シンガー・ソングライター、ユイミナコのソロ・プロジェクトMINAKEKKEが、前作『TINGLES』からおよそ2年5か月ぶりとなる新作『OBLIVION e.p.』をリリースする。

アコースティック・ギターとヴォーカルを基軸としつつ、ドラムやファゴット、エレキ・ギターなど必要最小限の楽器を加えた前作は、シンプルながらアシッド・フォークやシューゲイザー、ドリーム・ポップ、トリップホップなどさまざまな音楽的要素を感じさせる意欲作だった。引き続き共同プロデューサーに橋本竜樹、レコーディング&ミックス・エンジニアに葛西敏彦を迎えて制作された本作は、よりヘヴィーでシアトリカル、かつプログレッシヴなサウンドへと進化を遂げ、不穏で謎めいた歌詞世界が聴き手の想像力を掻き立てる内容となっている。一方、ヒリヒリとした緊張感と、包み込むような優しさを兼ね備えた彼女のヴォーカリゼーションは相変わらず健在で、心のひだにまで深く染み渡っていくようだ。

前作のリリース以降、自主企画イヴェントやワンマン・ライブ、〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉への出演など、精力的な活動を続けてきたMINAKEKKE。彼女は今回、どのような思いで新作のレコーディングに臨んだのだろうか。

★imdkmによる『OBLIVION e.p.』レヴュー記事はこちら

MINAKEKKE OBLIVION e.p. SUZAK MUSIC/IDEAL MUSIC LLC.(2019)

 

「ストレンジャー・シングス」、ニューウェイヴ……キーワードは〈80年代〉

――2017年にリリースされたファースト・アルバム『TINGLES』はいまも名盤だと思っているのですが、振り返ってみてどのように捉えていますか?

「まだ自分でも咀嚼しきれていない部分もあるんですけど、この間、『OBLIVION e.p.』が完成した後に久しぶりに聴きなおしてみたら、純粋にすごくいいアルバムだなって思えました(笑)。レコーディング自体は20代になってから行なってはいるのですが、そこに収録されている楽曲は10代の頃の自分について歌っていたので、本当にメモリアル的な意味でも作って良かったなと思いましたね」

――実際にリリースしてみて、その反響や反応はどうでした?

「それまでは弾き語りというか、1人で演奏していた楽曲も多くあったので、そういう意味でファンの方たちは〈どんなふうに受け止めてくれるんだろう?〉という不安はありました。でも、意外とそこはすんなり〈いいね〉って言ってもらえて。そこでちょっと呪縛が解けたというか(笑)。〈アコギを持って、一人で活動している〉という先入観を持たれたくないなと思っていたので、『TINGLES』が出来て、それが受け入れられたことですごく安心しました。それがあったからこそ、今作への道筋が出来たのかなと思っています」

――音楽だけでなく、アートワークや衣装なども含めたトータル・イメージで、MINAKEKKEの世界観を打ち出していくということも積極的にやっている印象です。

「昨年やっていた自主企画イヴェント〈Broken Beauties Club〉はそうでした。フルートやファゴットと一緒に小編成でやるイヴェントだったんですけど、ゆくゆくはちょっとしたコミューンみたいなことができたらいいなと思っています」

――前回のインタヴューでも映画好きを公言していました。SNSでも観た映画の感想を時々綴っていますけど、『TINGLES』以降で印象に残った映画というと?

「うーん、新作への影響に関していえば、例えば音色だと『ストレンジャー・シングス』からインスパイアされたところは多いですね。表題曲“Oblivion”のシンセ音とか」

――「ストレンジャー・シングス」は80年代を舞台にした作品で、そういえばSpotifyにあげていたプレイリスト〈How to make “Luminous”〉にも、80年代の洋楽がたくさん含まれていましたよね。今作のキーワードの一つは〈80年代〉なのかなと。

「前作をリリースして改めて自分の好きな音楽について考えてみた時、いろいろ聴くけれども一番好きというか、引っかかる音楽ジャンルは80年代のニューウェイヴなのかなって。あの時代の人たちって、ヴィジュアルとかめちゃくちゃ細部までこだわっているじゃないですか。中には〈こだわり過ぎなんじゃない?〉という人もいるけど(笑)、それもまた愛おしいって思えるんですよね。どこかちょっと、いい意味でチープな部分があったり、もちろんカッコいいんだけど、なんともいえない〈イビツさ〉があったりするのが魅力なのかもしれないです」

――それは、ミナコさんが好きなダーク・ファンタジーやディズニーの世界観とも通じる部分はあると思いますか?

