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Blade Runner:The Final Cut ©2007 Warner Bros. Entertainmennt cI. All rights reserved.

 スタジオに一歩足を踏み入れると、シンセ奏者3人、エレクトリック・ストリング・カルテット(ヴァイオリン × 2、ヴィオラ、チェロ)のメンバー4人、テナーサックス/フルートを担当する木管奏者、エレキ/アコースティック双方を弾くベース奏者、バスドラムや銅鑼などさまざまなパーカッションを担当する打楽器奏者2人の計11名が、一心不乱に自分のパートを練習していた。シンセ奏者の1人で、ステュークスと共に今回のプロデューサーを務めるジャック・オライリーが、次のように説明してくれた。「実は、これまでも『ブレードランナー』の音楽を生で再現する試みは何度かあったんです。数年前には、ヘリテージ・オーケストラという団体が何度かコンサートを開催しています。しかし、今回の我々ほど、音楽がヴァンゲリスのオリジナルに忠実な形で演奏されたことはありません。そもそも我々は、映画全編とシンクロしながら演奏しますから、テンポはオリジナルと全く同じですし」。よく見ると、すべての奏者の席には譜面台に加え、本編の映像とタイミングを確認できるモニターが設置されている。ここまで準備すれば、演奏と映像はズレようがない、というわけだ。

 リハーサルが始まり、ロサンゼルス上空をスピナー(飛行車)が飛び交う有名なオープニングシーン(公式サントラ盤では“メインタイトル”)の演奏を間近で聴いた時、なぜ今回の〈ブレードランナーLIVE〉がシンセだけでなく、わざわざエレクリック・ストリング・カルテットを用いるのか、その理由がたちどころに理解できた。サントラを聴き直してみるとわかるが、ヴァンゲリスのオリジナルではストリングスの厚みを模倣したアナログ・シンセの和音が、いわば隠し味のように用いられている。現代のデジタル・シンセでこれを再現できなくもないが、そうするとアナログ・シンセ特有の温もりが消えてしまい、安っぽく聴こえてしまう可能性がある。そこで今回は、敢えて4人の弦楽器奏者に電気楽器を弾かせることで、音のアナログ感とハーモニーの重厚な厚みを表現しようというのだ。

 それだけではない。4人の奏者の弦の動き(ボウイング)が見えることで、ヴァンゲリスの音楽が可視化されるという〈オマケ〉がつくとは、正直予想もしていなかった。サントラを聴くだけでは、どこまで音楽でどこまで効果音なのかわからなかった「ブレードランナー」のスコアの仕組みが、今回初めて理解できたような気がした。