人と技術のつながりが生んだ SL-1200MK7。
Technicsから未来への回答

継承と進化で、強い信頼性を受け継いで誕生したSL-1200MK7。このSL-1200MK7こそが、これまでテクニクスのターンテーブルを愛用してきたファンと、新たにターンテーブルを求めるファンへのTechnicsからの誠意ある答えなのだ。音楽がある限り、技術は進化する。

 テクニクスのターンテーブルSL-1200MK3をいまも愛用している。何一つ不具合はなく、正確にレコードをトレースする。1989年発売のロングセラー・モデルで、手に入れたのはもう20年以上も前のことだ。特にDJを頻繁にやっていたわけではないが、新品でターンテーブル2台をさほど大きな負担にならず手に入れられた時代だった。そして当時は、熱心に12インチのシングル・レコードを追っていた。音楽について書く仕事をしている立場として、いち早く新譜の音源を手に入れるには、12インチもチェックするのはごく当たり前のことだったからだ。音楽を聴くのはCDがメインとなってはいたが、レコード会社の試聴音源はカセットテープであることも多く、サンプル盤がレコードということも珍しくはなかった。レコードは普通に店頭に存在し、流通している、まだそんな時代の話だ。

 その後、レコードは一度衰退したかに見えた。足繁く通っていた渋谷のレコード・ショップの多くも、閉店せざるを得ない状況に追い込まれた。CDからデジタル配信へと、音楽を楽しむ形態は変化をしていった。僕のSL-1200MK3にも、レコードではなく、DJソフト用のコントロール・ヴァイナルが乗ることが多くなった。それでも、SL-1200MK3の実用的で機能的なデザインがもたらすインターフェースとしての優れた操作性は、他の何物にも代えがたかった。スクラッチDJのようにアクロバティックなことはできないし、ハウスDJのように綺麗に4つ打ちを繋ぐこともないのだが、僕にとってターンテーブルは常にそこにある音楽の入口だった。何よりもレコードを乗せて聴く行為そのものが好きだったのだ。

 いま、レコードは完全に復活を遂げた。それは、テクニクスがSL-1200MKシリーズをコンスタントに開発し続けてきたことがもたらしたものであり、それを後押ししたDJやレコード愛好者たちの熱意に因っている。だから、2008年に発売されたSL-1200MK6が2010年に生産を終了した際には、熱意を寄せた人々を大いに悲しませたのだが、それでSL-1200MKシリーズが作ってきたターンテーブルのカルチャーが途絶えるとは誰も思わなかった。市場に新製品は出回らなくなったが、クラブだけではなく、バーやカフェなどにもターンテーブルとレコードが浸透していたからだ。手軽に音楽を流す方法は他にいくらでもあったのだが、レコードで音楽を聴くことを望む人たちは少なからず存在し、確実に増えてもいた。レコードは貴重で贅沢なメディアとなったが、それを楽しむことはより身近にもなったのだ。

 そんな状況がまた物事を動かした。今年5月に、SL-1200MK6以来11年振りとなるDJターンテーブルSL-1200MK7が発売された。テクニクスのブランド名の復活と共に、SL-1200シリーズとして2016年にSL-1200GAEとSL-1200Gが、2017年にSL-1200GRが発売されたことも大きなニュースだったが、より求めやすい価格で、性能をアップグレードしたSL-1200MK7の登場は、非常にエポックメイキングな出来事だ。優れたオーディオ機器であると共に、DJの堅実なツール、楽器でもあるという、希有な進化を遂げてきたSL-1200MKシリーズの最新形だからだ。

 今回、パナソニックセンター東京内にあるテクニクスリスニングルームを訪れ、SL-1200MK7を実際に操作し、持ち込んだレコードも聴かせていただいた。まず、その外見はこれまでのデザインを見事なまでに踏襲していた。ピッチコントロールのスライダーも、START/STOPや33 1/3rpmと45rpmのボタン・レイアウトも、針先やターンテーブルの側面を照らすイルミネーターも、本来あるべき場所に同じまま配置された。慣れ親しんできた操作性はそのままに、しかし細部は確実にアップデートされていた。

 シルバーだったS字形のトーンアーム部分はブラックを基調にしたカラーリングに変わっただけではなく、トーンアームの軸受け部分も高性能化され、より滑らかな追随性があることがすぐに分かった。筐体とインシュレーターも従来のモデルを踏襲したデザインだが、素材の違いは明らかだった。大音量で振動の激しい環境で試したわけではないので、そのレヴェルでの正確な比較はできないが、リスニングルームでのそれなりの音量でも安定性は感じられた。

 ターンテーブルは本来、非常にセンシティヴな再生装置で、自宅のリスニング環境で音を鳴らす程度でも、ちょっとした振動やハウリングに悩まされることがある。SL-1200MKシリーズの開発は、DJの現場の厳しい使用環境にも耐えうるターンテーブルを開発するという困難に挑んできた歴史でもある。多くのDJがSL-1200MKシリーズを選択した理由には、ダイレクトドライブ・モーターゆえに可能な素早い立ち上がりと停止があったが、その回転精度をさらに向上させ、振動に対する対策と高音質化を両立させる構造の設計を実現してきた。そうしたノウハウからのフィードバックが、ハイファイのオーディオ機器としても魅力的なターンテーブルの開発に繋がった。

 僕が今回持ち込んだレコードは、オーディオ的にも興味深いロバート・グラスパーのスタジオ・ライヴ録音盤から、自分がレコード化を手掛けたレイ・ハラカミの再発盤まで多岐に渡るものだったが、78rpmでカッティングされているがゆえにいままで一度も聴くことができなかった『The Incandescent Gramophone』という10インチも忍ばせていた。78rpmにも対応したSL-1200MK7は、カリフォルニアのサウンド・アーティストでキャピトル・レコードのアート・ディレクターでもあるトム・レッシオンが、SP盤へのオマージュとして制作した奇盤を正しく再生してくれたのだ。SP盤への配慮もあるDJターンテーブルとは、なんと素敵なのだろう。

 


原雅明(はら・まさあき)
90年代から音楽ジャーナリスト/ライターとして本格的な執筆活動を開始。現在は音楽メディア、ライナーノーツ等に寄稿の傍ら、レーベル〈rings〉のプロデューサーとして、新たな潮流となる音楽の紹介に務める。またLAの非営利ネットラジオ局の日本ブランチdublab.jpのディレクター、DJも担当。ホテルの選曲なども手掛け、都市や街と音楽との新たなマッチングにも関心を寄せる。

 


Technics Direct Drive Turntable System SL-1200MK7
メーカー希望小売価格9万円(税別)