シンガー・ソングライター、ユイミナコのソロ・プロジェクトMINAKEKKEが、前作『TINGLES』からおよそ2年5か月ぶりとなる新作『OBLIVION e.p.』をリリースする。
アコースティック・ギターとヴォーカルを基軸としつつ、ドラムやファゴット、エレキ・ギターなど必要最小限の楽器を加えた前作は、シンプルながらアシッド・フォークやシューゲイザー、ドリーム・ポップ、トリップホップなどさまざまな音楽的要素を感じさせる意欲作だった。引き続き共同プロデューサーに橋本竜樹、レコーディング&ミックス・エンジニアに葛西敏彦を迎えて制作された本作は、よりヘヴィーでシアトリカル、かつプログレッシヴなサウンドへと進化を遂げ、不穏で謎めいた歌詞世界が聴き手の想像力を掻き立てる内容となっている。一方、ヒリヒリとした緊張感と、包み込むような優しさを兼ね備えた彼女のヴォーカリゼーションは相変わらず健在で、心のひだにまで深く染み渡っていくようだ。
前作のリリース以降、自主企画イヴェントやワンマン・ライブ、〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉への出演など、精力的な活動を続けてきたMINAKEKKE。彼女は今回、どのような思いで新作のレコーディングに臨んだのだろうか。
★imdkmによる『OBLIVION e.p.』レヴュー記事はこちら

「ストレンジャー・シングス」、ニューウェイヴ……キーワードは〈80年代〉
――2017年にリリースされたファースト・アルバム『TINGLES』はいまも名盤だと思っているのですが、振り返ってみてどのように捉えていますか?
「まだ自分でも咀嚼しきれていない部分もあるんですけど、この間、『OBLIVION e.p.』が完成した後に久しぶりに聴きなおしてみたら、純粋にすごくいいアルバムだなって思えました(笑)。レコーディング自体は20代になってから行なってはいるのですが、そこに収録されている楽曲は10代の頃の自分について歌っていたので、本当にメモリアル的な意味でも作って良かったなと思いましたね」
――実際にリリースしてみて、その反響や反応はどうでした?
「それまでは弾き語りというか、1人で演奏していた楽曲も多くあったので、そういう意味でファンの方たちは〈どんなふうに受け止めてくれるんだろう?〉という不安はありました。でも、意外とそこはすんなり〈いいね〉って言ってもらえて。そこでちょっと呪縛が解けたというか(笑)。〈アコギを持って、一人で活動している〉という先入観を持たれたくないなと思っていたので、『TINGLES』が出来て、それが受け入れられたことですごく安心しました。それがあったからこそ、今作への道筋が出来たのかなと思っています」

――音楽だけでなく、アートワークや衣装なども含めたトータル・イメージで、MINAKEKKEの世界観を打ち出していくということも積極的にやっている印象です。
「昨年やっていた自主企画イヴェント〈Broken Beauties Club〉はそうでした。フルートやファゴットと一緒に小編成でやるイヴェントだったんですけど、ゆくゆくはちょっとしたコミューンみたいなことができたらいいなと思っています」
どっかのオシャレでリラックスできるカフェでも貸し切って、プロジェクターとかスピーカー用意して好きな映画や音楽を夜通し流して、美味しいご飯を食べながら語り合う秘密の会合を開きたい(イヌネコ飼ってる人は同伴で)
— MINAKEKKE(Minako) 9/25 OBLIVION e.p. Release (@mairline) December 27, 2018
――前回のインタヴューでも映画好きを公言していました。SNSでも観た映画の感想を時々綴っていますけど、『TINGLES』以降で印象に残った映画というと?
