
多文化主義国家として知られるカナダは、近年のポピュラー・ミュージックではドレイクやウィークエンドなどの出身地として有名だが、インディー・ミュージックの舞台としても重要な場所となっている。たとえばアーケイド・ファイアやグライムスは、ゼロ年代以降の最重要インディー・アーティストと言っても過言ではない。近年でもメン・アイ・トラストやクラック・クラウドなどが大きな話題を生んだように、カルチャーへの感度が高いその国からは、クリエイティヴでDIYなマインドを持つ良質なアーティストが次々と誕生している。
今回、メール・インタビューを実施したキーウィ・ジュニアはカナダのトロントを拠点に活動。太陽のようにキラキラとしている音色と、身近なものや出来事への鋭い観察眼が生んだウィットに富むストーリーテリングのセンスを持つ彼らは、今もっともホットなインディー・ロック・バンドと言えるであろう。
パーケイ・コーツを想起させる風変わりなパンク的質感。ペイヴメントのような中毒性の高いキャッチーさ。そしてヴューのように一瞬で沸点まで持っていける爆発力。そうした要素が合わさったキーウィ・ジュニアの音楽には、特有の魅力がある。オールウェイズのベーシスト、ブライアン・マーフィがギタリストとして参加しているという点でも話題になっているバンドだが、サイド・プロジェクトという捉え方はしないほうがいい。
今年の1月にセカンド・アルバム『Cooler Returns』をサブ・ポップから発表したキーウィ・ジュニアだが、さらに4月にファースト・アルバム『Football Money』(2019年)に未発表曲を加えた同作の日本限定デラックス・エディションをリリースした。今回のインタビューでは、両アルバムのエピソードはもちろんのこと、サブ・ポップとの契約背景や使用している12弦ギターへのこだわりなどについても答えてもらった。また、彼らの代表曲“Salary Man”に〈オレンジ味の日本産タバコを吸いたい〉という歌詞があるので、日本への印象、来日公演が実現したらやりたいことなどについても語ってくれている。

12弦ギターはバンドのアイデンティティーのひとつ
――まずキーウィ・ジュニアというバンド名の由来について教えてください。あなたたちの音楽の持つポジティヴなエネルギーにピッタリな名前だと感じました。
ジェレミー・ゴーデット(ヴォーカル/ギター)「短くて響きが良い単語だったから使ったんだよ。〈キーウィ〉って鳥でもあるし、果物でもあるけど、良いイメージしかないよね。〈ジュニア〉は後から付け足したんだけど、〈物足りない〉という意味合いを込めたんじゃないかな」
――あなたたちの出身地はプリンス・エドワード島だそうですね。そこからトロントに拠点を移した理由は?
ジェレミー「いや、バンドを始める数年前からトロントに移り住んでいたから、音楽活動が理由ってわけじゃないんだ。メンバー各々の理由ってところだね」
――トロントのシーンの中でシンパシーを感じたり交流の深かったりするアーティストはいますか?
ジェレミー「そうだね、名前を挙げるとすると、ファックト・アップやオールウェイズ、サハラ(Sahara)、ダックス・リミテッド(Ducks Ltd.)、トンズ(Tuns)、キャリア・スーサイド(Career Suicide)かな」
――あなたたちがSpotifyで公開しているプレイリスト〈Kiwi Influences〉にはパーケイ・コーツの楽曲が入っていました。彼らは音楽的にもあなたたちと比較されることが多いバンドだと認識していますが、特別な意識はありますか?
ジェレミー「バンドを始めた頃からパーケイ・コーツのことは大好きなんだ。ライブも何度か観たことがあるけど、最高だよ。彼らのようなサウンドにしたいなと思ったことはないけど、間違いなく影響を受けていると思うよ」
――ジェレミーは12弦ギターを使用していますよね。使うようになったきっかけはありますか?
ジェレミー「ジョニー・マー、ゴードン・ライトフット、デヴィッド・ボウイ、ロジャー・マッギン、ジェイムズ・ハニーマン・スコットとか、僕の大好きなギタリストたちが12弦ギターを使っていたんだよ。僕たちのバンドは当初3人組だったから、12弦ギターを使えば上手くサウンドを埋めることができると思った。
それから2人目のギタリストを入れたんだけど、そのときにはすでに12弦ギターのサウンドが僕たちのアイデンティティーの一部になっていたので、そのまま使い続けているんだ。その形に慣れるまでに少し時間は掛かったけど、やり始めてからは基本ライブでも12弦を使っているよ」

世のサラリーマンを称賛!
