aikoからニューアルバム『どうしたって伝えられないから』が届けられた。前作『湿った夏の始まり』から約2年9か月ぶりとなる本作には、シングル“青空”“ハニーメモリー”を含む13曲を収録。豊かさを増したメロディーライン、人を愛することの切なさ、痛み、美しさを綴った歌詞からは、彼女のさらなる充実ぶりが伝わってくる。
シングル『青空』のリリース、初のオンラインライブ〈Love Like Rock vol.9~別枠ちゃん~〉の開催、東京スカパラダイスオーケストラの“Good Morning~ブルー・デイジー feat. aiko”にゲストヴォーカルとして参加するなど、2020年を多彩な活動で彩ったaiko。約2年9か月ぶりとなるニューアルバム『どうしたって伝えられないから』には、この時期に彼女自身が感じたことが、色彩豊かなサウンド、奥深さを増したヴォーカルとともに反映されている。
「今回のアルバムは、2020年に作った曲がけっこう多くて。去年はいろいろなことを考えていたので、それも曲のなかに出ているかもしれないですね。ただ、〈元気になれる曲を作ろう〉みたいなことは思っていなかったし、〈この時期のことを忘れないでおこう〉という気持ちを歌詞にしたつもりもなくて。そのときに書きたい曲を書いていたんですが、スタッフのみなさんに聴いてもらったときに、〈思ったよりも前向きな歌詞が多くて良かったです〉と言ってもらえて。〈私、生きたいって思ってたんだな〉と歌詞を見て気づきましたね」
〈ねえ 合鍵も返さないで何してるの?〉という冒頭のフレーズで心をグッと掴まれる珠玉のバラード“ばいばーーい”から始まり、〈あなたの隣でいるということ それが生活〉と語りかけるように歌う“いつもいる”でエンディングを迎える本作。人はいつか一人になる。でも、だからこそ、大切な人との時間を大切にして、できるだけ穏やかに日々を送りたい――そう、このアルバムには、生きていくことの本質が描かれているのだと思う。
「若い頃は〈永遠ってある〉って思ってたんですけど、少しずつ〈いや、そんなことないな〉と感じるようになって(笑)。だからこそ、楽しく過ごすことは大切だなと。20代の頃にはわからなかったこと、たとえば〈たくさん笑うことって大事〉とか、小さい子供がやるようなことを素直にやりたいんですよね」
恋人が仕事前にシャワーを浴びている音を聞きながら、ぼんやりと別れの予感を感じている〈僕〉の感情を綴った“シャワーとコンセント”。どうしても分かり合えない二人の関係をポップかつリズミカルなメロディーとともに描いた“磁石”。aikoの最大の魅力であるラヴソングももちろん、本作の大きな聴きどころだ。
「“シャワーとコンセント”は、〈昔、好きな人がシャワー浴びてるときって、いろんなことを考えてたな〉って思い出しながら書いた曲ですね。この曲、アレンジがけっこう複雑で、レコーディングが大変だったんですよ。ミュージシャンのみなさんが〈難しい!〉って言ってましたけど、それがまた楽しくて。“磁石”は、〈この人とはきっと血の色も違うんだろうな〉と感じたのがきっかけかな。絶対に分かり合えないし、くっつくことは二度とない、っていう(笑)。言葉と音のハマりがすごく良くて、歌ってて気持ちいい曲です」
また、歌とピアノを軸にしたアレンジと、イノセントな恋心を映し出す歌詞が印象的な“片想い”も心に残る。まるで10代の頃のような純粋な恋愛感情が生き生きと表現されたこの曲には、シンガー・ソングライターとしての彼女の魅力が息づいている。
「“片想い”って、〈aikoの曲のタイトルにありそうな言葉〉というTwitterのお題に出てきそうですよね。今まで取っといてくれてありがとうって、自分に言いたいです(笑)。10代の頃の片想い、今も覚えてるんですよ。中学とか高校のとき、グループで遊びに行って、好きな男子と手が触れ合ったとき、フラッとめまいを起しそうになる感じとか。いろんな時期のいろんな気持ちがずっと心のなかにあるから、こういう曲が書けるのかもしれないですね」
曲が出揃ったときに、〈伝えられなかったことを歌詞にしてるな〉と思って、このタイトルにしましたという『どうしたって伝えられないから』。リアルな感情を普遍的なポップミュージックに昇華させた本作はまちがいなく、aikoの新たな代表作になるはず。また、このアルバムを作り上げたことは、彼女自身の創作にも大きな影響を与えそうだ。
「これまでも周りのみなさんから〈歌いたい曲を作ればいい〉って言ってもらってたんですけど、もっともっと楽しもうと思えるようになりました。〈モノを作ることは自分を傷つけること。だからいいものが出来るんだ〉ではなくて、そのときに〈いいな〉と思う曲をたくさん書きたいなって。もちろん勉強しなくちゃいけないこともあるけど、歌いたい曲を素直に作って、みなさんと楽しく生きていきたいですね」