期待株がひしめくコンピレーション『S.W.I.M.』とは何か?

 さまざまな才能が国内外を問わず飛び出してくる昨今、〈ニューアイコンとなる注目のアーティスト〉を見つけ出すべく、ULTRA-VYBEによる新たなプロジェクト、S.W.I.M.がスタートした。〈S.W.I.M.〉とは〈Seek, Wonder, Iconic, Music〉の略で、素晴らしい楽曲や今後シーンのアイコンとなっていくアーティストを探していくという意味合いから名付けられたもの。そして、そのように音楽シーンに新しい波を立てるようなアーティスト全17組の楽曲をコンパイルしたのが、このたびリリースされる『S.W.I.M. #1 -polywaves-』である。

VARIOUS ARTISTS 『S.W.I.M. #1 -polywaves-』 VYBE MUSIC(2020)

 一口に新進気鋭といっても、収められた面々のキャリアも現状の知名度も活動拠点もサウンドの傾向もさまざま。オープニングをフューチャーR&B調の“Runway”で心地良く演出するのは、ボストン在住シンガーのVivaOla。続く福岡のYOHLUによる“&I”もすでに人気の都会派チューンだ。同じく福岡で活動するI’mの“BATHROOM”も同系統のメロウネスを備えた心地良いアップ・ナンバー。さらに福岡のアーティストという意味ではシンガー・ソングライターのAlex Stevensによる曲名通りの“BEACH HOUSE CLUB”もレイドバックしたチル加減がたまらない。

 他にも東京~ロンドン~NYを跨ぐコレクティヴのLaastcに所属するNY在住ラッパーのMÖSHI、R&B志向な大阪の男性シンガーであるPeggy Doll、サイケでチルな5人組バンドのAmerican Dream Express、配信曲がバイラル・ヒットしているカメレオン・ライム・ウーピーパイ、ヒップホップ・バンドのTOKYO RAVE GROUPIE、昨年『Jelly』が話題になったUNERI……と、単曲で話題の注目株から作品を重ねている人まで多種多様。

 受け手の嗜好や傾向がジャンル以上に大きい〈ジャンル〉を形成している現代において、今回のコンピもある種の統一感を備えた〈プレイリスト〉として楽しまれるものだが、〈S.W.I.M.〉がそれをわざわざフィジカルでコンパイルしている背景には、ここから聴き手の一人一人が聴き流されないお気に入りを見つけ出す入口にしてほしいという思いもあるに違いない。今回は『S.W.I.M. #1 -polywaves-』と同時に登場するasmi、SPENSR、碧海祐人の単独作品を紹介しておこう。 *轟ひろみ

 

asmi
フリーフォームな歌心でリスナーを鷲掴みにする19歳の新星

 関西を中心に開催されている10代の才能発掘プロジェクト〈十代白書〉において2020年度のグランプリを獲得、さらにはRin音“earth meal”へのフィーチャリングで響かせたジェントルなヴァイブス&キャンディー・ヴォイスも記憶に新しい大阪在住のシンガー・ソングライター、asmi。それと前後し、クボタカイ作品などの仕事で知られるTaro Ishida、Shun Marunoのプロデュースによる“lemon tea”“cre­am soda”といった自身の先行配信曲によって着実に知名度を上げてきた彼女が、ファースト・アルバム『bond』をリリースする。

asmi 『bond』 ROOFTOP(2020)

 リズミックにたゆたうメロディーと柔らかく気怠い歌声にいきなり鷲掴みにされる“summer sour”で幕開ける本作。先述のチル・ラップ勢やとも通底するメロウかつ親密なムードを湛えつつ、泉まくらやその影響下にある女性ラッパーたち――ひいてはCharaやaiko、杏沙子あたりのリスナーにもドンピシャであろうフリーフォームな歌い回しと、ハイティーン女子ならではのままならない恋心や日々の徒然を綴った歌詞もいい。ゆるファンキーな“anpan”やほんのりダビーな“おすしの唄”など、タイトルだけからは想像のつかないラヴソングにニヤリとさせられ、とはいえそれらのウェットな心情も軽やかに着地させる歌心がここにはあって、そのバランス感覚は何ともクセになる。鍵盤とふんわり寄り添うラストのミディアム“lonely midnight”まで、それぞれのセンチメンタリズムと向き合う時間をたまらなく心地良いグルーヴで満たしてくれる、キュートなベッドルーム・ポップ集。早々にブレイクしそうな逸材の登場だ。 *土田真弓

asmiが参加した作品を紹介。

 

SPENSR
アダルト&エッジーに迫るエレクトロニック・ソウル

 SPENSRは、2018年に活動を終了したバンド=KIWILIPSのカズキ_ウツミが新たに立ち上げたソロ・プロジェクト。詞曲からトラックメイクまでを自身で担ったエレクトロニックでソウル/R&Bを洒脱に昇華した楽曲を世に送り出し、5月には初のアルバムを発表。エッジーなポップスを求める向きにその名を印象付けてきた。さとうもかのアルバム『GLINTS』にアレンジで参加したことも記憶に新しいところだろう。そんな彼が前作からわずか4か月でリリースする新作EPが『MOIST FUTURE』だ。

