テンプルズやトーイを輩出したヘヴンリーが送り出すUKの新人バンド、シンプルな編成で黒魔術チックな妖しさを感じさせるヘヴィーなガレージ・ロック
もしも初期ニルヴァーナとアークティック・モンキーズの肩がストリートですれ違い様にぶつかったら、おそらくこんな感じのどつき合いが始まるだろう――ウィッチーズの音を初めて聴いた時、思わずそう考えてしまった。テンプルズやトーイを輩出したヘヴンリーが送り出すUKの新人バンドで、メンバーはクリスチャン・ベル、ダン・ラムジー、ジャンニ・ハニーの3人。このたびお目見えしたファースト・アルバム『Annabel Dream Reader』では、ギター、ベース、ドラムスという極めてシンプルな編成によって、時に黒魔術チックな妖しさを感じさせるヘヴィーなガレージ・ロックを奏でている。
バンドのストーリーは、故郷ピーターバラの文化的な空虚さに嫌気の差したクリスチャンとジャンニが、大学進学をきっかけにブライトンで一旗揚げようと目論んだことから始まる。そしてキャンパスでベーシストを募集したところ、唯一応募してきたのがダンだった。彼らは予想通りニルヴァーナとアークティックに大きな影響を受けていて、特に後者の2009年作『Humbug』を聴いた時の衝撃は凄まじかったそうだ。
「クリスチャンがあれを僕たちに聴かせてくれた時のことを、いまも忘れられないよ。音楽性やトーンという点で凄くダークなアルバムだよね。“Dangerous Animals”のリフとかさ。パーカッションもシンプルだけど、とてもよく構築されている。僕たちもできるだけシンプルなサウンドを編み込もうとしているんだ」(ダン:以下同)。
そんな音作りをめざして完成された本作には、コーラルの元メンバーとして2000年代を駆け抜けたビル・ライダー・ジョーンズが、共同プロデューサーという形で関与している。
「ビルはサウンドを隅から隅まで理解し、制作を円滑に進めるために何が必要かしっかりと熟知していた。だから、僕たちの作業を見ながら、細かいアレンジやハーモニーに関するクールなアイデアを出してくれたよ」。
レコーディングはハックニー地区にあるトゥ・ラグ・スタジオ(ホワイト・ストライプスやテイム・インパラ作品でお馴染み!)にて、アナログ磁器テープを使用し、たった4日間で行われた。その結果、粗削りで生々しいバンド・サウンドを封じ込めることに成功。
「できるだけライヴ感のある仕上がりにしたかったんだ。そういう録音を施してくれるのはあのスタジオしかなくてね。アルバムに使われているのは、実際に演奏した音そのままだよ。エフェクトもほとんどかけなかった」。
ただし、本作は決してヘヴィー&サイケ一辺倒というわけではない。後半には“Weights And Ties”をはじめ、ビターな味わいのメランコリックなスロウもいくつか収録されている。実はリーダー的存在のクリスチャンが、あるミュージシャンの大ファンらしく……。
「彼はエリオット・スミスに心酔しているんだ。派手な装飾を避けながら、とても精巧な楽曲作りをすることのできるアーティストだよね」。
今夏には、90sオルタナ風の轟音で定評のあるクラウド・ナッシングスとメッツのツアーに同行した彼ら。その道中ではさぞかし鍛えられたことだろう。日本でも早く生のパフォーマンスを披露してもらいたいものだが、メンバーの視線はすでに次作へ向けられている。
「いま練習中の新曲は、今回のアルバム収録曲より技術面でも音楽面でも確実に成長していると思う。だからといって、次の作品を〈演奏スキルが上がって、大人っぽく落ち着いた〉なんて言われるような内容にはしたくない。へヴィーだけど、確実にメロディアスであるっていうのが理想かな」。
PROFILE/ウィッチーズ
クリスチャン・ベル(ヴォーカル/ギター/オルガン)、ダン・ラムジー(ベース)、ジャンニ・ハニー(ドラムス)から成る3人組。クリスチャンとジャンニが地元のピーターバラで組んでいたクルックド・ケインを離れ、2011年にブライトンへ移住して結成する。2013年6月にファースト・シングル“Beehive Queen”を発表し、同年11月にはファット・ポッサムから“Crying Clown”でUSデビュー。パーマ・ヴァイオレッツやテンプルズの前座を経て、2014年2月にヘヴンリーと契約。先行シングル“Gravedweller”がNME誌などに大きく紹介されて話題を集めるなか、8月27日にファースト・アルバム『Annabel Dream Reader』(Heavenly/HOSTESS)をリリースする。