Photo by Makoto Ebi

グランド・ピアノが持ち上がる? メタル・ジャズというユニークな存在

 キャメロン・グレイヴスは、カマシ・ワシントンやサンダーキャットらと共に注目をされ、評価を高めて来たピアニスト/キーボーディストだが、その出自がクラシックにあるところが個性にもなっている。いま最も気に入っているピアニストもユジャ・ワンだという。

 「父の影響で4歳からピアノを始めたんだ。10年くらいクラシック・ピアノをやったよ。年配の女性のピアニストが先生でとても厳しかった。ピアノまでの歩き方や座り方まで厳格でね(笑)。でも本当に素晴らしい教え方だった。おかげで今もクラシックの練習はしているよ」

 やがてグレイヴスは、音楽教育に力を入れるロサンゼルスのハミルトン・ハイスクールからカマシも通ったUCLAの民族音楽学科へと進み、多様な音楽を吸収していったが、そうした環境がロサンゼルスのジャズ・シーンの活性化に繋がったという。

 「この10年から15年くらい、ロサンゼルスはDJが活躍する場が多かったんだ。でも80年代生まれ90年代育ちの僕みたいなミュージシャンが台頭してきた。それは音楽教育が充実していたからだと思う。その後、カットされてしまうんだけどね。だから、その恩恵を受けた最後の世代が僕らだと思う」

 だが、グレイヴスらの活躍があって、若い世代のミュージシャンが育ってきている状況はあるだろう。ジョージ・デュークやスタンリー・クラークがグレイヴスらをサポートしたように、彼らもまたシーンを活性化したからだ。そんなグレイヴスはデビュー・アルバム『Planetary Prince』に続く新作のリリースを控えている。

 「もうほぼ完成しているんだ。基本的にはメタルに影響されたジャズ・サウンドだよ(笑)。カマシ、ライアン(・ポーター)、ロナルド(・ブルーナー・ジュニア)らは基本的にヒップホップやR&Bからジャズに入って来ているけど、カマシはフェラ・クティやアフリカの影響も入れて来たよね。じゃあ、自分は何なんだろうか、と顧みたときにメタルからの影響だと素直に思ったんだ」

 今回、ブルーノート東京で観たソロ・コンサートは、『Planetary Prince』のファンキーな楽曲もヘビー・メタルの演奏スタイルを採り入れていた。ギター、ベース、ドラムはメタルのメソッドに則り、グレイヴスのピアノとキーボードはクラシックとメタルの間を行き来する。そしてバンド全体はジャズのアンサンブルを基調にしていた。なかなか言葉では伝えにくいのだが、グレイヴスが形容する〈メタル・ジャズ〉は確かにこれまでにないユニークなアプローチとなっていた。その独自性がどうアルバムとして表現されているのか、完成を待ちたい。