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架空の航空会社〈Soda Resort Airline〉で巡る旅

――(天野)前作『Port Island』は〈架空の神戸〉がテーマでしたが、今回の『Soda Resort Journey』は〈架空の航空会社「Soda Resort Airline」で巡る旅〉というコンセプトですよね。

「1曲ずつ主人公がいて、12人の主人公がいる群像劇のイメージです。みんな、自分の国を離れて旅をしている状態のひとたちなんですよ。旅の途中で感じることってこんなんちゃうかなって想像しながら書きました。“Colorless Diary”なんかは特にそうですね」

『Soda Resort Journey』収録曲“Colorless Diary”

――(天野)〈こんな暮らしはやめよう〉というフレーズが印象的ですね。

「あの曲の主人公は株で儲けていて、株価の動向を見ながら豪華客船で一人旅をしている男なんです。で、昔仲良くしていた女性のことをふと思い出して、〈結婚の約束までしようとしたな〉ってさびしくなって。それで〈結婚しよう〉って電話をかけようと、一人で盛り上がっている(笑)。旅先で気が大きくなって、変な行動をしそうになるのはあるかもしれないなって」

――(天野)音は、80年代〜90年代初頭っぽいノスタルジックな感じですよね。キラキラしたエレピの音色が特に。

「〈アルバムに一応1曲入れとくか〉みたいな、産業ロックのバラードが好きなんです(笑)。そういう感じの曲を作りたくて、ドラムの質感やピアノの音、リヴァーブの深さや大げさな曲調とかを参考にしました」

――(yamada)3曲目の“Star Resort Island”ではシンプルなピアノの音を使っていますが、Tsudioさんの曲でピアノはあまり使われていなかったと思いました。

「ほんまですね。デモは大体、普通のピアノの音で作っているんですよ。“Star Resort Island”もそうで、それが残っているんでしょうね。

ご多分に漏れず、僕もいまチープなフュージョンの感じにやられているので、この曲ではそれを自分のポップスとしてやりたかったんです。作っているうちに鍵盤ハーモニカの音がハマるだろうなと思って、ゆのべさん(ゆnovation)にお願いしました」

『Soda Resort Journey』収録曲“Star Resort Island”

――(天野)“Star Resort Island”のゆnovationさんのラップも、“Soda Resort Hotel”のさとうもかさんの歌も、Tsudioさんの独特のヴォーカル処理がされているので、意外性のある響きになっていますよね。

「ゆのべさんも、もかちゃんも、自分の作品ではあんまり歌声を加工しないので、自分のアルバムやから〈新しい表情を〉と思ったんです。けど、2人とも深くエフェクトをかけてもキャラがちゃんと残るんですよね。JaccaPoPのMIRUちゃんもですけど、やっぱりヴォーカリストやな、と思いました」

――(天野)Tsudioさんはどうして歌声を加工するんですか?

「自分の歌をプレイバックするのが気持ち悪いのもありますけど、他のトラックの音と馴染ませて統一感を出せるのが好きなんですよね。ああいう処理をすることで、インストのクール感を歌モノに持ち込めるんです」

 

僕のためにコーラを飲んで 君のためにスーツを買った

――(天野)客演のヴォーカリストは全員女性ですよね。女性視点の歌詞もあります。

「女性に歌ってもらっている曲は女性視点ですね」

――(天野)Tsudioさんの歌詞といえば、yamadaさんは“Asian Coke”がすごく好きで……。

Local Visionsのコンピレーション『Oneironaut』(2019年)収録曲。『Soda Resort Journey』には“Asian Coke Light”として収められている

「そうみたいですね」

『Soda Resort Journey』収録曲“Asian Coke Light”

――(yamada)最初の2行がヤバすぎますね。

「あれだけ抽象的に書いても伝わるんやって喜びがありますね。自分のなかには具体的な物語があるんですけど、歌詞って日記みたいに具体的に書くわけじゃないので」

僕のためにコーラを飲んで
君のためにスーツを買った
知らんはずの空気を読んで
いつの間にか僕はいなくて
(“Asian Coke”)

――(yamada)サラリーマンをやっているひとは全員泣いてしまうと思います(笑)。

「あはは(笑)。あの曲は〈労働〉がテーマのひとつになっていますね」

――(yamada)舞台は日本ですか?

「そういうわけでもなくて。作ったときはまだ、アルバムの構想がはっきりとあったわけじゃなかったんです。

コーラの偽物の炭酸飲料ってアジアの国にあるじゃないですか。あのイメージです。ああいうもののキッチュさが好きなんですよね。なんか僕、ずっと紛い物の話してるなあ(笑)。

“Asian Coke”にウォン・カーウァイの映画の映像をつけてYouTubeに上げているひとがいて、そういう曲にしたかったので、鋭い感性やなあと思いました。このアルバムに収録したことで、台湾とかインドネシアとかが舞台の歌って考えたほうがしっくりくるようになりましたね。yamadaさんはこの曲をどんなストーリーとして受け取ってくれているんですか?」

――(yamada)まず、〈結婚〉の歌だと思いました。それを機に労働しはじめるイメージです。

「ああ、なるほど」

――(天野)僕も、フラフラしていたミュージシャンかDJが同棲や結婚のためにちゃんと就職する、みたいな歌だと思いました。

「それはちょっとちゃうかも(笑)。そこからも逃げちゃったやつの歌なんですよね。好きな女の人のために就職する準備をしていたんですけど嫌になっちゃって、女の人にも逃げられちゃうんですよ。主人公は納得して孤独を噛み締めながらも、全部を失った状態で高揚感を感じていて、それを讃える歌です。yamadaさんたちの解釈を邪魔しちゃったかもしれませんが(笑)」

――(yamada)いえいえ、訊けてよかったです。