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新たなキラーチューン誕生

ライブ中盤、ゲストに石若駿を呼び込んで演奏された“LINDY”は大きな山場となった。この曲は、ライブで確実な盛り上がりが期待できるキラーチューンとして、今後も演奏され続けるのではないか。“LINDY”で鮮烈に思い出されるのは、2019年7月13日、恵比寿リキッドルームで行われたライブである。ステージに和太鼓をセットし、3人の太鼓奏者を呼び込んだ同曲の演奏では、メンバー全員が和太鼓や金物を鳴らしながらステージ上を練り歩き、さながら初夏の祭りとでもいうべき開放感で会場を包んだ。

今回も、石若が勢いよくドラムを叩くかたわら、中村もステージに持ち込まれたパーカッションを叩き、観客の興奮を誘う。ドラムンベース風の素早いビートが、中盤から突如としてお祭り風の和太鼓と威勢のよいかけ声に変化する楽曲の自由度。ジャンルレスというにはあまりに自由な、中村にしか作れない音楽であるように思う。

その後、他のメンバーがいったんステージから下がり、石若と中村のデュオでのセッションも行われたが、これもどこまでが打ち合わせされ、どこからが即興なのか判断がつかない(あるいはすべてが即興なのだろうか?)、緊張感に満ちた演奏であった。これまでにもっとも大きな会場で行うライブでありながら、こうした実験を怖れない姿勢も頼もしい。

 

2020年の中村佳穂

リズム、即興、ジャンルレスと、中村らしさが発揮され、後半にも多くの新曲を挟みながら進められたライブ本編は“きっとね!”で終了。アンコールで演奏された“そのいのち”と合わせて、この対照的な2曲が自然に連なるのも彼女ならではだろう。ポップで弾けるような“きっとね!”と、聴く者の心にまっすぐ突き刺さる“そのいのち”。この日、会場でライブを見た知人のライター、崎谷実穂が終演後にSNSへ「喋りが歌になり、歌で喋る」と投稿していたのが印象ぶかい。ステージに立っているすべての瞬間が表現であり、なにげない言葉がピアノに乗った途端、気がつけば歌に変わっている。喋りと歌の境界線がどこにあるのか、観客にも、歌っている本人にもよくわからない。そうした中村の表現に触れた驚きを、うまく言い表していると思う。この日発表された新曲を含んだ、新しいアルバムが届けられる日も近いだろう。2020年、彼女のあらたな作品がどのように迎え入れられるのか、いまから楽しみでならない。


中村佳穂〈うたのげんざいち 2019〉
2019年12月10日 東京・新木場Studio Coast
SETLIST
1. アドリブ
2. GUM
3. 新曲
4. アイアム主人公
5. Fool For 日記
6. SHE’S GONE
7. get back
8. q
9. シャロン
10. You may they
11. LINDY(中村佳穂BAND+石若駿)
12. どこまで(中村佳穂×石若駿)
13. LIFE FOR KISS feat. 中村佳穂Band(中村佳穂BAND+石若駿)
14. 新曲
15. 新曲
16. きっとね!
~Encore~
17. そのいのち

中村佳穂BAND:
中村佳穂(ヴォーカル/ピアノ/グロッケンシュピール/DoumDoum)、荒木正比呂(キーボード/シンセサイザー/ハーモニカ)、深谷雄一(ドラムス)、MASAHIRO KITAGAWA(コーラス/サンプラー)、西田修大(ギター)
Special Guest:石若駿(ドラムス/ピアノ/シロフォン)