスの感じとか、ビートの感じとかポーティスヘッドを連想します。

「最初、ストリングスのフレーズはものすごく歪んだシンセの音だったのを、アレンジの段階で差し替えてもらいました。あの曲は、ローンとかあのあたりの不思議なリズムに触発されましたね」

『OBLIVION e.p.』収録曲“Acid”
 

――“Golden Blue”は、今作の中では少しだけ異色ですよね。さっきの僕の感想でいうと〈希望の中に悲しさがある曲〉がこれだなと。

「確かにそうですね。この曲は『ヴァージン・スーサイズ』でいうと、一番綺麗な場面を曲にした感じ。ひたすらにロマンティックな曲を作りたいと思ったんですよね」

――イントロのギターも印象的です。

「デモの段階で思いついたフレーズを、レコーディングの時にギターで弾き直してもらいました。ちょっとシューゲイザーっぽい感じというか」

――前作に収録された“L.u.x.”も、ある意味シューゲイザー的なアプローチでしたが、ミナコさんの〈シューゲイザー観〉ってどんなものですか?

「シューゲイザーって、わりと定義が曖昧じゃないですか。轟音だったらいいというわけでもないし、囁いていればいいかというと、そういうわけでもない。それぞれの解釈の仕方はあると思うんですけど、私としてはやっぱり耽美的という部分と、轟音が混じり合う感覚というか。元々は相反する要素が組み合わさっているのがシューゲイザーなのかなと思うんですよね。この曲も、そういうふうにしたかったんです」

――“Oblivion”は壮大というか、MINAKEKKEの音楽性のシネマティックな部分を象徴している曲だなと思いました。

「この曲は『ストレンジャー・シングス』の音声をミュートして、映像を観ながら〈これに合う曲を作りたいな〉とか思って作りました。後奏の部分がほとんどインストになったのも、おそらくそういう作り方をしたからだと思います。劇伴っぽい作り方というか。あと、ドラムをダブルで録ったりしているんですけど、それは橋本さん曰く〈クラウトロックを意識した〉そうです(笑)」