「あるかも知れないですね。小さい頃からティム・バートンの『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』が好きだったり、ディズニーランドのホーンテッドマンションのゴシックな世界観に魅了されたりして(笑)。怖いけど惹かれる、みたいな。昔のディズニー映画って、いまよりも悪役が怖かったりして。そういう感覚が、後々いろんなアートや音楽に触れていく中で繋がっていったのかも知れないですね」

 

スタートは架空のバックグラウンド・ストーリー

――では、今作『Oblivion』は具体的にはどんなふうに取り掛かっていったのでしょうか。

「最初に話したように、前作『TINGLES』ですべて出し切った感があったので、〈次どうしよう?〉となった時、まずは〈バックグラウンド・ストーリー〉的なものを創作してみたんです。内容としては映画の『ヴァージン・スーサイズ』(99年)に通じるようなストーリーというか。プロムで踊って、わーって消えていく……みたいな。わかりにくいですかね(笑)」

『OBLIVION e.p.』収録曲“Golden Blue”
 

――(笑)。ちょっとした小説のようなものをまず作ったわけですね。

「そうなんです。例えば歌詞を書く時などに、自分の経験だけだと書けない時ももちろんあって。そういう時に〈脚本家ってどうしているんだろう?〉と思って、Amazonで〈ハリウッド式脚本術〉みたいな本を購入してみたんですよ(笑)。全然マジメには読んでないんですけど、チラチラと重要な部分だけ読んだりして。それを参考に、ストーリーみたいなものを今回初めて描いてみたんです」

――他の曲も、このバックグラウンド・ストーリーがベースになって生まれたのですか?

「がっつり結びついているわけでもないですし、このストーリーを考える前から出来ていた曲もあるんですけど、そうやって出来た曲や、いま話したバックグラウンド・ストーリーをプロデューサーの橋本竜樹さんに渡して世界観を共有してもらい、アレンジの相談などしながら一緒に詰めていくうちに、今回の5曲が固まっていった感じです。そういう意味では、EPとはいえアルバムのような統一感があると思いますね」

――橋本さんとのやり取りも、前作より密になった感じがしますね。

「そうですね。前作ではまだお互い〈探り合い〉みたいなところがあったと思うんですけど、今回は私自身も曲の作り方が変わって。歌とギターだけじゃなくて、〈ギターから離れて作ってみよう〉と思った曲も結構増えたんです。パソコンの中だけで曲が作れるという環境にハマったところもあって、Logic Pro(Apple社の音楽制作ソフト)で打ち込みなどしていく中で、自分がどんな曲を作りたいのか前作よりも具体的に形にできるようになって。シンセの音選びなども、前よりも上手くなっていったんですよね。しかも、以前よりも気軽に作れるようになったというか。2時間半の大作映画を作るくらいの気持ちだったのが、ちょっとした短編映画を作るような感じで作れるようになったのは大きかったですね」

――ちなみに、架空のストーリーを創作するのは昔から好きだったのですか?

「学生の頃とか日記っぽい感じで、ちょっとした短編ストーリーみたいなものをちょこちょこ書いていました。あと、小さい頃は漫画を描くのが大好きだったので、何かしら物語を創作することを昔からやってはいたんですよね。それがいまは、歌詞を書いたり曲を作ったりすることへ移行していったというか、それでしばらく物語を書くことはしていなくて。歌詞のような字数の制限など気にせず、自由に文字を書いたのは大学の卒論やレポート以来だったので、すごく楽しくてスラスラ進んだんだと思います(笑)」