Photo by Russell Hamilton

カマシ・ワシントン初となる映画のための描き下ろし楽曲をリリース!

 本作は、アメリカ前大統領のファーストレディ、ミシェル・オバマ氏の書籍発売プロモーションツアーに密着したロードムービー「Becoming」のために、カマシ・ワシントン自らがプロデュースを手掛け、書き下した楽曲を収録したアルバムである(この映画はすでにNetflixにて公開されており、本年度エミー賞のドキュメンタリー作品部門の作曲賞にもノミネートされている)。内容としては、彼女の生い立ちや自分の人生を振り返るシーン、ファーストレディとしての重圧などが描かれているが、そこには黒人であるが故の視点が随所に顕れる。その映像に寄り添う音楽を創るパートナーとして、ナディア・ハルグレン監督の熱望によりカマシ・ワシントンの音楽プロデューサー起用が決まったそうだ。

KAMASI WASHINGTON 『Becoming』 Young Turks/BEAT(2020)

 音楽的にはソロ・アルバム同様の重厚かつ荘厳、スピリチュアルな世界観も垣間見せつつ、よりオーセンティックかつ普遍的な〈黒人音楽〉にスポットを当て、メロウなジャズからファンキージャズ、ソウルなどがいつもよりコンパクトな形で収められている。黒人社会や彼女の人生を振り返る映像をより効果的に、また〈音楽〉で物語を構築する上で、必要な要素を吟味して落とし込んだサウンドとも言える。とはいえ、カマシ自身の持つルーツや音楽性の広さをダイジェスト的に感じられる小品集として聞けば、過去作品も含めての理解も深まるし、何よりも心地よく流れる全15曲はアルバムとしても十分楽しめる。

 参加ミュージシャンはライアン・ポーターやマイルス・モズレー、キャメロン・グレイヴス、トニー・オースティンなど彼のアルバムなどでは旧知のメンバーに加え、HIPHOPやR&Bの大御所から支持を得るトランペッター、ドンテイ・ウィンスローが参加するなど豪華メンバー。さすがに手練揃いだけあって、オーケストレーションの中にあってもグルーヴするし、音数の少ないアンサンブルにあっても厚みは十分。カマシのこのサウンド・スタイルは、ひとつのフォーマットして確立されたようにすら感じる。