SPENSR 『MOIST FUTURE』 VYBE MUSIC(2020)

 冒頭の“LIPS”はコンピ『S.W.I.M. #1 -polywaves-』にもピックアップされたナンバーで、ロマンティックなピアノがアダルト・オリエンテッドなムードを醸造する極上のスロウに仕上がっている。クロージングを飾る“MOIST”も落ち着いた雰囲気を湛えたミッド・チューン。スムースなトラックに託したビターな物語がじんわりと胸に染み入る。一方の“Polyline”はケイトラナダあたりを引き合いに出したくなる浮遊感とファンクネスを纏ったアップ・リフティングな逸品。“U&I”も導入こそアンビエントめいた静謐なサウンドが展開されるが、徐々にビートが加わり、やがてエモーショナルな4つ打ちダンス・チューンへと変貌していくのがおもしろい。

 メロウネスたっぷりのスロウ~ミッドとダンス・チューンというSPENSRのソングライティングにおける2つの軸が、本作には最良の形でパッケージされている。この非凡な才覚を知る入り口としても完璧に機能するEPだ。 *澤田大輔

 

碧海祐人
ジャズやソウルのフィーリングから立ち上がる郷愁と叙情

 ファルセットを交えた儚い歌声、シームレスにラップへ移行するメロディーラインでメランコリックな叙情を音像化する名古屋発のシンガー・ソングライター、碧海祐人(オオミマサト)。昨年12月にソウルフルなヴォーカルとクワイア風のコーラスが印象的な初音源“秋霖”を配信し、今年5月リリースの“Comedy??”はSpotifyの〈New Music Wednesday〉や〈ブルーにこんがらがって〉〈TOKYO GROOVE selected by DJ HASEBE〉、台湾のSpotifyチームによる〈J-Pop 新幹線〉といった多くのプレイリストがピックアップ。そのメロウネスを浸透させてきた彼が、初のフィジカルEP『逃避行の窓』を完成させた。ジャズやソウル、R&Bなどのフィーリングをマイルドに採り入れた碧海サウンドをエンジニア/マスタリングの面から援護したのは、OvallやKan Sano仕事も担う藤城真人。そしてリード曲“夕凪、慕情”には石若駿がドラムスで客演。本人が影響を公言するceroも思い浮かぶような、オーガニックなバンド・サウンドを絶妙なタイム感で支えている。

碧海祐人 『逃避行の窓』 VYBE MUSIC(2020)

 他にも抑えたトーンと緩急に富む旋律に感情の機微が滲む“残照”、アトモスフェリックな音響空間の中にレイジーな歌唱を浮かべる“Atyanta”など、どこかノスタルジーも掻き立てる楽曲に心が疼く。KAKUBARHYTHMやAPOLLO SOUNDS周辺好きは特に要チェックのニューカマーだ。 *土田真弓

 

『S.W.I.M. #1 -polywaves-』に楽曲を提供した大注目すべき顔ぶれの単独作品は他にもあるよ!

Gi Gi Giraffe 『HOME MADE WORKS 2』 Gi Gi Giraffe(2020)

フロントマンのK.Uによる宅録プロジェクトからバンド形態に発展し、2016年の初作『Gi Gi Giraffe』が高い評価を得ていた彼ら。活動休止を経て久々に届けたこのEPもタイトル通りのローファイな好曲揃いで、骨太なロックやフォーキー系までを聴かせる様子はドミコ好きにもフィールしそう。

 

illiomote 『SLEEP ASLEEP...。』 SPEEDSTAR MUSIC/ULTRA-VYBE(2020)

幼馴染みのYOCOとMAIYAによるハイブリッド・ポップ・ユニットで、昨年“In your 徒然”を公開した時点で話題になっていた池袋出身ユニットの初フィジカル作。サンプリングとギターを武器に90sライクなユルさも備えたポップセンスが素晴らしく、“summer night”は残暑にもよく効きそう。

 

昨年9月に結成された4人組バンドが、その数か月後にタワレコ一部店舗で流通したフィジカルEP。繊細な歌唱とオルタナ志向の壮大な音風景が持ち味で、今年に入ってからは〈S.W.I.M.〉コンピにも提供したダンサブルな“Life-size”や“Everything I (don’t) wanted”を配信リリースしている。

 

福岡の多才なコレクティヴ、BOATに属する話題のユニットが配信曲をまとめた初のフィジカル作。フューチャー・ソウルでもシティー・ポップでも呼び名はさておき、ここ数年の今風インディーのド真ん中を射抜く心地良さ! 本作に先駆けて配信した関口シンゴ曲の“FLIGHT LIGHT”も話題になった。

 

gato 『miss u/luvsick (kyazm remix)』 OCTAVE(2020)

2018年に結成され、現在はVJも含む5人組のエレクトロ・バンドで、フューチャー・ベースやポスト・ダブステップなどを取り込んだヴィヴィッドなサウンドを聴かせる注目株。RSD対応でリリースされるこの7インチは昨年リリースのEP『miss u/C U L8er』所収の人気曲などをカップリングした一枚だ。