問題だらけの僕たちが〈どう生きていくか〉
「アトランタ」は主人公のアーンが名門プリンストン大学を辞めてアトランタに戻ってくるところから始まります。黒人でプリンストンに行くって凄いことなのです。でも白人ばかりのプリンストンで勉強することに違和感を感じるアーンは地元に戻ってくる。地元に合わず、大学にも合わなかった男の物語です。結婚もしていて、子供も1人もいるのですが、別居中、家族とも上手くいかない、誰とも合わない男の物語。そう、いまの僕たち、私たちの物語です。
なぜアーンが大学で上手くいかなかったのか、なぜ地元を離れようとしたのか、なぜ奥さんと子供と別居したのか、なぜ母親と上手く行っていないのか、一切説明はないのです。そんなのわかっているだろ、お前もそうやって問題を抱えているだろと問いかけているのです。
そんな問題はどうだっていいだろ、人間は生きていかなければならないのだから。このドラマで問いかけているのは〈どうやって生きていくか〉だけです。
変だけど切実な物語
アーンは従兄弟でアンダーグラウンドのラッパーとして成功しているペーパー・ボーイのマネジャーになることでなんとか生きていこうとします。
これがシーズン1と2の物語です。ネタバレになるかもしれませんが、シーズン2ではマネジャーをクビになりそうにもなりますが、家族のことをいちばんに考えるペーパー・ボーイとどんなことをしてでも生き残ろうと決意したアーンを見て、ペーパー・ボーイはこれからも雇っていこうと考えをあらため、シーズン2は終わります。
これから物語は世界と対決していくと思うのですが、どんな答えが待っているんでしょうね。
どんな物語になろうと、演じている役者がいいから目を離せません。チャイルディシュ・ガンビーノはもちろん、「ジョーカー」(2019年)でもカメオ出演だったが、ペーパー・ボーイと同じように味のある演技をしたブライアン・タイリー・ヘンリー、同じ「ジョーカー」では重要な役をやったザジー・ビーツ。
そして僕のいちばんのお気に入りはペーパー・ボーイの同居人、第一世代のナイジェリアン・アメリカン、ダリウスを演じているるキース・リー・スタンフィールド。あの「ゲット・アウト」(2017年)で、パーティー会場にいた白人みたいな黒人役で、トボけた演技をしていたあの人です。この4人が繰り出す変だけど、切実な物語を僕は楽しみで仕方がないのです。