「うーん、新作への影響に関していえば、例えば音色だと『ストレンジャー・シングス』からインスパイアされたところは多いですね。表題曲“Oblivion”のシンセ音とか」
――「ストレンジャー・シングス」は80年代を舞台にした作品で、そういえばSpotifyにあげていたプレイリスト〈How to make “Luminous”〉にも、80年代の洋楽がたくさん含まれていましたよね。今作のキーワードの一つは〈80年代〉なのかなと。
「前作をリリースして改めて自分の好きな音楽について考えてみた時、いろいろ聴くけれども一番好きというか、引っかかる音楽ジャンルは80年代のニューウェイヴなのかなって。あの時代の人たちって、ヴィジュアルとかめちゃくちゃ細部までこだわっているじゃないですか。中には〈こだわり過ぎなんじゃない?〉という人もいるけど(笑)、それもまた愛おしいって思えるんですよね。どこかちょっと、いい意味でチープな部分があったり、もちろんカッコいいんだけど、なんともいえない〈イビツさ〉があったりするのが魅力なのかもしれないです」
――それは、ミナコさんが好きなダーク・ファンタジーやディズニーの世界観とも通じる部分はあると思いますか?
「あるかも知れないですね。小さい頃からティム・バートンの『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』が好きだったり、ディズニーランドのホーンテッドマンションのゴシックな世界観に魅了されたりして(笑)。怖いけど惹かれる、みたいな。昔のディズニー映画って、いまよりも悪役が怖かったりして。そういう感覚が、後々いろんなアートや音楽に触れていく中で繋がっていったのかも知れないですね」
スタートは架空のバックグラウンド・ストーリー
――では、今作『Oblivion』は具体的にはどんなふうに取り掛かっていったのでしょうか。
「最初に話したように、前作『TINGLES』ですべて出し切った感があったので、〈次どうしよう?〉となった時、まずは〈バックグラウンド・ストーリー〉的なものを創作してみたんです。内容としては映画の『ヴァージン・スーサイズ』(99年)に通じるようなストーリーというか。プロムで踊って、わーって消えていく……みたいな。わかりにくいですかね(笑)」
――(笑)。ちょっとした小説のようなものをまず作ったわけですね。
「そうなんです。例えば歌詞を書く時などに、自分の経験だけだと書けない時ももちろんあって。そういう時に〈脚本家ってどうしているんだろう?〉と思って、Amazonで〈ハリウッド式脚本術〉みたいな本を購入してみたんですよ(笑)。全然マジメには読んでないんですけど、チラチラと重要な部分だけ読んだりして。それを参考に、ストーリーみたいなものを今回初めて描いてみたんです」
――他の曲も、このバックグラウンド・ストーリーがベースになって生まれたのですか?
「がっつり結びついているわけでもないですし、このストーリーを考える前から出来ていた曲もあるんですけど、そうやって出来た曲や、いま話したバックグラウンド・ストーリーをプロデューサーの橋本竜樹さんに渡して世界観を共有してもらい、アレンジの相談などしながら一緒に詰めていくうちに、今回の5曲が固まっていった感じです。そういう意味では、EPとはいえアルバムのような統一感があると思いますね」
――橋本さんとのやり取りも、前作より密になった感じがしますね。
「そうですね。前作ではまだお互い〈探り合い〉みたいなところがあったと思うんですけど、今回は私自身も曲の作り方が変わって。歌とギターだけじゃなくて、〈ギターから離れて作ってみよう〉と思った曲も結構増えたんです。パソコンの中だけで曲が作れるという環境にハマったところもあって、Logic Pro(Apple社の音楽制作ソフト)で打ち込みなどしていく中で、自分がどんな曲を作りたいのか前作よりも具体的に形にできるようになって。シンセの音選びなども、前よりも上手くなっていったんですよね。しかも、以前よりも気軽に作れるようになったというか。2時間半の大作映画を作るくらいの気持ちだったのが、ちょっとした短編映画を作るような感じで作れるようになったのは大きかったですね」
――ちなみに、架空のストーリーを創作するのは昔から好きだったのですか?
