「行きたい場所ならば/ヨットは要らない」と立ち向かう詞の強さ

 商船のチーフエンジニアだった父は帰省する度、諸国の流行コンピやベスト音楽テープを土産に持ち帰った。「音楽センスがある父ではないので、歌好きの母への御機嫌取りだったのかもしれない」が、恩恵は娘たちにも及んだ。とりわけ妹のteaは「歌手の有名/無名を問わず、好きな曲ばかりを聴きまくり、たちまち完璧に耳コピしてしまう」才能で家族を驚かせた。ある日、姉のくれた編集テープに耽溺し、伸びるほど愛聴した頃には「私のやるべき事は音楽だ!」と確信した。

 マライア・キャリーの初書き下ろし作品は14歳時との逸話を知り、「自分もやってみよう!」と無手勝流ながら書き始めた。触発された先達名を敢えて問うと「Sade、J.ミッチェル、S.ワンダー…中でもアラニス・モリセットからの影響は大きかった」「アラニスは怒りとか立ち向かう強さみたいなものを表現できる/している数少ない女性アーティストの一人ですから」と答えたtea。Sadeについては「彼女は決して見せびらかすような歌いかたをしないし、すごく落ち着いた佇まいが好きですね」と――後にデビュー盤『INTERSTELLAR』で2017年度『ミュージック・ペンクラブ音楽賞・新人賞』を受賞する彼女の源流が判る。

tea Unknown Places ソニー(2019)

 多感な時期、母親の同伴で伝統音楽のレッスンに接した。「すでに西洋音楽の魅力にも触れていた私は、一つのスケールをひたすら規則的に繰り返す訓練なんて、とても耐えられないと想った」。母国でプロ歌手として活動後、バークリー音楽大学でソングライティングを学ぶ為に渡米。公私に渡る伴侶・時枝弘との共作で 2015年、英国の作曲コンテストUKSC(R&B / URBAN部門)にてファイナリストに選ばれた実力はメジャー・デビュー作となる新作『Unknown Places』でも遺憾なく結晶化されている。

 前作同様、 ジャズ/ポップス界の辣腕が集結しての洗練サウンドはより磨きがかかり、8曲のオリジナル/3曲のカヴァー作品を珠玉の一枚に編み上げた。そしてteaの詞がどれも秀逸だ。<あなたは 突然/ふさわしいレッテルを見つけられなくなる/それは/私が芸術作品だから><私は生身の/息をする 芸術作品/そしてここから進化が始まるのよ>と、矜持を描いた《Work Of Art》が象徴的な一曲だ。唯一の日本語カヴァーが山下達郎の《Shampoo》だが、「日本人がR&B調に臨む場合向こうの人になりたい/ 寄せようとする願望が強いけれども、達郎さんは自分なりの解釈で昇華して書いたり歌ったりしているから大好き!」。先達へのリスペクト評を聴くうち、彼らの最良面を糧として進化し続けているのが彼女の音楽世界だと気づいた。

 


LIVE INFORMATION

tea「UNKNOWN PLACES」リリース記念ライヴ
○10/30(水)18:30開場/19:30開演
【会場 】赤坂 B flat
http://bflat.biz/map.php