サブスクリプションというビジネス・モデルの可能性

――そもそも知場さんがこのサービスを始めるきっかけは何だったんですか?

「僕は元々オーディオが好きだったんです。でも学生時代はもちろん、社会人になってからもそんなにお金に余裕があるわけではなかったので、高額の製品が気になったとしても簡単には買うことができなかった。これらは、当時そんな中で僕が奮発して買った数少ない製品です。ゼンハイザーのBluetoothヘッドホンと、ソニーの〈h.ear〉というシリーズのBluetoothイヤホンです。

(左から)ゼンハイザーのBluetoothヘッドホン、ソニーの〈h.ear〉シリーズのBluetoothイヤホン

この他にもいろいろ気になる製品はあったんですが、なかなか買えず、かと言ってお店で試聴するだけでは満足できなくて、〈自分の手元に好きな製品を好きなだけ置きたい〉という気持ちが募るばかりでした。それが2019年辺りなんですけど、当時すでにサブスクリプションが普及しはじめていたこともあって、〈月額固定で好きなオーディオ製品を借りられるサービスがあったらいいのに〉と思って試しに調べてみたんです。そうしたら、まだなかった。そこで〈じゃあ自分で作っちゃおう〉という感じでスタートさせたのがONZOです」

――ユーザーにとって便利であるという点以外で、サブスクリプションというビジネス・モデルの強みはどんなところにあるとお考えでしょうか。

「運営者側としては、サービスを通してユーザーと深く繋がれるというところが大きいかなと思います。サブスクリプションは〈購入したらそれっきり〉というモデルではなく、契約が結ばれた後もずっとユーザーと向き合っていくものなので、〈ユーザーがいまどういうものを求めているか〉などのリアルな声を常に知れるんです。で、こちらもそれを踏まえてサービスの質をどんどん向上させていくことができ、ユーザーに還元できる。そういういい循環を作り出せるところが、サブスクリプションというモデルの魅力だと思います」

――ONZOのサービスを始める直前に〈月額固定でオーディオ製品をいくらでも借りられるサービスがあったらいいのに〉と考えたときのように、〈将来的にこれがサブスク化したら面白いんじゃないか〉などとアイデアを考えることはありますか?

「これは自分のアイデアというわけではないですが、ライブ・イベントのサブスク化は今後さらに進んでいくんじゃないかなと思います。定額行き放題にしてしまえば、一回ごとにいちいちチケットを取ったり入金手続きをしたりする手間が省けますし、時間があるときにそれぞれのペースで足を運べるという形もいまの時代には合っている気がします。またライブハウス側にとっても〈毎月決まった額が入ってくる〉というのは、安心感があるだろうし」

 

危機を逆手に取ることで生まれるアイデアの萌芽

――特にいまはライブハウスにとって大変な時期ですもんね。

「そうですね。なのでライブハウスに安定してお金が入る仕組みを考える必要があると思いますが、一方でコロナの影響もあってライブハウスになかなか足を運べないいま、〈ライブに代わる体験の価値をいかに高めるか〉を考えるのも大事だなと思っています。

以前は同じ音楽ファンでも、オーディオ好きにはあまりライブに行かずに自宅で音楽を聴いているという方も多く、逆にライブ好きの人はオーディオにかける分のお金を少しでも多くライブに回すというように、わりとはっきり棲み分けがあったと思うんですけど、オンライン・ライブが出てきたことで変化の兆しが生まれているような気がします。オンライン・ライブはホーム・リスニングとライブ、2つの体験のいいとこどりというか、厳密に言うとそのどちらでもないからこそ、どっち派の人であっても楽しめるところがあるので。

そうなるとオーディオ好きの方は音質の観点から、ライブ好きの方は臨場感の観点から、共に〈よりいいオーディオ機器を使ってオンライン・ライブを観たい〉となってくるんじゃないかと思います。そうした需要が高まってきたときに、ONZOのサービスが何か役に立てないかなと考えていますし、いまもアーティストやコンサート業界との連携を増やせないか実際に動いているところです」

――オンライン・ライブの質を高めるにあたっては、聴き手の環境ももちろん大事ですが、マイクや配信機材といった発信者側の環境も大事になってくると思います。ONZOではプロ仕様製品のレンタルは行っているのでしょうか?

「ヘッドホンやマイクなど、プロ向けの製品もいくつかあります。たとえばレーベルに所属するアーティストのオンライン・ライブは使用機材もしっかりしていると思うんですけど、個人でやっているインスタ・ライブやYouTube配信などの場合、同じ条件というわけにはいかないと思うので、ぜひONZOでレンタルしていただければと思います。

特にネットを通じて個人で動画を発信しているような方々の間で〈配信のために機材を購入するのではなく、使いたいときにレンタルする〉という形が定着していくことで、機材レンタルだけでなく動画配信文化全体がさらに盛り上がればいいなと考えています」

――主に個人で動画配信をしている方に向けて〈この機材とこの機材をこういう風に組み合わせるといい音になりますよ〉などとアドバイスするコンサルタント的なサービスもあるといいなと思うのですが、そういったものは考えていますか?

「はい。現時点でもお問い合わせいただければ、アドバイスさせていただきます。仕組みとしても、これから配信を始めるような人に向けた〈配信者キット〉みたいなものの提供を考えています。たとえば〈これをこう繋いで配信すれば、あの有名人と同じような音が出せます〉みたいなプランをいくつか用意するイメージです。有名人の使用機材について調べるのを面倒に感じる方も多いと思うので、代わりにこちらでデータを蓄積して、それに基づいて提案できればいいんじゃないかなと思います」

――それは面白そうですね。他に何か派生的なアイデアは考えていますか?

「オンライン・ライブに関連して言うと、いまレンタル・スペースとライブ・ビューイングを上手く組み合わせられないかなと考えているところです。貸し出された各スペースが、それぞれ小さなライブ・ビューイングの会場になったら面白いんじゃないかと。

以前オンライン・ライブに関してある方に話を訊いた際、〈一人で観てもいまいち盛り上がらないので、本当はいけないんだけど代表者一人がチケットを買って仲間と一緒に観たらすごく楽しかった〉と話していたのが強く印象に残っていて。現状そういう〈みんなで時間を共有しながら観る〉という要素が(オンライン・ライブには)足りていないと思うので、今後そこを間接的にでも強化していけたらいいなと思って模索しています」