aiko初のシングル・コレクション『aikoの詩。』は、もちろん〈ただの〉シングル集ではなかった。ライヴのセットリストを練るように曲順にこだわり、通常、アルバムに収録されないカップリング曲のベスト盤が付いている。一貫してラヴソングを歌い、変わらないために変わり続けるaikoのシングル集という名の、〈名曲集〉だ。

aiko aikoの詩。 ポニーキャニオン(2019)

 6月5日、aiko初のシングル・コレクション『aikoの詩。』が発売される。1998年にリリースされた1stシングル『あした』から、最新シングル『ストロー』(2018年)までの、38枚のシングル作品の両A面シングルを含む表題曲、全42曲が3枚に収録され、シングル・カップリング曲を1枚にまとめた、カップリング・ベスト盤を含む4枚組だ。

DISC1~3のシングル表題曲は時系列ではなく、「ライヴのセットリストを考えるように考えてみました」とaikoが言うように、〈流れ〉と、そこから生まれる〈空気感〉までを楽しんで欲しいという思いが込められた曲順になっている。「Love Like Pop・Rock・Aloha」と、いくつものスタイルのライヴでファンを楽しませ、ライヴに軸足を置いた活動を20年間続けているaikoならではの発想だ。「まず一曲目が決まると、そこからスムーズに決まっていきました。曲が終わりに近づくと、次のイントロが頭の中に流れてきたんです」。初回限定仕様盤には、「aiko はじめてのスタジオライブ」と題した特典DVDが付く。“ドライヤー”“冷凍便”など4曲のスタジオ・ライヴ映像が収録されている。ライヴを大切にしている姿勢がここにも表れている。

一方、カップリング集の選曲には時間がかかったという。aikoはシングルのカップリングがアルバムに収録されることが少ない。それは「常に新しい曲を聴いて欲しい」という思いから来るもので、だからファンにとってはどの曲が選ばれたのか、気になるところだ。「悩みに悩みました。どの曲も愛おしいし、でも全部入れられないので、“こんぺいとう”と“ココア”だけは絶対入れたい!と主張しました(笑)。“ココア”は当時ファンの方から、〈不倫したことあるの?〉って言われ(笑)、もちろんしたことがないですけど、曲が色々な人に届いて、色々な解釈が生まれるんだなということを実感できた曲です」と、特に思い入れの強いカップリング曲を教えてくれた。

aikoは2011年、デビュー13年目に初のベスト盤『まとめ1』『まとめ2』を発売しているが、この時も「いまだに私なんかがベストを出していいものなのかなって」と語っていたが、それは今回も同じだ。

「シングル集を出してもいいアーティストに、なれているのだろうかと思いました。それに自分の21年間が一枚(ひとつ)に収まってしまうのかぁと思うと、ちょっと複雑な気持ちでした(笑)。でも前を向いて進むために作ろうと思ったし、どうやったらみなさんに喜んでもらえるかを必死に考えました」。

それは価格にも表れている。この作品の詳細が発表になったときにネット上では「安すぎないか?」と話題になったほどだ。その声に対しaikoは「ただ必死に頑張ってもがいてより多くの人に届くためにはどうしたらいいかを考えた結果です。伝えたいし届けたいし長く歌っていきたいんですー! CDをまた手に取ってほしいなーって」(抜粋)と、自身の20年という時間と、スタッフと共に作り上げた結晶をとにかく手に取って欲しい、聴いて欲しいという真っ直ぐな思いを伝えた。

20年間一貫して「あなたと私」の世界から生まれる生々しい感情=ラヴソングを歌い続けてきた。その〈潔さ〉は、変わらないために変わり続けているaikoの強さでもある。ポップさの中に潜む毒、恋愛の苦しさ、もどかしさは、恋愛をしている人の、言葉にできない心模様を代弁してくれている。だから世代も男女も関係なく愛される。20年間を振り返る作品ではなく、これからどんなラヴソングを聴かせてくれるのかが楽しみな作品だ。aikoに、ポイントになったと思うシングルは?と聞くと、「“ストロー”」と最新シングルを挙げてくれた。「〈君にいいことがあるように〉という、前向きで希望がある歌詞を書けたし、それがみなさんに届いているんだなと、実感できているからです」

全速力で走り続け、〈更新〉を続けるアーティストは、強い。