毛布みたいな人
山田「妻とは結婚して10数年経っています。子が2人です。これまで、夫婦間で些細なぶつかり合いはありましたけど、致命的なことはほぼありませんでしたね」
見汐麻衣「そう聞くと、すっごく円満なご家庭ですね。山田さんが思いを寄せられているのは、同じ職場の方ですか?」
山田「そうです。自分は営業職で、彼女は事務方ですが、請求書のやりとりとかで接点があって。そこで、ですね。恋愛って、急に〈発作〉に襲われるじゃないですか。ふとしたときにその人のことしか考えられなくなるとか、何も手につかなくなるとか」
見汐「すっごくわかります」
山田「妻と結婚してからの10数年、そんなことはほぼなかった。なので、〈発作〉をどう収めればいいかが、僕の悩みなんです。
最初はただ、見た目がタイプで、感じが良いなと思っていただけでした。ただ、仕事ぶりがすごく丁寧だったんですね。ちょっとした気遣いとか、先読みしてやっておいてくれるとか。日々ギスギスすることが多い中で、そういうことにぐっときたんです」
見汐「仕事のやり方、進め方って、その人の性質が出ますからね。つまり、その方が仕事中の一服みたいなものだったと」
山田「ほんとそうなんです! なんかね、ふわーっと、少し楽になる、癒されるといいますか」
見汐「優しい、毛布みたいな人なんでしょうね。〈お疲れ様〉って」
山田「あ~! それは言い得て妙です」
見汐「声のトーンとかも素敵なひとなんじゃないですか?」
山田「なっ、なんでわかるんですか(笑)!? 占い師みたいですね……」
それは、〈恋〉です
見汐「好きになるきっかけはあったんですか?」
山田「僕は普段、ランチを一人で食べているんですけど、あるとき彼女が同時に出かけようとしていたんです。それで〈一緒にランチへ行けるんじゃないか〉と思って、自分にしては珍しく声をかけました。会社からお店が遠いこともあって、正味1時間、一緒に過ごしたんです。その後からですね、〈発作〉が始まったのは」
見汐「短い時間でも、一対一でゆっくり話す時間があったからなんですね。寝ても覚めても、その人のことしか考えられなくなった……時事ネタですいません(笑)。山田さんはその方との関係性を先に進めたいと、現実的に考えているんですか? そこがけっこう肝だと思います」
山田「〈発作〉を発症したのが夏なので、半年ぐらい経っています。ただ、年末年始にゆっくり休んだら、少し落ち着きました。だから、彼女とどうこうしたいっていうのは、たぶんないんですね」
見汐「その思いを飼い慣らせるのか、あるいはそのまま消えていくのか、ということですよね」
山田「はまり込んでいっちゃう人や、遊ぶ人もいますからね。自分はそういうことができないタイプなのかな。ただ、自分が完全に狂ってると思ったことがあって……。休みの日に家族とテーマ・パークに遊びに行ったとき、普通に家族と楽しんでいるのに、心のどこかで〈ここに彼女と来ている〉とシミュレートしていたんです!」
見汐「あ~……。なるほど。〈発作〉という言い方は一旦やめましょう。それは、〈恋〉です」
山田「ああ! 言ってしまいましたね」