その場の空気感とその時のインスピレーションから生まれた、その日限りの特別な演奏――ワールド・ツアーの模様を記録したライヴ盤で二度とない瞬間を追体験しよう!

 フランス人のプロデューサー、シンガー、マルチ・インストゥルメンタリストであるヴィンセント・フェントンのソロ・プロジェクト、FKJによる初のライヴ・アルバム『22_23 Live Sessions』。すでに昨年から配信されていた同作が、このたび日本盤でCDリリースとなった。

FKJ 『22_23 Live Sessions』 FKJ/BEAT(2025)

 FKJといえば、言うまでもなくファースト・アルバム『French Kiwi Juice』で大きく脚光を浴び、その後のEP作品『Ylang Ylang』が日本独自にCDリリースされるなど、ここ日本でも高い人気を誇っているアーティストだ。2022年にはサンタナやトロ・イ・モワら豪華ゲストを迎えたセカンド・アルバム『V I N C E N T』で世界的に高い評価を獲得し、来日ツアーを即完させたことも話題になった。それに前後してピンクパンサレス“All My Friends Know”(2022年)のリミックスを手掛け、ドリームヴィルのラッパーであるバスとは“Wait On Me”(2023年)でコラボレート。直近のトピックとしてはBLACKPINKのジェニーによるソロ作で冒頭から“Intro : JANE With FKJ”に登場するなど、さまざまな方向に支持が広がっていることも窺わせている。このたび登場した『22_23 Live Sessions』は、先述の『V I N C E N T』リリースに伴って行われたワールド・ツアーのなかから11曲の実況音源を選りすぐった魅力的なライヴ作品に仕上がっている。

 パフォーマンスを追体験できる装置という意味では、ジャケが示すロマンティックなイメージもまた想像力を働かせる大きな助けとなるだろう。鍵盤に向かった彼を取り囲む漆黒のなかで星空のように瞬いているのは会場に詰めかけたオーディエンスの姿である。このジャケは先述のEP『Ylang Ylang』のジャケにも構図が似ていて、そちらでは波打ち際の砂浜に置かれたピアノの前にひとり佇むようなシルエットが印象的だった。そこから対比できるのは、孤高のアーティストが広く支持を得て、満場の観客たちと交歓しながら演奏のエナジーを生み出している様子と、それを取り巻く温かい空気感だ。そんな、その日限りのパフォーマンスを膨大な積み重ねから厳選した結果、全11曲はいずれも違う会場での音源がチョイスされている。

 オープニングをソウルフルに飾るのは、キャリア初期の代表曲“Lying Together”(2013年)の、2023年4月の〈コーチェラ〉で披露されたヴァージョンだ。アルジュン・デュベ(ドラムス)とセス・タッカベリー(ベース)を交えたトリオ編成にストリングスも加えた演奏には、音源とは異なるグルーヴィーなしなやかさが心地良く備わっている。同様に今回収録の楽曲にはいずれも新たなライヴ・アレンジが施されていて、ワシントンのエコーステージで演奏された『V I N C E N T』からの“Different Masks For Different Days”も、モントリオールにおける“Ylang Ylang”も、スムースな聴き心地でライヴ・ミュージシャンとしてのFKJを堪能させてくれる。

 さらに〈その日限り〉という意味合いがより強くなるのは、ツアーの際に各地で設けられたインプロヴィゼーションのパートからの7曲だ。それぞれのトラックには“Washington Special”や“Paris Special”といった形で披露した都市の名が付けられていて、多種多様なリズム・トラックやシンセを軸に、オルガンやピアノ、ギター、ドラムス、サックスなどの音色がその場のフィーリングやバンド・メンバーたちとの呼吸でグルーヴを組み立てていく。ファンキーな“Salt Lake City Special”やジャジーな“Madison Special”、さらには硬質なダンス・トラックの“Detroit Special”、シンセがSF的な“Hong Kong Special”といった格好で、それぞれの楽曲の表情も輪郭もさまざまだ。ステージ上のクリエイションと観客の熱気も相まって、その曲もまさにスペシャルな音源と言っていいだろう。

 実際に録音された即興のセッションは実に70公演分もあったそうで、もっと聴いてみたい気もしつつ、それ以上にこの体験が今後の彼の楽曲制作にどう作用していくのか、『22_23 Live Sessions』を聴けばこの先のFKJへの期待がますます高まることは間違いない。

FKJの作品と関連作を紹介。
左から、FKJの2017年作『French Kiwi Juice』(Roche Musique)、2019年のEP『Ylang Ylang』、2022年作『V I N C E N T』(共にFKJ)、客演したバスの2023年作『We Only Talk About Real Shit When We're Fucked Up』(Dreamville/Interscope)、JENNIEのニュー・アルバム『Ruby』(Columbia)