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私はピアノを弾く時エモーショナルになるんだよ

――まずは新作『Sun Piano』を聴いた感想を伝えさせてください。ピアノソロ・アルバムだという事前の情報は得ていましたが、とてもメロディアスな内容で、非常に驚きました。エレクトリック・ツィターを使って創造されてきたこれまでのあなたの音楽よりも、とてもエモーショナルだったのです。

「ありがとう」

――その変化はどのようにして起こったのでしょう?

「私はピアノを弾く時はエモーショナルになるんだよ。ピアノを弾くと、他とは違った喜びや活気が生まれる。その出てくる喜びや活気は様々。

『Sun Piano』はこんな感じでダンサブルだが、この次にリリースされる『Moon Piano』はもっとフェミニンで、ソフトで、静かな作品になっているんだ」

『Sun Piano』トレイラー

――今『Moon Piano』の名前が出ましたが、本作を起点に三部作を発表されるということですよね。その構想について教えてください。

「ある時レコーディングのために2日間、ブルックリンの教会に入ったら、結構な量の曲が録れてね。3つのアルバムにわけなければならないほどの量だったんだ。

ワープのマシュー(・ジョーンズ)がどの曲をどのカテゴリーに割り当てるべきかを勧めてくれて、あの配分になったというわけさ」

――どのようなカテゴリーなんですか?

「『Sun Piano』はより明るく高揚感のある作品、『Moon Piano』はそれに比べてもっと〈ムーン〉な、夜に空想にふけるようなフィーリングの作品、そして3枚目の『Through Luminous Eyes』はピアノに加えてエレクトロニック・ツィターが使われているんだ」

 

なんて楽しい楽器なんだ! ピアノは感じるままに音楽とつながれる

――ピアノはララージさんが初めて触れた楽器でもあったそうですが、それはどのような状況だったのでしょうか? たとえば、家の中にピアノがあって、その演奏法やメソッドを習ったとか。

「私のチャーチ・ライフスタイルがピアノに導いてくれたんだ。教会では、常にピアノが身近にある。初めて教会でピアノを触った時は運よく周りに誰もいなくて、自由にピアノを弾くことが出来る状況だった。あれは教会の地下だったな。

そこから私はピアノに興味を持つようになり、それを見た母親が家にピアノを用意してくれて、ピアノ教室に通わせてくれたんだ。そうやって本格的にピアノを習い始めたのが10歳の時だった」

――初めてピアノに触れた時、何を感じましたか?

「なんて楽しい楽器なんだ!と思ったね。自分が感じるがままに自由に(音楽と)つながることが出来る。キーが沢山あって、それを駆使して無限の世界を表現出来る可能性に興奮した。

大きな音を出すものやパーカッションのような音に子供は惹かれるが、ピアノにはその要素もある。最初の頃は、ピアノを使って自分が好きなロックンロールやR&Bをコピーしていたよ(笑)」

――最初のうち、好きな曲を再現するのに四苦八苦はしなかったですか?

「いや、私は聴いた音をコピー出来る耳を持っていたから、すんなり出来たんだ」

――幼少期にピアノに触れたあなたが、音楽表現を自身のすべきことと自覚し、大学でも音楽を専攻するようになったきっかけはどういうものだったんでしょうか?

「アーマッド・ジャマルやアンドレ・プレヴィンといったジャズ・ピアニストからインスパイアされたからさ。彼らは常に私のインスピレーションだった。

ピアノは作曲をするのに最適な楽器だと思うんだけれど、ピアノに触れたことで、作曲の面白さも同時に感じられるようになっていったのも良かったのかもしれない。その知識をもっともっと深めたくてのめり込んでいったんだ」

 

『Sun Piano』は子供の頃のヴィジョンを大きなスケールで録音した作品

――本格的に音楽を学びたいと思い始めたのはいつですか?

「多分高校2年生の時。当時の私はエンジニアか建築家になりたいと思っていて、高校を卒業したらその技術を学ぼうと思っていた。

でもある人々と会話していた時、自分が一番愛を注いでいるのが音楽だということに気がつかされてね。その時から、その音楽への愛をもっと真剣に掘り下げようと思い始めたんだ」

――今回ピアノに触れて音楽を作るにあたっては、そうした自身の原点への回帰という意味もあったのでしょうか?

「そうだね。まるでピアノ人生のサイクルのよう。教会での地下室にあるピアノに触れ音楽を始め、今回は誰もいない広い教会でグランド・ピアノを弾きレコーディングをした。子供の頃に持っていたヴィジョンは同じまま、それをもっと大きなスケールでレコーディングしたのが今回の作品だと思う。

私の即興に対するアプローチは、まず家で準備運動のような感覚でピアノを即興で弾き瞑想をする。そして教会でピアノを弾くという瞬間に浸ることが出来るマインドになった状態で教会に行き、更に即興でピアノを弾き、そこで新鮮で新しい音楽が生まれる。

だから、アルバムに収録された曲の中で、あらかじめ準備をしていたものは一曲もない。全ては教会でピアノを弾いていた瞬間内に生まれ、出来上がった作品なんだ。そうやって出来上がった曲を、あとからアルバムにしていったんだよ」

『Sun Piano』収録曲“This Too Shall Pass”