――今回、日本盤がリリースされたファースト・アルバム『Football Money』のジャケットでは、鬼のようなお面を被った人間が1曲目の“Murder In The Cathedral”の歌詞の一部である〈YOU’LL GET USED TO IT〉と書かれたTシャツを着ています。こうしたアートワークにした理由は?
ジェレミー「君には鬼に見えたのかい? 僕としては〈悪党〉のつもりだったんだけど(笑)。いずれにせよ、この写真は不安感に襲われている悪者を捉えていて、どこかセンチメンタルなところがあると思っているんだ。何かしら悲劇的な状況が彼に起こっているって感じかな。
この写真でマスクを被っている人物は僕たちの友達のスティーヴなんだけど、マスクを買ってきて、みんなで目玉をくっつけてみたりとか色々やってみて、最終的にあの形になったんだ。ホラー映画のキャラクターなんかとは違う感じで、どこかフランケンシュタインみたいに応援したくなるキャラクターにしたかったんだよ。Tシャツに書いた〈You’ll get used to it(そのうち慣れるさ)〉って言葉にもしっくりくると思ったしね」
――『Football Money』の制作にあたって何かテーマはありましたか?
ジェレミー「僕達にとって初めてのアルバムになるから、とにかく良いものを作ろうとハード・ワークしていたね。今回リリースされたデラックス版のCDに収録されているボーナス・トラックはそのときに録音したものなんだよ。ファイナル・ヴァージョンと聴き比べてみるのもおもしろいと思うよ」
――エンジニアのアーロン・ゴールドスタインやミックスを手掛けたグラハム・ウォルシュとは、アルバムの音作りをどんなものにしたいと話されていたんですか?
ブライアン・マーフィ(ギター)「『Football Money』も最新作の『Cooler Returns』もバンドのセルフ・プロデュースなんけど、彼ら2人は僕たちが聴き逃してしまいそうなところまでカヴァーしてくれたから本当に助かったよ。『Football Money』に関しては、キーボードのレンタルから楽曲のアレンジまで、たくさん友人たちにいろいろと助けてもらったね」
――キーウィ・ジュニアの歌詞は身近に起きたことが題材となっているような印象を受けます。歌詞のアイデアはどのように生まれているのでしょうか?
ジェレミー「道端で出会った知らない人や友人たちから聞いたこと、映画、本、そういったものから閃くというか、歌詞を考えるきっかけを得ているよ。アイデアを思いついたら、それをもとに歌詞を組み上げていくんだけど、最終的には元々のアイデアとは違ったものになるんだ。いずれにせよ、どうやって書き始めるかが僕にとって重要なんだよ」
――3曲目の“Salary Man”で登場するサラリーマンはとても疲れている様子ですが、〈I gaze through the window/There is still poetry there(窓の外を見つめれば/まだそこには詩がある)〉と歌われているように希望を持っているようにも感じます。かく言う私もサラリーマン兼音楽ライターなのですが、世のサラリーマンにメッセージはありますか?
ジェレミー「君もサラリーマンなんだね! 実は僕も同じように9〜17時で働いているんだよ。だから、毎日働いている人達にシンパシーを感じるんだ。僕にとってサラリーマンって究極の存在だから、曲を作るうえで良いテーマになると思った。僕はこの曲を〈人を元気付ける曲〉だと考えていて、曲を通じてサラリーマンを称賛しているんだよ。君たちは今ここに存在していて、君を理解している者もいるってね!」
――6曲目の“Soft Water Apple”は、“Salary Man”のヴァース部分のメロディーがテンポを落として歌われた約1分の短い曲となっています。レコードA面の最後の楽曲であり、アルバム後半のはじまりにも位置する楽曲でもある。アルバムの中でアクセントになっているようにも感じましたが、この曲は作品内でどういった役割を担っているのでしょうか?
ジェレミー「レコーディング・スタジオにいたときに誰かが誤って“Salary Man”を通常の半分のスピードで再生したんだ。聴き直してみたら、それがとてもクールだったんだよね。それでドラムとギターをスローダウンさせて、エンジニアのアーロンにペダル・スティール・ギターを弾いてもらって、僕があらためてそのサウンドに合う歌詞を作り直したってわけさ。そんなアクシデントから生まれた曲なんだけど、僕は大好きなんだ」
――このアルバムは2019年にカナダでリリースされたあと、2020年に海外への流通がはじまり、そして今回は日本盤CDがリリースされました。時間の経過と共に広がっている気がしますが、作品のそうした変化をどう捉えていますか? また、作品について印象が変化した面はありますか?
