Photo by Daniel Oduntan 

2018年に実現したまさかの初来日、そして翌2019年の再来日を通じて、ララージはアンビエント界の謎めいた存在から、一気に近しいものになったと言ってもいいだろう。来日時の取材でユーモアを交えながら快活にしゃべっている様子を収めたインタビューもいくつか読んだし、2019年に出演した〈FESTIVAL de FRUE〉ではサム・ゲンデル、カルロス・ニーニョとの即興セッション、独自のメソッドによる早朝ヨガ指南も行うなど、音楽家という以上にひとりの人間としての柔軟な感性と器の幅広さを感じた。また、2019年にLA郊外のライブハウスで観た、これまで以上に幅広い年齢層の観客に見つめられるなかでの悠然としたパフォーマンスも忘れがたい。

そんななか、新たにリリースされるアルバム『Sun Piano』は、ソロ・ピアノ演奏を収めたものだ。インタビューで自身も語っているように、三部作としてそれぞれ性格の異なる作品のリリースも予定されている。それらの素材となったブルックリンの教会で行われたセッションは、カート・ヴァイルやウォー・オン・ドラッグスのエンジニアを務めるジェフ・ジーグラーがレコーディングを担当したというのも興味深い。

また、なにより心を惹かれるのは、『Sun Piano』でララージが弾いているピアノが、基本的な静謐さはあるとしても、とてもダイナミックでエモーショナル、かつメロディアスであることだ。そもそもピアノはララージが初めて触れた楽器だったというし、アメリカ民謡として広く親しまれている“Shenandoh”が選曲されていたり、彼自身のルーツを感じさせる要素が濃い。もちろん、エレクトリック・ツィターでの演奏にも表れる〈ララージらしさ〉もレイヤーのように重なり合う。そして、ララージ、ピアノ、教会のエコーが三位一体となって作り出す音は、暗いニュースが多いこの世界とアメリカ社会をうっすらと照らす陽の光のようだ。

ピアノという自身のルーツにある楽器と再び向かい合った新作について、ララージに語ってもらった。

LARAAJI 『Sun Piano』 All Saints/BEAT(2020)