今この瞬間に全てを注ぐ、ピアニスト ロー磨秀のデビュー・アルバム
ロー磨秀は、従来のクラシック音楽の型には収まらない、新しいタイプのアーティストだ。桐朋学園在学中から国内外のコンクールを席巻し、その才能は広く知れ渡っていた。局所性ジストニアというピアニストにとって難しい病気と戦いながらも、名門パリ国立高等音楽院へ留学し、審査員満場一致の最優秀首席で卒業。ロー磨秀の情熱はピアノだけにとどまらず、マシュー・ローの名でシンガー・ソングライターとしても熱心なファンを獲得している。
アルバム『Mélangé』(フランス語で〈混ざり合った〉の意)は、ピアニスト、ロー磨秀のファースト・アルバムとなる。そのタイトルは、イギリス人と日本人を両親に持つ自らのルーツや、ピアニストとシンガーソングライターというふたつの顔を持つことから来ているものだ。ピアニストとして、自らを世に問うアルバムの中心に据えたのはドビュッシーだった。“沈める寺”や “月の光”などの名曲が並ぶが、ロー磨秀にとってとりわけ大切なのは“アラベスク”だと言う。
「小学生で初めて“アラベスク”を弾いた時からずっとドビュッシーに魅了されて、留学先もドビュッシーの生きたパリ以外には考えられませんでした。それくらい自分にとってかけがえのない作曲家で、“アラベスク”はピアニストとしての原点となった作品です」
このアルバムでは、ドビュッシーの余韻のなかでもう1人のフランス人作曲家、メシアンの“幼子イエスに捧ぐ20の眼差し”から“喜びの精霊の眼差し”が弾かれる。
「メシアンにはフランスで出会い、その神秘的な響きに衝撃を受けました。ドビュッシーと比べて、あまり馴染みのない作曲家かもしれないけど、自然に聴いてもらいたいと思ってアルバムに入れています。ドビュッシーを聴きたくてアルバムを手にとった人が、メシアンの美しさにも気づいてくれたら嬉しいです」
『Mélangé』でとりわけ目を引くのは、フィジカル盤にのみ収録される、ガーシュウィンの“Summertime”の弾き歌いだ。私はそのレコーディングにも立ち合ったが、自らの身を燃やしながら音楽と向き合うその姿に強烈な印象を受けた。
「ずっと大切に歌ってきた作品なので、自分を知ってもらう意味でもアルバムの最後に置きました。歌を聴いて欲しいというのはもちろんだけど、ピアノ・パートは自分のクラシック・ミュージシャンとしてのアイデンティティも大切にしながら、アルバム全体との調和も意識してアレンジして弾いています」
ジストニアと向き合いながら、もしピアノが弾けなくなったらその時は仕方がないと今この瞬間に全てを注ぐ、ロー磨秀という音楽家の生き方が詰まったデビュー・アルバムである。
LIVE INFORMATION
7 STARS Vol.3 ロー磨秀「The Pianist」
2021年9月10日(金)東京・銀座 王子ホール
開場/開演:18:30/19:00
曲目:J.ブラームス:創作主題による変奏曲Op.21-1 ニ長調/R.シューマン:子供の情景 Op.15/C.ドビュッシー :2つのアラベスク/ホーギー・カーマイケル:The Nearness Of You feat. Debussy/G.ガーシュウィン:3つのプレリュード、ラプソディ・イン・ブルー
※曲目は変更になる可能性がございます。https://www.columbiaclassics.jp/sevenstars/3rd-star