類稀なるミュージシャンシップと、常とは異なる活動スタイルが可能にする、互いに意表を突くアイデアの連続。前向きな衝突を通過することで自身のアイデンティティーを確認した彼らのブランニュー・サウンドが到着!

これまででいちばん振り幅が広い

 ミステリアスなオープニング“Intro”を抜けた先で待ち受ける途轍もない開放感に胸が震える。先行配信中の2曲――パノラミックなスケール感とダイナミックなドライヴ感を持つ“Shimmer Song”と、いつになくリズミックなメロディーに加えて終盤ではモータウン調のカッティングも飛び出す“Brotherhood”、そしてエモーションをストレートに放出する昨年のシングル“ツバメクリムゾン”……冒頭からバンドの王道と新味が交互に畳み掛けられるNothing’s Carved In Stoneの新作『Strangers In Heaven』。前作『REVOLT』は不穏なエネルギーを湛えた作品だったが、今作はその反動であるかのように極めて風通しの良い楽曲群で幕を開ける。

生形真一(ギター)「今回の曲は、“ツバメクリムゾン”を除くと“Brotherhood”がいちばん最初に出来たんですよ。で、いきなり今回のなかでも新鮮な感じの曲が出来て、みんな、テンション高く制作を進められたのかもしれないですね。それで、次に作ったのが“Shimmer Song”かな? なんかね、トントン拍子で最初に何曲か鍵になる曲が出来ていって」

Nothing’s Carved In Stone 『Strangers In Heaven』 エピック(2014)

 抜けの良い序盤に続くのは、一発で耳を奪われる個性的なリフを中心に、多様なアレンジで挑発するやさぐれたロック・チューン“Crying Skull”“What’s My Satisfaction”“Idols”。合間にジェントルな熱情を滲ませる7分超のミディアム“雪渓にて”も置かれた中盤からエンディングに近付くと、出会うのはNothing’sの新たな側面。クールなポリリズムのなかに灼熱のスパニッシュ・テイストを織り込んだ“(as if it’s)A Warning”、打ち込みのようにチープな音色の生ドラムが淡々と全編を貫く“Midnight Train”、村松の浮遊するようなヴォーカルが印象に残る“キマイラの夜”、そこからシームレスに加速する人力テック・ハウス“7th Floor”――村松拓(ヴォーカル/ギター)いわく「すごくNothing’sっぽい、でもみんなの新しい一面もちゃんと出てる」という本作は、メンバー自身も意表を突かれた場面が多々あったという。

生形「“Midnight Train”は、オニィ(大喜多崇規、ドラムス)が最初にリズムを持ってきたんですよ。でも、自分で叩いてるんだけどほぼ打ち込みみたいな音で作ってるし、いわゆるドラマーが持ってくるリズムじゃなかったから意外でしたね。ただ、シンプルだけど、すごく完成されたフレーズなんですよね」

村松「俺は“キマイラの夜”のサビのチョーキングが意外だった。真一が絶対自分からは弾かないフレーズっていうか」

生形「セッションで作らなきゃ絶対やらないフレーズですね。あと、ひなっち(日向秀和、ベース)だったら……俺がカッコイイなって思ったのは“Brotherhood”とか。結構スラップが多いなかでサビは白玉で弾いたりしてて、そこでノリを出したり。で、白玉からいきなり16のフレーズでサビを締める感じがおもしろいと思いましたね。あと、拓ちゃんはやっぱ“キマイラの夜”のファルセットとか。ファルセットと生声? その中間みたいな感じだよね?」

村松「そうそうそう」

生形「で、自分としては後ろの9、10、11曲目ですかね。実は俺、“キマイラの夜”のイントロがすごい気に入ってて(笑)。それと“Midnight Train”ではすごく速いアルペジオを弾いてるんですけど、あれもセッションじゃなきゃ絶対出てこないフレーズ。あとは“(as if it’s) A Warning”のギター・ソロか。あそこもスパニッシュな感じだとおもしろいよねって誰かが──オニィかひなっちが言って、それで弾いてみたら〈ああホントだ、カッコイイね〉って。だから全体としては、いままでのなかでいちばん振り幅の広いアルバムが出来たかな、と個人的には思いますね。すごくポップな曲もあるけどマニアックな曲もあるし、そのマニアックさもいままでとは違う方向だったりして、“Midnight Train”とか“(as if it’s) A Warning”とか。あとはまあ、全部出来て通して聴いたときに、思いのほかすんなり聴けたっていう。今回、曲の時間がいつもより長いんですよ。だいたいね、作るとなぜか4分10秒台になることがほとんどなんですけど、今回はそれよりもちょっと長い。5分台の曲も多くて」