静寂の果て 消え去らない精神
灰野敬二、ナスノミツル、一楽儀光の三人による〈静寂〉は、灰野のバンド〈不失者〉を受け継ぎつつ、アップデートした「21世紀のブルース・バンド」として、2009年に結成された。ブルースやロックという音楽形式にもとづきながら、それを定型のリズムで時間を分割するのではなく、それぞれのパートが絶妙なる間合いによって、自在に時間を分節化しつつ、フリー・ブルース、フリー・ロックとでも言い得るような、これまでに体験したことのない彼らでしかあり得ない、彼らだけの最高のブルース/ロックを体験させてくれる。これは、バンドにおける唯一無二のドラマーである、一楽儀光の最後の演奏となったライヴであり、それゆえ〈静寂〉というバンドの最後のライヴともなった演奏を記録したライヴ・アルバムである。二枚組、トータル二時間を超える演奏が収められているが、その間、演奏の強度と緊張感は一瞬たりとも緩むことなく持続する。
震災をへて、その直後のライヴではじめて演奏、発表された曲《いらない》は、人類の歴史を軽く凌駕するほどのスケールの問題に私たちが直面している現在、それを消えない音でたちむかうかのような作品だ。鋭利な音、言葉が私たちに突き刺さる。ふいに灰野は誰にともなく言葉を投げつける。ここに聴き取ることができるのは、おそらくいま聴かれるべき、もっとも大切な言葉なのではないかと思える。そして、いらないものはこの音楽からはまったく聴こえてこない。
一方、同時に発表される『静寂の果てに』は、『LAST LIVE』のあと、三人によってライヴ演奏された作品である。それは、二枚組、二時間弱の、ドローンともアンビエントとも形容されるだろう、持続音による演奏が続く。それはたしかに、静寂の果てに、消え去らずに残り続ける意志とも言えるもののように聞こえる。灰野、ナスノ、一楽の3人が放つ音が、どこまでも残響し続けていくかのようだ。あわせて聴くことをお勧めする。