「学生の頃とか日記っぽい感じで、ちょっとした短編ストーリーみたいなものをちょこちょこ書いていました。あと、小さい頃は漫画を描くのが大好きだったので、何かしら物語を創作することを昔からやってはいたんですよね。それがいまは、歌詞を書いたり曲を作ったりすることへ移行していったというか、それでしばらく物語を書くことはしていなくて。歌詞のような字数の制限など気にせず、自由に文字を書いたのは大学の卒論やレポート以来だったので、すごく楽しくてスラスラ進んだんだと思います(笑)」

〈踊る〉ことは、何かを振り払う仕草とも言えるのかな?
――今作は、サウンドもそうですが歌詞も全体的に不穏で悪夢のようで、希望の中に悲しさがあり、絶望の中に喜びがあるような不思議な世界観だなと思いました。
「きっと、自分が思っていることを全部そのまま吐き出していたとしたら、めっちゃ暗い歌詞になっちゃうので(笑)、そこから希望が見出せるものにしたいなと思って。〈OBLIVION=忘却〉という意味のアルバム・タイトルも、すごくポジティヴな意味でつけたんです」
――というと?
「忘れることって、ネガティヴに捉えられることも多いと思うんですけど、でも辛いことや悲しいこと、苦しいことは忘却しても絶対にどこかに残っているものじゃないですか? 〈だったら忘れるくらいでちょうどいいんじゃないかな〉と思ったことがあって。それに、忘れることによって、新しいものが自分の中に入ってくるということもある。そこから〈OBLIVION〉というタイトルが浮かんだんです。
あと、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の一節を、“Luminous”の歌詞の英語の部分で引用していて。〈太陽が見えていなくても、そこにあることを知っていれば生きていける〉みたいな意味なんですけど、それもすごくしっくりきて。自分が辛いとか、行き詰まっていると感じる時に、どこかには絶対に希望は存在していて、いまはただそれが見えにくくなっているだけなんだって。それがすごく腑に落ちて、そこから曲が生まれていったんです」
――“Luminous”は〈気が触れないように踊っているの〉という冒頭のラインがものすごくインパクトありますよね。
「〈踊る〉という行為は、楽しくて体を動かすだけじゃなくて、何かを振り払う仕草ともいえるのかなって。何か嫌になっちゃった時とか、爆音で音楽をかけながら一人部屋で体を揺らすのって、それに近いと思うんですよ。振り払わないとおかしくなっちゃうから、とにかく踊るっていう、そういうイメージが湧いてきたんです」
――ダンス・ミュージックの要素は、サウンド面でも以前より強まっていますよね。
「私、ホラーズの“Something To Remember Me By”という曲がすごく好きで。それまでの彼らの楽曲にはなかったタイプのアレンジなんですけど、それをライヴ(2017年の〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER〉)で演奏していた時の高揚感というか、みんなが楽しそうに踊っている感じもすごく良くて。ああいう感じの楽曲を作りたいなという思いがなんとなくあったんです。そこから試行錯誤していく中で、声のループやピアノの音とかが出来ていって。それを橋本さんに送り、〈ニューウェイヴっぽくしたいんです〉みたいに話していく中で、ああいう形になっていきました」
MINAKEKKEが考えるシューゲイザー
――今回、3曲のミュージック・ビデオをミラーレイチェル智恵さんが監督していますね。
「知り合いのバンドの友達で、私が対バンした時にたまたま観てくれて。それでTwitterでフォローし合うようになったら、好きなものとかいろいろ共通点を感じていたんです。それで、今回MVを作るとなった時にパッと頭に浮かんだのがレイチェルさんだったんですよね。
それに、さっき話したバックグラウンド・ストーリーが女の子の話だったので、今回は同世代の女性作家さんとコラボがしたかったんです。前作の時に作ったMVでは、自分の中にあった映像の世界観を細部まで伝えてカタチにしてもらったのですが、今回は曲のざっくりとしたイメージを伝えつつも、レイチェルさんの思う楽曲のイメージを自由に映像化してもらうことにしました」
――実際に出来上がってきたものを観て、どんなふうに感じましたか?
