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山下達郎が参加、独自のファンクを追求した『HYBRID FUNK』

まず2018年5月にリリースされた『HYBRID FUNK』は、ENDRECHERIとしてのファースト・アルバムだ。

本作の注目すべきポイントは、山下達郎が参加していること。山下の参加は〈FUNKギターなら参加するよ〉というノリで決まったそうで、その〈ファンク〉で繋がった絆は“HYBRID ALIEN”という曲に見事に結実している(右チャンネルで目立つ高音弦中心の、キレのあるカッティングが山下の演奏だろう)。

2018年作『HYBRID FUNK』収録曲“HYBRID ALIEN”

しかし“HYBRID ALIEN”は、いかにも山下達郎風というわけではない。プリンスやザップの80sファンクを思わせつつ、ヴォーカルに過剰なエコーやエフェクト、パンニングが施されており、サイケデリックな音作りが特徴だ。このあたりのユニークな音楽的志向が堂本=ENDRECHERIらしい。

“MusiClimber”はファンカデリック風の怪しげなファンク・ロックで、“YOUR MOTHER SHIP”や“SANKAFUNK”“おめでTU”はパーラメントへのオマージュを感じる(〈MOTHER SHIP〉はパーラメントの76年の名盤『Mothership Connection』への言及だろう)。また多くの曲でファンカデリック/パーラメントのバーニー・ウォーレルを思わせるシンセサイザーの音が聴け、Pファンクへの愛が惜しげなく披露されている。プリンスへの愛も随所で感じられ、無視されがちな後期にあたる90年代から2000年代のプリンスを愛聴してきた印象も受けた。

2018年作『HYBRID FUNK』収録曲“YOUR MOTHER SHIP”

一方で“逝くの?!”はファンクのゴッドファーザー、ジェイムズ・ブラウン風のホーン・アレンジがキマっている。だが、1分45秒あたりから楽曲は急にダビーな音像に飲み込まれ、思いもよらない展開を聴かせる(その後、JB風に戻っていく)。

ラストの“Tonight”はファンクから離れ、90年代後半から2000年代前半のR&B風だ。その一方で一風堂の“すみれ September Love”(82年)に似たメロディーが登場する点が印象深く、本人が語るUKロックからの影響やニューウェイヴ/ポスト・パンク、s.h.i.氏が指摘する欧州ゴシックとの関連性も感じる。先の“逝くの?!”にせよ、このように堂本流の〈+α〉がファンクに加えられることで、ENDRECHERIの音楽は独自性を獲得しているのだ。

2018年作『HYBRID FUNK』収録曲“Tonight”

 

KenKenが参加したシングル『one more purple funk... -硬命 katana-』

続く『one more purple funk... -硬命 katana-』は、2018年8月に発表されたシングルである。

ENDRECHERI 『one more purple funk... -硬命 katana-』 RAINBOW ENDLI9(2018)

配信版では〈Complete Edition〉として5曲が収められ、EPやミニ・アルバムのヴォリュームだ。鬼や狐の面、龍のイラストが配された、なんとはなしにエロティックなアートワークが怪しく、ブラック・サイエンス・フィクションの発想を日本人の堂本が解釈したかのよう。ジョセフ・ライムバーグのアルバム『Astral Progressions』(2016年)のジャケットをふと思い出した。

表題曲はファンカデリックやジミ・ヘンドリックスを思わせるファンク・ロック。ベースはなんとあのKenKen(RIZE)で、1分44秒あたりからすさまじいベース・ソロを聴ける。シンプルなコードやフレーズのループでぐいぐいと盛り上げていくところはファンク・マナーだが、歌謡曲的なメロディーを艶めかしく歌うあたりがENDRECHERI印だ。

2018年作『one more purple funk... -硬命 katana-』収録曲“one more purple funk... -硬命 katana-”

対照的に音数を抑えた“funky レジ袋”は曲名からして強烈で、〈レジ袋〉の〈シャカシャカ〉という音がコーラスに翻案されているところがユーモラス。〈左に傾いていく様な/右に吸い寄せられてもいく様な/ハッキリしない/まるでこの耳の様な左右違う世界〉〈平和と愛の概念すら捨て/もっとファンキーにファニーに擦れ合いたい〉という、メッセージ性と官能的なイメージと自身の経験とを重ね合わせたかのような歌詞が実におもしろい。

2018年作『one more purple funk... -硬命 katana-』収録曲“funky レジ袋”

他には、プリンス風のアップテンポな“神機械”、落ち着いたR&B調の“Rainbow gradation”、パーラメント風のスペーシーな“奥奥奥之院”と、ユニークな音楽性と言葉遊びの効いた歌詞(古語などを意識的に取り入れた堂本の作詞センスは、実に素晴らしいと思う)によるENDRECHERIらしい曲が収められている。