夏×音楽=青春
[緊急ワイド] サマームード2014、または未来の思い出
「ケープ・ブレトンの一部には本当に何もなくて、それが音楽が盛んな理由なんだと思う。映画館もモールもなくて。ド田舎だから、みんな娯楽として楽器を手に取るんじゃないかしら」(モリー・ランキン、ヴォーカル/ギター:以下同)。
ケープ・ブレトンとは、カナダはノヴァ・スコシア州の最東部にある小さな島。地元の若者事情をそう語るモリーだが、それは〈音楽と青春が共にある環境〉と言えるのかもしれない。そして、彼女がフロントウーマンを務めるオールウェイズのデビュー作『Alvvays』も、思春期の退屈と煌めきを丸ごとパッケージしたかのような、ドリーミーでノスタルジックなジャングリー・ポップ・アルバムだ。ジュノ・アワードをはじめとした数々の受賞歴を誇るカントリー・グループ、ランキン・ファミリーの一員だったジョン・モリス・ランキンを父に持ち、ジョンの死後は自身もグループに参加してツアーを回っていたという音楽一家で育った彼女。同時にソロとしても活動していたなか、アレック・オハンリー(ギター)との邂逅がバンド結成のきっかけとなる。
「アレックにライヴで出会って、彼やその友達のライヴを観に行ったの。結構前……もう何年も前に会って、それから連絡を取り合ってきた。そのあと彼は他の男の子たちと同じ高校に行ったんだけど、彼らはみんなプリンス・エドワード島の出身だったの。一方のケリー(・マクレラン、キーボード)と私はケープ・ブレトンでご近所さんとして育った。まあだから、東海岸の島と島の地味な融合って感じかな」。
アレックとEP『She EP』を制作した後、5人組としてオールウェイズを始動。以降はピーター・ビヨーン・アンド・ジョンやペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートなどのサポートを務めたりとその名を広めていった彼らが、いよいよ先述の初作を完成させた。プロデュースは、バブルガム・ポップ×ダークウェイヴ×シューゲイザー×オルタナなストレンジ・サウンドを鳴らすウィメンを手掛けたカルガリー出身のシンガー・ソングライター、チャド・ヴァンガーレン。ミックスは、これまでダイナソーJrやソニック・ユース、若手ではカート・ヴァイルらに関わってきたジョン・アグネロと、ホーリー・ファックのグラハム・ウォルシュ。そして本作から聴こえてくるのは、その人選に納得せずにはいられない、2014年式のアノラック・サウンドだ。当人たちが影響を公言しているジーザス&メリー・チェインやティーンエイジ・ファンクラブ、ベル&セバスチャンといったスコティッシュ・ポップを重ね合わせたかの如く、甘いギター・ポップにガレージ~シューゲイズなノイズをまぶし、ローファイな音質でコーティングしたような音世界。新世代ならヴィヴィアン・ガールズやベスト・コースト、ヴェロニカ・フォールズ……さらに日本ならTFCのノーマン・ブレイクのお気に入りという点でも共通するHomecomingsと並列で聴きたい、胸キュン連続のトゥイー・ポップがここにある。
「EPはほとんどリリースされてないようなものだから、ちょっと変な感じ。ほんの少ししかプレスしなかったからネット以外もうどこにも存在しないと思う。4日間くらいで作って、何のアレンジもしなかった。でも、それから数年経って状況が変わったの。今回のアルバムに収録されている曲にはずっと前から取り掛かっていて、ドラムのパートを考え直したり、自分たちが辿ってきた道を再確認したりしたの。だから、より考え抜かれていて、どういうものにしたいのかというヴィジョンも明確だったし、プロデューサーのチャドも手助けしてくれた。今回はそれぞれが好きなジャンルをかじってみるというより、ひとつにまとまったサウンドを作りたいってことがはっきりしてた」。
裸足でシーソーを楽しみ、機材車の前で踊り出し、マーケットをぶらつき、人気のないビーチでくつろぐ──ひと夏の思い出をコラージュしたかのような映像の合間に挿入される、ニコリともしないライヴ映像が初々しい。そんなMVにぴったりの“Adult Diversion”で始まる本作を聴けば、誰もが自身の甘酸っぱい記憶にアクセスせずにはいられないはずだ。
▼関連作品
左から、ジーザス&メリー・チェインの85年作『Psychocandy』(Blanco Y Negro)、ティーンエイジ・ファンクラブの91年作『Bandwagonesque』(Creation)、ベル&セバスチャンの2000年作『Fold Your Hands Child, You Walk Like A Peasant』(Jeepster)、ヴィヴィアン・ガールズの2011年作『Share The Joy』(Polyvinyl)、ベスト・コーストの2013年のミニ・アルバム『Fade Away』(Jewel City)、Homecomingsの2014年のEP『I WANT YOU BACK』(SECOND ROYAL)
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