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〈俺、これが好き!〉から繋がる友達の輪

――とはいえSTEP UPの動きは、とてもゆっくりに見えますね。

「はははは! そうっすね。まず僕がバンドをしたいから(笑)。レーベルのことよりバンドをしていたいっていうのがいちばんで、STEP UPもコンピを2枚出すまでは〈ごっこ〉だったと思うんですよ。時代もあってコンピはそれなりに売れたんですけど、そのあとにHawaiian6の『FANTASY』(2000年)っていう最初のミニ・アルバムを出すとき、リリース・インフォを出したら初回のオーダーが75枚だったんですよ(笑)。〈これは……どうやっても売上が暗算できる!〉っていう(笑)。このレーベル潰れちゃうって思ったときに〈いや俺、何もやってないじゃん〉ってわかったんです。で、初めてちゃんとやんなきゃなって」

――ピンチから気づいていったと。

「そう。それで流通を回って、お店もちゃんと回るようになって。やってみたら、楽しかったんですよ。自分が大好きなバンドを自分の言葉で、ひとりでも多くの人に共有してもらう、そのきっかけを作れることにおもしろみを感じたんですよね。で、その次に、BRANCHってバンドとHawaiian6のスプリットを出すんですけど、その頃から地元の先輩の家に遊びに行ったりするなかで、レーベルの相談に乗ってもらう機会もあって。〈お前どうすんの? レーベルちゃんとやんなよ〉って言ってもらったりしてて、流通会社や出版社のことを教えてもらった。

あの人のお陰で、これを主軸にしてやろうと思えるようになったんです。結局〈ACBで働いていたらお前は食えるけどバンドはどうすんだよ?〉って話になっていくし、そこでACBも辞めることにして……。まぁKenさん(横山健)のことなんですけど」

Hawaiian6の2000年作『FANTASY』表題曲
 

――レーベル主宰の醍醐味って、RYOSUKEさんにとって何ですか?

「うーん……さっきの話に戻ると、同じものが好きだったり話が合う人を好きになりやすいんですよ。で、たとえばミスチルくらい大きなバンドなら好きな人がいっぱいいると思うんだけど、当時の俺はたとえばハイスタのTシャツを着てる人には話しかけたくなったし、さらに知名度の低いHawaiian6やJr.MONSTERが好きって言ってくれる人なんて〈絶対俺とウマ合うっしょ!〉みたいに思えて。自分がレーベルで出したバンドを〈これ超大好き〉なんて言うヤツがいたら〈俺、絶対お前のこと大好き!〉って思える。たぶんそれがいちばん嬉しいのかな」

――完全にリスナー目線ですよね。〈ライヴハウスで見つけた原石を、世に出していくのが喜びです〉みたいな話じゃない。

「あぁ。うん。もっと単純に友達増えるのが嬉しい(笑)。なんか〈俺がやったんだぜ〉っていう感覚はあんまりない……ないことはないですけど。それよりも自分が好きなバンドを一緒に褒めてくれる人が増えるのが嬉しいですよね。〈わかる、俺もそこ好き!〉って言いたいだけ。仲間……っていうと重たくなっちゃうけど。でも友達は多いほうが楽しくないっすか?」

――いやー、私は友達少ないから羨ましいです(笑)。

「はははは! そりゃね、もし月に一回しか時間がなくて、そこで会いたい人は誰だろうってなれば、そこのゾーンは狭いですよ? そこまで気心知れたヤツは少ないけど。でもライヴハウスに来て、最初の頃は緊張感があったけど、気づいたらなんか知ってる人ばっかりになってたり。そういうお客さんの感覚と、たぶん俺の感覚は変わらないと思います。自分が居心地いい場所を作りたいだけっていうか。でも、その意識がいい意味で変わったのはHOLSTEINからですね」

――2010年に解散し、残党がいまはATATAになってますけど、いいバンドでしたね。

「彼らはもともとHawaiian6が好きで、『FANTASY』も聴いてた奴らで。最初から〈STEP UPが好きだ〉と言ってくれていた。Hawaiian6は最初から友達だったけど、HOLSTEINは嬉しいことに僕らを知ってくれて、憧れてくれたというと変だけど、〈俺らが絶対このレーベル大きくする〉って言ってくれたんです。ウチから出したことをきっかけにステップアップする、次は大きなレーベルに進むっていうコースじゃなくて、〈じゃあSTEP UPとして次はどうするんだ〉っていうことを初めて僕に訊いてくれたバンドでしたね」

HOLSTEINの2004年作『Delivered From The Past』収録曲“MOTIVE”

 

誰に対してもフラットであるために僕自身が変化している

――友達目線ではない、社長とバンドという関係ができるようになった。いまリリースしているTHE FOREVER YOUNGはさらに世代も下の若手で。

「あ、でも僕がまずそのバンドのファンだっていうのは変わらないです。昨日も岐阜でTHE FOREVER YOUNGのライヴでしたけど、フロアで普通に泣いてましたし(笑)。もちろん入り口は、彼らがFUCK YOU HEROESを好きな田舎の少年たちだったというところですけど、でもウチから出すとなった時点で、僕がそのバンドのファンになってる。〈出したい〉と思わないと成立しない。〈ウチから出してやるよ〉なんて思ったことがないから。単純に自分が好きなバンドをいろんな人に〈これいいですね〉って言ってもらいたいから出してる。もちろん(2016年からリリースしている)INFOGもそうですけどそこは変わらないですね」

――若いバンドに、つい上から目線で言いたくなっちゃうことは?

「それだけは嫌なんですよね。まぁなっちゃってるときもあるとは思うんですけど。僕らFUCK YOU HEROESでハードコアをやりはじめて、最初はすごいナメられてたんですよ。びっちり刺青入った先輩から、メロコア上がりの奴らだ、みたいに言われて。〈いやメロコア上がりだし好きですけど、何ですか?〉みたいな。ライブ全然カッコよくないくせにうるせーなって。こうはなりたくないなって思ったし、先輩ヅラしたくないって感覚、いまもあるかもしれないです。上下左右もなく公平でいたいし、僕はずっと真ん中でいたい」

INFOGの2019年作『ACCELERATION』収録曲“For Better For Worse”
 

――それをずっと保てるって、凄いことですよ。

「だから僕、性格も変化していると思いますよ。公平に保つために僕自身が動いてる。実際に年も取ってきたから、僕がそのままだとどんどん上に行っちゃうじゃないですか。目線も落としていかなきゃいけないし、僕自身が変わらないと。年齢そのままで考えたら、それこそ新しいコンピに参加してくれたTrack'sとか僕の子供でもおかしくないんですよ。彼らはいま21とかだし。そこで俺が〈おい!〉って言ったら、もう〈はいっ!〉ってなっちゃいますよね。

それじゃフラットな関係ではいられないから。大先輩のDUB 4 REASONに〈うぃっす〉ってやってる僕と、突然少年に〈ういっす〉ってやる僕、何も変わらないと思うんですよね。先輩からすると生意気なんだろうけど、若いバンドから見たら気のいいお兄さんっていうか。そうありたいなと思うし」