ステラ・ドネリーはオーストラリア出身のシンガーソングライターで、パスタ(もしくは炒麺)をすするキュートなジャケ写のEP『Thrush Metal』で2017年にデビューした。性的被害に遭った友人について歌った“Boys Will Be Boys”は#MeToo運動のテーマソングのひとつとなり、一躍ブレイクを果たす。

 だが彼女が注目されたのは、そんなふうに時宜を得たから、ということだけではもちろんない。単純に彼女の歌にはそれだけ強い力があるということである。わかりやすく革新的なことをしなくても、ただ素晴らしい曲を書くだけで存在感を放つアーティストがいる。フェイ・ウェブスターがそうだし、フィービー・ブリジャーズもそう。そしてステラ・ドネリーもそうだ。

STELLA DONNELLY 『Flood』 Secretly Canadian/BIG NOTHING(2022)

 シークレットリー・カナディアンからリリースされたセカンド・アルバム『Flood』には宝石のような楽曲が詰まっている。全体的なムードとしてはナチュラルで柔らかな質感の歌ものアルバム、と言えるかもしれない。が、ソングライティングとアレンジの質の高さには卓越したものがある。

 例えば6曲目の“Move Me”は冒頭から繰り返されるメロディーを軸として曲が展開されていく。このチャーミングかつ最小限の旋律を中心に――変奏を混ぜつつも――何度でも聴き返したくなるような誘引力のある楽曲が作り上げられており、彼女がいかに素晴らしいソングライターであるかが証明されている。

 もしくは“Restricted Account”の後半、牧歌的なホーンをかき消すように低音のノイズが左右のチャンネルを覆うとき、彼女の音楽がただ聴き心地の良いものではなく、そこからはみ出し、その先へとさらに広がっていく可能性が、音響を通して示唆される。

 一聴してメロディーの良さやリラックスしたムードに魅きつけられつつも、聴き返すたびに作品の深みに触れることができる。こういう作品は〈名盤〉と呼ぶのに相応しい。

KIWI JR. 『Chopper』 Sub Pop/BIG NOTHING(2022)

 残りはカナダ出身のキーウィJrのニュー・アルバム『Chopper』について。名門サブ・ポップからリリースされた本作では、どこか90年代を感じさせる脱力系ギター・サウンドと、甘酸っぱいメロディー、根底にあるパンク精神といった彼らの親しみやすい魅力が全開である。

 今作において特徴的なのはニューウェイヴ的なシンセサイザーであり、先行曲“Unspeakable Things”のイントロではポップなんだけれど、素直には着地しない絶妙なひねくれ具合のモーグが楽曲をとても愛おしいものとしている。

 キーウィJrには同じくカナダ出身で日本でも人気のあるオールウェイズのメンバーが参加しており、もちろんオールウェイズのファンにも聴いてもらいたい内容だが、パーケイ・コーツらと共通するパンクなノリも彼らの魅力なので、幅広く、ギター・ロック好きにおすすめできる作品だ。

 


【著者紹介】岸啓介
音楽系出版社で勤務したのちに、レーベル勤務などを経て、現在はライター/編集者としても活動中。座右の銘は〈I would prefer not to〉。