コロナ禍で異能が集い、新たな〈いのち〉の芽吹きを、朗読+音楽で讃える話題盤。
音楽物語と銘打ったCD『葉っぱのフレディ~いのちの旅』の、制作前史を德川眞弓が教えてくれる。
「ちょうど森繁(久彌)さんのCDが出た当時、私自身が気持ちがウツウツしていた時で、好きな温泉に浸かっても美味しいものを食べても気が晴れずに困っていたら、友人が『葉っぱのフレディ』のCDを贈ってくれたんですね。〈あ、生きるってこういう事なんだから、私もこのままでいいんだ〉〈こうしていろんなものを抱えながら、それと付き合いながら進めばいいんだ〉と納得して、すごく救われたし、あのCDに癒されたんですね」
朗読:森繁久彌/音楽:東儀秀樹&井上鑑の同作(録音:99年6月)は10万枚を超えるヒットとなり、日本レコード大賞企画賞を受賞した名盤。時が流れ、同作の制作者(仙波知司)との偶然の出逢いがあり、協力が得られ、〈あの作品をぜひステージに乗せたい!〉との彼女の悲願が、昨秋開催のピアノ・リサイタル(千葉・アミュゼ柏)、そのメイン・プログラムとして成就した。宇崎竜童(朗読)+井上鑑(作曲、キーボード他)+德川眞弓(ピアノ)による『葉っぱのフレディ~いのちの旅』は、大好評だった同公演の試みをかたちに残すべく、森繁版CD(=廃盤)から20年超の歳月を隔てて制作された話題盤である。
「森繁さんの朗読は大変正統派でいらして。泣かせ上手という言葉がぴったりの、役者さんが朗読をやりこんで出てくるような、どぉーんと胸に来るものでした。CDを通じてのかなりのファンでした」
そんなピアニストから白羽の矢(=ポスト森繁役)が立てられたのが宇崎竜童。彼の語りといえば〈港のヨーコ〉や、必殺シリーズの〈アンタ、この世をどう思う?〉のドスの効いた声を即連想する向きも多いだろう。本人に森繁版への意識を訊いてみた。
「いや、お話をもらった時点で〈あ、聴くのは止めよう〉って。影響されるに違いないし、影響されても〈越えられないだろうなぁ……〉という想いがあったので、じつは未だに聴いておりません。仙波さんからも〈もう、ご自身の〈地〉でやってください〉と言われましたし……どれが自分かは分りませんが、不良の発音なので時々、ラ・リ・ル・レ・ロが巻き舌になるんで(笑)。〈本当に俺でいいのかなぁ!?〉というのは常にありました。物語のなかに多少は自分をぶち込んでいって、一応葉っぱになろうとは努力はしたんですけどね」
ガハハハッと笑ういつもの彼(いわゆる〈ロックの宇崎〉)に、今回の役の落しどころを尋ねたら、
「役者の仕事を引き受けるのと同じで。言われたようにやればいい、どっちもね。それと今回の仕事がラクチンだった点は、セリフというか文章を憶えなくて良かった事。なので呂律がちゃんと回って(笑)、会場のお客さんから〈何を言っているのか判らない……〉と思われないようにしよう、と。あとは殊更、何もお稽古はしていなかったですね」
が、実際は原作を全文直筆で書き写し、ゲネプロの初顔合わせに臨んだ竜童。「写経じゃないですが(笑)、映画やドラマの時も書いて、自分の字で見るとなんとなく入ってくる気がする。活字の台本だと読み取れない」と本人。そんな共演体験から「お稽古もかなりなさっていたと思いますし、それはご謙遜ですよ」と、横から德川が優しい笑みで補足する。
「私も会う前はやはり〈港のヨーコ〉のイメージで……それこそ頭上にいる、雲の上の人という印象でした。候補案が出た時も〈えーっ、あんなBIGな人がOKしてくれるわけない〉って言ったんですよ。その方が案外気さくに引き受けてくれたので、それにまずびっくりしちゃって。実際にお会いしたら、想っていたよりもお行儀が宜しくて、(→その横で本人はガハハハッと爆笑中)とてもジェントルでいらっしゃるんですよ。公園でのジャケット写真撮影の時も足場が悪い場所で柵越えする際に、ササッと手を差し伸べてくださって……お気遣いもとてもおありになる。やはり偉大な人というのはそういうところが素晴らしいんだなぁと、あの時は一瞬胸がときめきました」