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音楽家とデザイナー。スコット・ハンセンが持つ2つのぺルソナ

さらに付け加えるなら、これまで積極的にリミックスを手がけ、また、依頼もしてこなかったティコのキャリアを考えると、本作の発想はダンス・ミュージックのカルチャーに根ざしたものではなく、むしろ、スコット・ハンセンのもう一つの名義である〈ISO50〉に由来するものであるように推察される。ISO50というのは、2009年から音楽に専念するようになる以前のスコット・ハンセンが長らく生計を立ててきたデザイナーとしての名義だ。

ISO50のキャリアは、結果的に遅咲きとなった音楽制作をスタートさせる2001年以前から始まっている。大学でコンピューターサイエンスを学び、Photoshopと出会ったことでデザインに開眼。Adobeでの勤務経験もあるというフリーランスのデザイナーだった彼のポートフォリオには、親交があったというフランスの伝説的なデザイナー、アルノー・メルシエの影響が見て取れ、また、アナログ/デジタル・メディアを柔軟かつ繊細なタッチで行き来するインタラクティヴな作風は、ハイファイ、ローファイを混在せた彼の音楽作品にも通底するものだ。

ISO50としての作品を集めた映像
 

アーサー・C・クラークのSF小説「2001年宇宙の旅」に登場するモノリスから名前を取ったティコとカメラフィルムの〈フジクロームベルビアISO50〉から取ったISO50。スコット・ハンセンの広い意味での創作活動は、その2つの異なるペルソナが相互作用を及ぼしている。