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不失者

ロックの弁護士

――73年に裸のラリーズの水谷(孝)さんとブルー・チアーのカヴァー・バンドをやったそうですが、その経緯・意図は?

「ロング・ヘアーが好きだし、ブルー・チアーが好きだから。確か2回スタジオに入った。誰かが録音していたみたいだけどオレは覚えていない」

――73年7月から裸のラリーズと共同でイベント〈エレクトリック・ピュア・ランド〉を始めました。企画は髙橋さんが中心だと思いますが、灰野さんとしてはラリーズとのイベントをどう感じていましたか?

「自然な流れだね。なるべくしてなった。オレたちとラリーズはやっていることが違うから一緒にできたんだ。〈エレクトリック・ピュア・ランド〉では一度も揉めたことはないよ。実務はすべてオシメ(髙橋のニックネーム)に任せた。交渉は彼の方が得意だったし、リーダーが二人いると必ずぶつかるからね。チラシ配りだけは一緒にやったけど」

――74年5月5日、最後の〈エレクトリック・ピュア・ランド〉でのソロ・ライブは、ステージの4つの椅子の前にマイクを立てて、ひとつの椅子にロングブーツ、2つ目に1万円札を置いたそうですね。3つ目は忘れたそうですが……。

「いま思い出したけど、3つ目の椅子に置いたのはコードのついていないマイクだった」

――そして4つ目の椅子にスイッチをオンにしたジューサー・ミキサーを置いて、その音をマイクで拾いながら詩の朗読をするというユニークなものだったそうですね。どうやらこの時の録音がどこかにあるらしいですが。

「おそらくこれが日本で初めてのノイズじゃないかな? フルクサスのヘニング・クリスチャンセンや川仁宏さんのように、何でもないような事でも、やる人によっては醸し出す魔術がある。日比谷のライブがそのようになっていたら嬉しい。実際に魔術になったかどうかは分からないけど。音楽に対するアンチテーゼだよ。

ハプニングとかインスタレーションをやり出した人間の中で、オレが唯一のロック畑の人間だと思う。だからその頃から自分を〈ロックの弁護士〉と呼び始めたんだ」

 

三里塚で石を投げられたことがオレの宝

――灰野さんがずっと音楽をやり続けている中で、ロスト・アラーフとはご自分にとってどういう意味があるのでしょうか。

「対談でも言ったように、ロスト・アラーフがあったから今のオレがいる。三里塚で石を投げられたことがオレの宝。あの時受け入れられていたら、不失者は生まれなかっただろう。50年という節目に集大成CDをリリース出来て本当によかったと思う」

――結成50周年の集大成音源集CD『LOST AARAAF』の装丁について聞かせてください。アルバム・ジャケットを〈赤〉にした意図は?

「一言で言えば〈やりたかった〉から。デザイナーの北村(卓也)君、彼はオレのやりたいことを分かっていて、〈あの赤〉を持ってきてくれた。これはなんだ?と驚く色。だから赤にしたんだ。

特に限定盤のジャケットの形と色合いがとても綺麗に出来て、紫色に銀で印刷した歌詞カードと合わせて自分の美意識にピタッとハマった。美術品としても価値があるものが作れて満足しているよ」

 


RELEASE INFORMATION

ロスト・アラーフ 『LOST AARAAF(豪華仕様完全限定盤)』 SUPER FUJI(2020)

リリース日:2020年12月30日(水)
品番:FJSP411
仕様:2CD 豪華仕様完全限定盤
価格:5,900円(税別)

■LPサイズ両開きハード・カバーくるみトレー仕様(サイズ 315 × 315 ×11)
■歌詞カード
①灰野敬二聞き取りによる
②アラン・カミングスによる英訳
■曲目・演奏クレジット

 

ロスト・アラーフ 『LOST AARAAF(通常盤)』 SUPER FUJI(2020)

リリース日:2020年12月30日(水)
品番:FJSP413
仕様:2CD 通常盤
価格:3,660円(税別)

■2CDマルチ・ケース
■歌詞カード
①灰野敬二聞き取りによる
②アラン・カミングスによる英訳
■曲目・演奏クレジット
■ライナーノーツ
①鳥井賀句
②髙橋廣行
■対談:灰野敬二 × 髙橋廣行(17,000字)
■ロストアラーフのライブ活動記録詳細年表(1970~1974年)

 

TRACKLIST
CD1
1. 叫喚地獄(27:39) 日本幻野祭/三里塚1971年8月
浅海章:Piano
灰野敬二:Vocal, Single Reed
髙橋廣行:Drums
2. 最後の審判(29:16) 精進湖ロックーン/精進湖畔1971年8月
浅海章:Electric Piano
灰野敬二:Vocal, Single Reed
髙橋廣行:Drums

CD2
1. 1999年の微笑(38:00) ELECTRIC PURE LAND #3/目黒杉野講堂1974年1月
灰野敬二:Vocal, Petphone
髙橋廣行:Drums
須田茂:Piano
斉藤:Electric Upright Bass
2. Midnight Walk(14:49) 渋谷オスカー1971年3月
浅海章:Piano
灰野敬二:Vocal, Prepared Slide Guitar
髙橋廣行:Drums
3. Law Out(8:07) 渋谷オスカー1971年3月
浅海章:Piano
灰野敬二:Vocal
髙橋廣行: Drums

 


PROFILE: 灰野敬二
70年、エドガー・アラン・ポーの詩から名を取ったグループ〈ロスト・アラーフ〉にヴォーカリストとして加入。また、ソロで自宅録音による音源制作を開始し、ギターやパーカッションを独習する。78年にロック・バンド〈不失者〉を結成。ソロのほか不失者、滲有無、哀秘謡、Vajra、サンヘドリン、静寂、なぞらない、The Hardy Rocksなどのグループ、〈experimental mixture〉名義でのDJ、他ジャンルとのコラボレーションなど、多様な形態で国際的に活動を展開。ギター、パーカッション、ハーディ・ガーディ、各種管弦楽器、各地の民族楽器、DJ機器などの性能を独自の演奏技術で極限まで引き出しパフォーマンスを行う。これまでに170点を超える音源を発表し、確認されているだけでも1,500回以上のライブ・パフォーマンスを行っている。

PROFILE: ロスト・アラーフ
70年5月、〈ビートルズ・シネ・クラブ〉主催のイベントに学生だった浅海章(ピアノ)と髙橋廣行(ドラムス)が出演。同年7月に灰野敬二がヴォーカルで参加、さらにギタリストが加わり、〈ロスト・ブラック〉から〈ロスト・アラーフ〉に改名。同月、フラワー・トラベリン・バンドや村八分などが出演した富士急ハイランドのイベントから本格的に活動を開始。ロック・フェスティヴァルや学園祭、地方ツアーをはじめ、前衛劇団の音楽を担当することも。その楽曲には一部作曲されたものもあるが、ほとんどがピアノとドラム、ヴォーカルの完全な即興によるもの。自由奔放なスタイルによる不定形な演奏は長らく理解されなかったが、現在は海外からの支持が厚い。