太陽のように明るく輝くピアノ・アルバム

 一昨年の初来日につづき昨年にはまさかの再来日、一連の日本ツアーでは秋フェスなどもにぎわせファンの裾野をさらに広げたニューエイジの重鎮から今度はスタジオ作がとどいた。世界的に名をあげるきっかけとなったあのブライアン・イーノとの1980年の『Ambient 3』で披露したツィターやシンセ、それらの複合による音響と即興の奔放な遊び心こそ、ララージこと米国人エドワード・ラリー・ゴードンの真骨頂だが、彼の音楽の悠揚なたたずまいは同時代人ばかりか後進をも惹きつけ、デビュー40年をむかえる2020年には遠目にもあざやかな音楽史の一大カンバンとなっていた。本邦レゲエ~ダブ界の中興の祖オーディオ・アクティヴとの1995年の『The Way Out Is the Way In』しかり、21世紀になってからはブルース・コントロールやサン・アローなど、オルタナティヴかつメディテイティヴな面々から、ラヴコールがひきもきらないのはその証だが、ララージの旨味はサウンドが醸成するムードばかりにあるでなし、旋律や和声など書法の面にもその特異な音楽性が浸透していることは『Sun Piano』と名づけられたこのアルバムに端的にあらわれている。

LARAAJI 『Sun Piano』 All Saints/BEAT(2020)

 本作はピアノ一台による自作自演作で、序章にあたるごく短い“Embracing This”と最後の“Embracing Time”がEmbracing (抱擁)する10曲をふくむ全12曲。演奏は繊細さより質朴さを旨としタッチは野趣に富む。曲調はタイトル通り総体的に(長調で)明るく、朴訥なところは〈癒し〉の役割を担っているが、一方で安易なヒーリング音楽とは次元のちがう多層的な要素を備えてもいる。一例をあげると、ゴスペルの進行感やブルー・ノートがそこかしこにあり、唱歌の伴奏風というか舞曲風というか、古典派の時代を彷彿させるのだが、総体としては教会~宮廷音楽というより民俗的な土の匂いがする。しかもその風味は、聴けば聴くほどかみしめるほどににじみだす仕掛けとなっているのだ。ときおり顔をのぞかせる東洋風の隠し味とあいまって、いちがいにモダン・クラシカルともいえない『Sun Piano』はララージという奥深き秘境の入口を指し示すかのようである。

 


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