バンド編成に生まれ変わってダイナミックなサウンドを手にし、いま新しい地平を切り拓こうとしているフィンク。すべては強い信念のもとに……
「音がビッグになっていく感覚が芽生えた。野心を持つのは恥じることじゃないってわかったんだよ」(フィン・グリーンオール、ヴォーカル/ギター)。
2006年の2作目『Biscuits For Breakfast』で、ビートメイカーからニンジャ・チューン初のシンガー・ソングライターに転身し、オーガニックなサウンドでレーベルに新風を吹かせたフィンクことフィン・グリーンオール。以降も、半径数メートルの世界を描いた彼の音楽は、パーソナルな魅力に溢れていた。3年ぶりのニュー・アルバム『Hard Believer』は、2作目から密に絡んできたティム・ソーントン(ドラムス)とガイ・ウィテカー(ベース)を正式メンバーに迎えたトリオ編成で作られ、その外側に大きく踏み出したことを告げる野心作だ。
「コンセプトのひとつはステージでの経験を活かすこと。素晴らしい時を過ごしたし、学ぶこともたくさんあったからね。それをしっかり捉えるため、ほとんどライヴ・レコーディングで作ったよ」(フィン)。
「オーケストラとのギグで、サウンドのサイズを知ったのも大きかったな。だから今度は、オーケストラを使わずにそれを実現しようとしたんだ」(ティム)。
ティムが語っているのはアムステルダムの管弦楽団との共演で、昨年にライヴ盤『Fink Meets The Royal Concertgebouw Orchestra』としてもリリース。ここではエイミー・ワインハウスやジョン・レジェンドらの作品に共作者として関わり、トム・ヨークからも称賛される内省的な旋律を、ストリングスが驚くほどドラマティックに彩っている。その効果をどうアルバムに採り入れるか。そこで参考にしたのが、ロックのダイナミズムだ。日本盤のボートラにはニルヴァーナ“In Bloom”のカヴァーが収録されているが、制作前にメンバー間で共有したミックステープにもロックやパンク曲が多数入っていたという。
「パンクだとミーコンズ“Where Were You?”はよく聴いたね。全然フィンクっぽくないけど、反復の要素が共通している。フィンクの曲にはループを使った催眠的な部分があって、今回はそれをより意識したんだ」(ティム)。
ほかにもクラウトロック勢やポーティスヘッド、コールドプレイに影響を受け、楽曲は長尺に。3人の演奏と歌が催眠的にループし、ラストに向けてぐんぐん盛り上がる──フィンクの作品を追ってきた人なら、“Pilgrim”や“Looking Too Closely”で飛び出す音の洪水に、きっと驚くことだろう。また、盟友のブレアー・マッキチャンに加え、新たにオランダ人ピアニストのルーベン・ヘインもゲスト参加。
「今回は多くの曲をピアノで作ったんだ。ルーベンはそれをプロの演奏に置き換え、壮大さをもたらしてくれた。クラシカルで美しく、深い出来になったと思う」(フィン)。
余談だが、シンガー・ソングライターに転向する際、フィンはレーベルの本音を探るために〈USでシンガーを発掘した〉と偽り、自分の歌声を聴かせたんだとか。そうして始まった〈半径数メートルの世界〉は、多くのミュージシャンと出会い、ここで広大な地平を切り拓いたというわけだ。そんな本作での挑戦は、US南部の言い回しで〈説得するのが難しい人〉を意味する表題とも繋がっているそうで……。
「いままでのタイトルとは違い、『Hard Believer』にはちゃんと意味があった。いろんな人を説得しないといけなかったし、保証は何もなく、あるのは信念だけだったからね」(フィン)。
「昔は〈できるはずがない〉って思っていた。でも、十分な信念があれば、何をやってもフィンクの音になるんだよ」(ティム)。
6作目にしてこれまでとは違う表情を見せたフィンクは、ふたたび始まりの季節を迎えている。
▼フィンクの作品
左から、2006年作『Biscuits For Breakfast』、2007年作『Distance And Time』、2009年作『Sort Of Revolution』、2011年作『Perfect Darkness』(すべてNinja Tune)
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▼フィンクがソングライターとして参加した作品の一部を紹介
左から、エイミー・ワインハウスの2011年作『Lioness: Hidden Treasures』(Island)、プロフェッサー・グリーンの2010年作『Alive Till I’m Dead』(Virgin)、ホセ・ジェイムズの2013年作『No Beginning No End』(Blue Note)
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