ブライアン「ファースト・アルバムが新たにいろいろな人たちに聴かれているのは本当に最高だよ。だって、今や新しい音楽がアッという間に過去の作品として扱われるからね。自分ではしばらく聴き直してはいないけど、このアルバムに対する印象はこの2年間で変わったとは思わないな」
アメリカは良き隣人、だけど彼らの音楽はたまにうるさすぎる

KIWI JR. 『Cooler Returns』 Sub Pop/BIG NOTHING(2021)
――今年の1月にサブ・ポップからリリースされたセカンド・アルバム『Clooler Returns』についても教えてください。まずサブ・ポップと契約した経緯は?
ブライアン「サブ・ポップと契約するまでに特別なストーリーがあったわけじゃないんだ。サブ・ポップのスタッフが『Football Money』のディスク・レビューをたまたま見たらしいんだけど、そこに僕たちと比較して彼の好きなバンドたちの名前が載っていたそうなんだよ。だから、気になったみたいだね。で、キーウィ・ジュニアの音楽を聴いたらすごく好みだったから、メールでコンタクトしてきてくれたんだ。何か変な感じだよ。だって僕たちはサブ・ポップの人たちとは今のところほぼ会えてない。本当なら僕たちのライブを彼らが観に来て、ライブが終わったら一緒につるんで話したりするんだけどね」
――表題曲の”Clooler Returns”では〈I am not American/But I feel the beat sometimes(自分はアメリカ人じゃないけど/時々彼らのビートを感じるんだ)〉と歌っていたり、時事的な題材を楽曲の中にスマートにピックアップしているものが多い印象を受けましたが、作品のテーマとしてそういった意識はありましたか?
ジェレミー「〈時事的な問題〉を採り上げたと言う意識はないよ。どちらかと言うと、〈時事的なキーワード〉が歌詞に入っているという感じだね。個人的にアメリカとカナダの関係性に関わることとかに触れるつもりもない。ただ、人々が考えていることを歌詞に書くのは好きだね。〈彼らは良き隣人だけど、彼らの音楽はうるさすぎる〉みたいなことをね」
――コロナ禍が『Cooler Returns』の制作にもたらした影響はありますか?
ブライアン「うん、間違いなく影響はあったね。レコーディングの方法が以前とはかなり変わった。感染者数が減ってきて、安全になってきたタイミングで4人で集まって作業したんだ。最初の1か月は4人でアレンジや細かい部分を詰めて、それからエンジニアのグラハムと一緒にレコーディング・スタジオに入った。普通は録音したものをコントロール・ルームで聴き直したりするんだけど、今回はそれができなかったし、友達がレコーディングに参加してキーボードを弾いてくれることもなかった。ユニークな体験だったよ」
――10曲目の“Nashville Wedding”は5年前には既に存在していた楽曲だとNorthern Transmissionsのインタビューでおっしゃっていましたが、『Cooler Returns』への収録にあたって、アレンジなどは変えたのでしょうか?
ジェレミー「歌詞を変えてみたり、楽器の音数を増やしてみたり、曲のテンポをかなり落としてみたりとかはあったけど、基本的には作曲したときとほぼ同じかな。今回、“Nashville Wedding”や “Domino”、 “Waiting In Line”、 “Norma Jean’s Jacket”みたいに、昔作った曲を見直し、再評価して新作アルバム用にレコーディングしたものがあったね」
東京の最高なジャズ・バーにも行ってみたいな
――最後に日本についての質問です。“Salary Man”の歌詞には〈オレンジ味の日本産タバコ〉が出てきますが、実際に吸ったことはあるのでしょうか?
ジェレミー「いや、吸ったことはないんだけど、そういったタバコがあるって聞いたことがあるんだよ。まあ、僕はタバコを吸わないんだけどね(笑)。日本限定のいろいろな味のキットカットなら食べたことがあるよ!」
――日本盤CDの発売も実現し、来日を期待している日本のリスナーもどんどんと増えています。来日したら行きたい場所や、やってみたいことなどはありますか?
ブライアン「ぜひ東京でライブをしてみたいね! できれば大阪でも! ヒデキというトロントでジャパニーズ・ロカビリー・バーを経営している友達がいるんだけど、いつも彼から日本のクールなお菓子と飲み物の話を聞いているんだ。あと、東京の最高なジャズ・バーにも行ってみたいね」


