ADFとGEZANの共通点は儀式的な音楽の持つパワー?

――新作『Access Denied』の感想はいかがでした?

「いい意味で変わってないと思いました(笑)。最初は政治的なメッセージを打ち出していたけど、売れたらそうでもなくなる人たちっているじゃないですか。ADFは25年以上やってますけど、最初から一貫して自分たちのコミュニティーであるとか、自分たちを取り巻く環境のことを曲にしている。そこがいいですよね。ただ、トラックの作り方とか音楽の作り方自体はアップデートされていて、現行のダンス・ミュージックから影響を受けていたり、そういうものとの組み合わせを探っている感じはありますよね」

『Access Denied』収録曲“Can't Pay, Won't Pay”
 

――2010年代以降のアルバムにはグライムやダブステップからの影響も反映されていたりと、実は現行の音もかなり意識してるんですよね。でも、ほのかに香るインド感であるとか、ダブを軸にしたバンド・サウンドであるとか、根本的なところはずっと変わらない。

「そうなんですよね。今回もADF自体は変わってないなと思いました。ADFはデビュー当時からスケール感みたいなものを変えずに、感覚をキープし続けているような感じがします。いまのクラブ・ミュージックのなかでは90年代周辺のレイヴ的なものの再評価もあって、周りにもレイヴのサウンドを取り入れるDJは多いんです。そうした潮流とADFのノリとがふたたび合致するところもあるなって思います」

――なるほど。時代が巡り巡って、ADFがちょうどジャストになっているということですね。

「あと、ラップ・ミュージックの身体の使い方も時代によって変わってきたと思うんですけど、そこにも対応していると思います。例えばトラップ以降のリズムの感覚、半分と倍(を行き来するテンポ)や三連のリズムを組み合わせた身体感覚で聴いても、今回のアルバムは楽しめるんじゃないかな。そういう意味でも、身体のなかのリズム感が時代とコミュニケーションしつつアップデートされている感じがしますね」

――ちなみに新作のなかで特に惹かれた楽曲は?

「“Mindlock”ですね。音もリズムも重くて、歪んだギターの音がかっこいい。後半の歪みを飛ばしてからドラムンベースっぽくなるところとかライブで聴いたらぶち上がりそうです」

『Access Denied』収録曲“Mindlock”
 

――今回のアルバムに限らず、ADFの音にはインド~バングラデシュにルーツを持つ彼らの民族的アイデンティティーが色濃く反映されていて、そこにプリミティヴな力がありますよね。GEZANの最新作『狂(KLUE)』において〈プリミティヴ〉がひとつのキーワードとなっていたように、近年の日本ではある種の土着性というか、混乱した状況をぶち抜こうというプリミティヴな力を持った作品が出てきてますが、それこそMarsさんのDJにもプリミティヴなヴェクトルを感じるんですよ。ADFの今回のアルバムはそうした感覚とも共鳴するものがあるんじゃないかと思っていて。

「僕は暗い音楽ばっかり聴いてるイメージがあるかもですが、実はADFがやってるバングラ・ビートもそうですし、(東欧の)バルカン・ビーツも好きなんですよ。プリミティヴな音楽って儀式的な要素があって、音楽を使って宗教的な感覚に導く作用もあると思うんですね。僕は自分のDJが機能的なものだと思っているんですけど、フロアの人たちをどういうところに連れていきたいか常に考えているんです。そういう意味での共通性はあるかもしれない。

GEZANとは彼らがDOMMUNEでライブをやったとき、DJをやらせてもらったことがあって。そのときはGEZANの持っているエネルギーを自分なりに意識しつつ、〈東京のリチュアル(儀式)〉をやろうと考えていました」

――〈東京のリチュアル〉というのはすごくおもしろい感覚ですね。〈都市のリチュアル〉という意味では、ADFのライブもまさにそういう志向性があると思うんですよ。彼らのライブはいままでいろんな場所で見てるんですけど、リチュアルというか、祭り感がある。彼らはドールというインドの伝統太鼓を使ってますけど、あの太鼓が鳴ると、言葉にならない感覚が胸の奥から込みあげてくるんです。

「確かにそういうところもありますね。レベル・ミュージック的なミクスチャー・バンドというだけじゃなく、インドやバングラデシュの音楽が持っている儀式的な力の強さや、湧き上がってくる祝祭感がADFの根っこにある。いい感じにウネったインド的なメロディーの力もありますよね」

2011年の〈フジロック〉でのライブ映像