競技人口1人のスポーツをひたすら極めている感じ
――ついサムの動きに目が行きがちですが、フューチャー・アイランズは演奏力の高さにも定評がありますよね。
山本「来日公演の時もそこは印象的でした。なかでもドラマー(マイケル・ロウリー)がすごくよくて、どうやら彼は今回の新作からバンドの正式メンバーになったみたいですね。ああいうニュー・オーダーみたいにメロディアスなベースを聴かせるバンドは、ドラムがタイトじゃないと成り立たないんですけど、彼のドラムは抜群の安定感だった」
佐藤「さすがですね。それこそ僕は終始サムに釘付けだったので、ドラムの上手さには気が回りませんでした(笑)」
――彼らはよくニュー・オーダーを引き合いに出されますが、本人たちはクラフトワークの影響も公言していますよね。あくまでもパフォーマンスに関して言えば、フューチャー・アイランズとクラフトワークは真逆な気もしますが(笑)。
山本「たしかに。でも、サム以外の二人はまったくの無表情ですからね(笑)。あそこまでフロントマンと他のメンバーのテンションにギャップがあると、なんとなく観ていて冷めるライブもあるんですけど、彼らに関してはむしろそこがいいんですよね」
佐藤「今までたくさんライブを観てきましたけど、自分のなかでフューチャー・アイランズだけはちょっと違うんだよな。競技人口一人のスポーツをひたすら極めている感じというか(笑)。誰もがやってないことをたった一人で真面目に取り組みつづけているような熱さがあるんですよね」
――まさにオンリー・ワンだと。
佐藤「そう。だからこそ、日本で彼らの魅力を知ってもらうには難しいところもあるんです。きっかけとしては何がいいんだろう……。
たとえばサムは〈Hemlock Ernst〉名義でラップやってたり、マッドリブと一緒に〈Trouble Knows Me〉を組んでたりするので、そうしたヒップホップ・アーティストとしての側面を紹介してみてもいいのかな。バッドバッドノットグッドがサムをフィーチャーしたヴァージョンの“Seasons (Waiting On You)”とか、めちゃくちゃかっこいいですからね」
佐藤「あと、フューチャー・アイランズは物販がかわいいんですよ。彼らのデザイン面はベースのウィリアムが担当しているんですけど、そこはさすが美大出身者というか、センスいいんですよね。
あと、彼らは照明デザインも評判がよくて。大きな会場でやるときはかなり作り込んでくるんです。なんだかんだヴィジュアル面を大切にしてるバンドなんだなと」
ライブを観て号泣しちゃった
――では、これからフューチャー・アイランズを初めて聴く人にはどの曲をオススメしますか?
佐藤「それ、いちばん難しい質問かも(笑)」
山本「フューチャー・アイランズって、基本的に音楽性がずっと変わってないんですよね。聴き比べると音質面に関してはけっこう変化してるんですけど」
佐藤「シンセサイザーの音色なんかも、初期からずっと同じものを使ってますよね。彼らには〈これでいく〉と決めた音がすでにあるんじゃないかな。それを踏まえて、個人的には“Long Flight”という曲をオススメしたいですね。すごくノリがいい曲だし、海外の音楽をよく聴く人なら思わず反応してくれるんじゃないかな」
――スリル・ジョッキーから出していた初期作と、4ADに移籍した『Singles』以降の作品を聴き比べると、サウンド・プロダクションの質はだいぶ変わりましたよね。それこそ初期はローファイというか。
山本「初期作はまさにUSインディーって感じですけど、これがライブになるとサムのパフォーマンスによって印象がガラッと変わるんですよね。それは新作についても言えることで、この前の配信ライブでも“For Sure”をやってましたけど、やっぱり音源よりもクセが強くなってました(笑)。なので、予習と言ったらアレですけど、音源をしっかり聴き込むほどライブがより楽しめるというのはありますよね」
佐藤「あと、フューチャー・アイランズの作品を聴く時は、ぜひ歌詞の翻訳を読みながら聴いてみてほしいですね。サムの書く歌詞は〈詩〉としての完成度がものすごく高いので」
山本「そう、フューチャー・アイランズは歌詞カードを読みながら聴きたくなるし、その内容を理解したうえでライブを観ると、サムの動作の見え方が全然ちがうんです」
田中「サムの歌詞は本当に泣けるんですよね……。私、普段はライブで泣くことなんてまずないんですけど、フューチャー・アイランズのときはホント号泣しちゃって。気づいたら自然と会場の前方に足が進んでたんです。
それにサムが歌ってる姿って本当にセクシーなんですよ。なかなか写真じゃ伝わらない魅力というか、これもまたライブを観てもらわきゃわからないと思うんですけど」
山本「うんうん。なので、好きなアーティストの宣伝でこんな言い方はおかしいけど、とりあえず騙されたと思って一回観てほしいんです(笑)。特にフェスだと観るものを選べるので、とりあえず30分だけでいいから、試しに観てほしいんですよね」
佐藤「もし今年の〈フジロック〉が開催されてたら、間違いなくフューチャー・アイランズは今年の大穴でしたよね?」
山本「僕らとしては完全にそのつもりだったよね。ものすごいバズるかもしれないし、観たらみんな絶対に腰抜かすよねって」