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世のサラリーマンを称賛!

――今回、日本盤がリリースされたファースト・アルバム『Football Money』のジャケットでは、鬼のようなお面を被った人間が1曲目の“Murder In The Cathedral”の歌詞の一部である〈YOU’LL GET USED TO IT〉と書かれたTシャツを着ています。こうしたアートワークにした理由は?

ジェレミー「君には鬼に見えたのかい? 僕としては〈悪党〉のつもりだったんだけど(笑)。いずれにせよ、この写真は不安感に襲われている悪者を捉えていて、どこかセンチメンタルなところがあると思っているんだ。何かしら悲劇的な状況が彼に起こっているって感じかな。

この写真でマスクを被っている人物は僕たちの友達のスティーヴなんだけど、マスクを買ってきて、みんなで目玉をくっつけてみたりとか色々やってみて、最終的にあの形になったんだ。ホラー映画のキャラクターなんかとは違う感じで、どこかフランケンシュタインみたいに応援したくなるキャラクターにしたかったんだよ。Tシャツに書いた〈You’ll get used to it(そのうち慣れるさ)〉って言葉にもしっくりくると思ったしね」

『Football Money』収録曲“Murder In The Cathedral”
 

――『Football Money』の制作にあたって何かテーマはありましたか?

ジェレミー「僕達にとって初めてのアルバムになるから、とにかく良いものを作ろうとハード・ワークしていたね。今回リリースされたデラックス版のCDに収録されているボーナス・トラックはそのときに録音したものなんだよ。ファイナル・ヴァージョンと聴き比べてみるのもおもしろいと思うよ」

――エンジニアのアーロン・ゴールドスタインやミックスを手掛けたグラハム・ウォルシュとは、アルバムの音作りをどんなものにしたいと話されていたんですか?

ブライアン・マーフィ(ギター)「『Football Money』も最新作の『Cooler Returns』もバンドのセルフ・プロデュースなんけど、彼ら2人は僕たちが聴き逃してしまいそうなところまでカヴァーしてくれたから本当に助かったよ。『Football Money』に関しては、キーボードのレンタルから楽曲のアレンジまで、たくさん友人たちにいろいろと助けてもらったね」

――キーウィ・ジュニアの歌詞は身近に起きたことが題材となっているような印象を受けます。歌詞のアイデアはどのように生まれているのでしょうか?

ジェレミー「道端で出会った知らない人や友人たちから聞いたこと、映画、本、そういったものから閃くというか、歌詞を考えるきっかけを得ているよ。アイデアを思いついたら、それをもとに歌詞を組み上げていくんだけど、最終的には元々のアイデアとは違ったものになるんだ。いずれにせよ、どうやって書き始めるかが僕にとって重要なんだよ」

――3曲目の“Salary Man”で登場するサラリーマンはとても疲れている様子ですが、〈I gaze through the window/There is still poetry there(窓の外を見つめれば/まだそこには詩がある)〉と歌われているように希望を持っているようにも感じます。かく言う私もサラリーマン兼音楽ライターなのですが、世のサラリーマンにメッセージはありますか?

『Football Money』収録曲“Salary Man”
 

ジェレミー「君もサラリーマンなんだね! 実は僕も同じように9〜17時で働いているんだよ。だから、毎日働いている人達にシンパシーを感じるんだ。僕にとってサラリーマンって究極の存在だから、曲を作るうえで良いテーマになると思った。僕はこの曲を〈人を元気付ける曲〉だと考えていて、曲を通じてサラリーマンを称賛しているんだよ。君たちは今ここに存在していて、君を理解している者もいるってね!」

――6曲目の“Soft Water Apple”は、“Salary Man”のヴァース部分のメロディーがテンポを落として歌われた約1分の短い曲となっています。レコードA面の最後の楽曲であり、アルバム後半のはじまりにも位置する楽曲でもある。アルバムの中でアクセントになっているようにも感じましたが、この曲は作品内でどういった役割を担っているのでしょうか?

『Football Money』収録曲“Soft Water Apple”
 

ジェレミー「レコーディング・スタジオにいたときに誰かが誤って“Salary Man”を通常の半分のスピードで再生したんだ。聴き直してみたら、それがとてもクールだったんだよね。それでドラムとギターをスローダウンさせて、エンジニアのアーロンにペダル・スティール・ギターを弾いてもらって、僕があらためてそのサウンドに合う歌詞を作り直したってわけさ。そんなアクシデントから生まれた曲なんだけど、僕は大好きなんだ」

――このアルバムは2019年にカナダでリリースされたあと、2020年に海外への流通がはじまり、そして今回は日本盤CDがリリースされました。時間の経過と共に広がっている気がしますが、作品のそうした変化をどう捉えていますか? また、作品について印象が変化した面はありますか?

ブライアン「ファースト・アルバムが新たにいろいろな人たちに聴かれているのは本当に最高だよ。だって、今や新しい音楽がアッという間に過去の作品として扱われるからね。自分ではしばらく聴き直してはいないけど、このアルバムに対する印象はこの2年間で変わったとは思わないな」