「不思議な感じでした(笑)。〈自分が作った楽曲を、人が映像化するとこうなるんだ!〉という驚きとともに、観れば観るほどいろんな発見があって。周りの人からも反響を沢山いただいたし、〈ああ、お願いしてよかったな〉って。もう、何回も観ています(笑)」

――“Luminous”でのカーテンとか、デヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』を彷彿とさせますよね。夢と現実、生と死の狭間というか。
「なるほど(笑)。特に最初から意図していたわけではなくて、撮影で借りたアトリエにいい感じのカーテンがあったので〈そこでも撮ろう〉ってなって。なので、たまたまです」
――そうでしたか(笑)。“Acid”はストリングスの感じとか、ビートの感じとかポーティスヘッドを連想します。
「最初、ストリングスのフレーズはものすごく歪んだシンセの音だったのを、アレンジの段階で差し替えてもらいました。あの曲は、ローンとかあのあたりの不思議なリズムに触発されましたね」
――“Golden Blue”は、今作の中では少しだけ異色ですよね。さっきの僕の感想でいうと〈希望の中に悲しさがある曲〉がこれだなと。
「確かにそうですね。この曲は『ヴァージン・スーサイズ』でいうと、一番綺麗な場面を曲にした感じ。ひたすらにロマンティックな曲を作りたいと思ったんですよね」
――イントロのギターも印象的です。
「デモの段階で思いついたフレーズを、レコーディングの時にギターで弾き直してもらいました。ちょっとシューゲイザーっぽい感じというか」
――前作に収録された“L.u.x.”も、ある意味シューゲイザー的なアプローチでしたが、ミナコさんの〈シューゲイザー観〉ってどんなものですか?
「シューゲイザーって、わりと定義が曖昧じゃないですか。轟音だったらいいというわけでもないし、囁いていればいいかというと、そういうわけでもない。それぞれの解釈の仕方はあると思うんですけど、私としてはやっぱり耽美的という部分と、轟音が混じり合う感覚というか。元々は相反する要素が組み合わさっているのがシューゲイザーなのかなと思うんですよね。この曲も、そういうふうにしたかったんです」
――“Oblivion”は壮大というか、MINAKEKKEの音楽性のシネマティックな部分を象徴している曲だなと思いました。
「この曲は『ストレンジャー・シングス』の音声をミュートして、映像を観ながら〈これに合う曲を作りたいな〉とか思って作りました。後奏の部分がほとんどインストになったのも、おそらくそういう作り方をしたからだと思います。劇伴っぽい作り方というか。あと、ドラムをダブルで録ったりしているんですけど、それは橋本さん曰く〈クラウトロックを意識した〉そうです(笑)」

へヴィーなモード
――それにしても今回は、全体的にすごくヘヴィーでシネマティックなサウンドになりましたよね。これだけ作品ごとに確固たる世界観を作り上げているのは凄いことだなと改めて思います。
「ありがとうございます(笑)。わりと今回のEPの曲たちは、前よりも思いのまま作っているので、その時の自分のモードがそのまま投影されたというか……それだけヘヴィーなモードだったんでしょうね(笑)」
――前作は〈聴いている人の孤独に寄り添うようなアルバムだな〉と思ったのですが、今作は謎解きをしたくなるというか。謎は謎のまま放り出され、聴き手の解釈に委ねているような不思議な感覚を覚える作品だなと思いました。個人的には映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018年)の世界観を思い出したんです。いろんな深読みができるというか。
「ああ、なるほど。確かに、聴いてくださった方がそれぞれの解釈をしてほしいなと思いますね。もちろん、曲作りのきっかけになった出来事などは具体的にあるんですけど、〈この曲は孤独について書きました〉〈これは愛の歌です〉と説明して、そのまま受け取ってもらうよりは、ある種の謎解きや、自分なりの解釈をしながら聴いてもらえたら嬉しいです」
LIVE INFORMATION
MINAKEKKE『OBLIVION e.p.』リリース記念 ミニライブ&サイン会
10月6日(日)HMV立川
開演:15:00
FM802 30PARTY Eggs presents MINAMI WHEEL 2019
10月14日(月・祝)
