2020年1月、新たなドラマーとして大工原幹雄を迎えたことを発表したサニーデイ・サービス。2018年に亡くなった丸山晴茂の不在を乗り越え、バンドは曽我部恵一、田中貴、そして大工原の3人体制となって再び歩み始めた。

そんなサニーデイ・サービスが、13作目となるニュー・アルバム『いいね!』を本日3月19日に急きょリリースした。本作は新体制初の作品であるだけでなく、挑戦的な配信方法も話題だ。

というのも、『いいね!』はYouTubeチャンネルでアルバム全編を聴くことができる。クローズドなサブスクリプション・サーヴィスでの配信に留まらず、このアルバムはYouTubeというフリーのプラットフォームで、あらゆるリスナーに向けて開かれている、というわけだ。

今回は、そんな話題の新作『いいね!』をMikiki編集部の田中亮太と天野龍太郎が合評。それぞれの視点から見た『いいね!』のクロス・レビュー、ぜひアルバムを聴きながら楽しんでほしい。

サニーデイ・サービス いいね! ROSE(2020)

 

虚無と諦観の時代にスパークするロック・バンド

このアルバムを聴いたとき、〈うわ、曽我部恵一がロックしてる!〉という感想が自然と口から洩れた。閃光のごとく眩いギター、地を這うベース、焦燥感を抱えたドラムス――この3人組が演奏しているのは、まぎれもなくロックだ。

今年の1月末に、新ドラマーとして大工原幹雄が加入したサニーデイ・サービス。そのステートメントで、曽我部は〈今また、バンドを始めたばかりの頃のような気分です〉と綴っている。不動のメンバーであった丸山晴茂を亡くし、約1年の休止期間にその不在を噛み締めたうえで、曽我部と田中貴は、また歩みはじめた。新たに旅路に加わった仲間とともに。

曽我部恵一のロック・バンドといえば、文字通り曽我部恵一BANDが最初に頭に浮かぶ人も多いだろう。確かに、瑞々しい初期衝動を鳴らしているという点で、ソカバンのファースト・アルバム『キラキラ!』(2008年)と、この『いいね!』は隣り合っているようにも思える。

だが、これはほかの何物でもなく新しいサニーデイ・サービスなのだ。音楽的には、サニーデイの諸作も含めた曽我部のディスコグラフィーのなかで、ポスト・パンクのサブジャンルという意味でのネオアコに、もっとも接近した作品だろう。なにせ1曲目から“心に雲を持つ少年”だ。しかもこの曲で、曽我部はジョニー・マーばりのリリカルなギターを奏でている。あげくに終盤では、〈ずっと消えない太陽がある〉と繰り返す。英語に訳すなら〈There Is A Sun That Never Goes Out〉といったところだろうか。

また、さりげなくレゲエを採り入れた“ぼくらが光っていられない夜に”はモノクローム・セット風。“コンビニのコーヒー”はソフト・ボーイズのジャンクなサイケ・ポップを思わせる。そして、疾走感に溢れた“センチメンタル”はペイル・ファウンテンズ(のセカンド)とあわせて聴きたくなった。

80年代のポスト・パンク・バンドたちの多くがそうであったように、『いいね!』はロック・バンド然としたサウンドながらも、どこか冷めた質感を貫いている。そこには、いまを生きるうえで感じずにはいられない諦観や虚無を反映している面もあるだろう。そして、その内向的な表情こそが、このアルバムを2020年の音楽たらしめていることは間違いない。

それでもなお、弦を切りそうなくらいに荒々しくギターを弾きながら〈春はとっくに終わったのにね〉と叫ぶ曽我部の顔は、キラキラ(あるいはギラギラ)と輝いている。バンドで向き合い、〈1234〉というカウントのあと、一斉に腕をふりおろす。その何かがスパークする瞬間を、サニーデイはふたたびとらえたのだと思う。

〈始めたころのような気分〉を何度でも繰り返すこと。『いいね!』は、思春期にかかった熱病にいまだ浮かされ続ける誰かのためのレコードだ。ともすれば、その執着は曇天の時代において、一抹の光を放つための、抵抗のひとつでもある。 *田中亮太

 

Baby, OK 大体はね

〈Fuck you〉という否定の言葉で幕を開けた前作『the CITY』(2018年)から一転、ここに届けられた新作が掲げるタイトルは〈いいね!〉だ。ものすごく単純に言ってしまうと、否定から肯定へ、そしてネガティヴからポジティヴへと、サニーデイ・サービスというバンドのモードが反転したことを伝えているように思えてならない。

カット・アップされたノイズとエレクトロニクス、よじれたヒップホップ・ビートとラップ……混沌とした音が渦巻いていた『the CITY』。あのアルバムと『いいね!』は、音楽的にも対照的である。

『いいね!』で聴くことができるのは、曽我部恵一の歌とギター、田中貴のベース、大工原幹雄のドラムス、ただそれだけ。3人――最小限のロック・バンドとしてサニーデイ・サービスは、3分台のロック・ソングやポップ・ナンバーを演奏することに集中している。

とはいえ、ことはそう単純ではない。軽快なロックンロール・ビートに乗せて、曽我部は歌う。〈僕は死んでいるように感じているんだよ〉(“心に雲を持つ少年”)。〈今夜でっかい車にぶつかって死んじゃおうかな〉(“春の風”)。〈安定剤も切らしてしまって〉(“エントロピー・ラブ”)。〈あなたにもっと優しくしたかった〉(“日傘をさして”)。

けれども、そうした詞が『the CITY』のようにヘヴィーに響くのではなく、どうしてか軽やかさや温かさ、甘さをもって耳に飛び込んでくる。〈Baby, OK 大体はね〉(“エントロピー・ラブ”)。

そう。なんだかめんどくさいことや考えたくないことがそこらじゅうに転がっているけれど、〈大体〉のことは、きっと大丈夫。〈いいね!〉をぽんと押すくらいの気軽さでいけばいい。あなたの外側に広がる複雑さやリアリティーを捨象するのではなく、あなたの内側でとぐろを巻くネガティヴィティーをなみするのでもなく、それはそれとして横目で見ながら、なんとかやっていこうよ。

なんだか『いいね!』は、そんなことを言っているように思う。たとえばその感じは、RCサクセションやBO GUMBOSのレコードとよく似ている。単純な二元論では割り切れない、おかしなたとえをすれば〈笑い泣き〉みたいなポジティヴィティーが、このアルバムにはある。

1975年の東京、高度経済成長期とバブル景気の狭間にあった街で、〈シティ・ポップ〉を形作ったバンドはこう歌った。〈街角はいつでも人いきれ〉。それから45年後、2020年。春風が絡まる東京の街から、人影はめっきり少なくなった。〈街角はいつでも人いきれ〉だったなんて、まるで嘘みたいだ。人々は目に見えないものをおそれ、口と鼻をマスクで覆って歩く。

そんなときイヤホンからは、幻想の街を歌ったポップスではなくて、サニーデイ・サービスの『いいね!』が流れていてほしい。このアルバムは、どこまでもリアルな街のロックだと思うから。 *天野龍太郎

 

 


LIVE INFORMATION

ARABAKI ROCK FEST.20
2020年4月25日(土)、26日(日)宮城みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく
https://arabaki.com/​

サニーデイ・サービス TOUR 2020
2020年5月15日(金)東京・渋谷 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)他
https://smash-jpn.com/live/?id=3344