はっぴいえんど、矢野顕子らに影響を与えた伝説のバンド、リトル・フィートの評伝・決定版!

ベン・フォン=トーレス, 丸山京子 『リトル・フィート物語』 亜紀書房(2021)

 リトル・フィートは通受けするバンドだった。いや、消滅したわけではないから、過去形で語ってはいけない。彼らのコンサートにはボブ・ディラン、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンなど、そうそうたる面々が足を運んだ。ゴールド・アルバム(50万枚)も何枚か残した。無名のバンドだったわけではない。とはいえ70年代前半の同時期に同じロサンゼルスからデビューしたイーグルスが千万枚単位で売れたアルバムを何枚も出しているのに比べると、つつましい数字だったことも確かだ。

 リトル・フィートはロサンゼルスに生まれ育ったローウェル・ジョージによって結成された。彼はいくつかのバンドを渡り歩いた後、フランク・ザッパのマザーズ・オブ・インヴェンションに加入した。しかしそこでも半年しかもたなかった。理由はめざす音楽の方向性のちがいだが、それだけではなかった。ザッパはドラッグを毛嫌いしていた。ローウェルは悪習をすでに身につけていた。その時期のローウェルの代表作“ウィリン”の主人公は、アメリカ南部のトラック・ドライバーだが、彼はウィード(ハッパ)、ホワイト(白い粉)、ワインを求めて裏街道を走り続けるのだ。

 この本はそのローウェルとリトル・フィートに参加したつわものたちの詳細な物語だ。バンド結成時のピル・ペイン、ロイ・エストラーダ、リッチー・ヘイワード、途中から加わったポール・バレア、ケニー・クラッドニー、サム・クレイトン、ローウェルの没後、再編されて以降のフレッド・タケット、クレイグ・フラー、ショーン・マーフィー、ゲイブ・フォード。そのメンバー全員に加え、著者は友人のミュージシャン・音楽関係者や家族にまで幅広く取材してこの物語を書いた。

 70年代の記述に熱がこもっているのは、音楽誌「ローリング・ストーン」に創刊時から関わり、ローウェルが元気だった時期のバンドを目撃している著者ならではだ。しかしローウェル没後の再編の紆余曲折や、インターネットを活用するサポーターに支えられた10年代のことなど、時代の変化への対応もていねいに描かれている。詳細な索引やバンド関連図がついているのもありがたい。

 この物語には伝記本につきものの伝説も含まれている。はっぴいえんどとの録音秘話は最たるもののひとつで、“さよならアメリカ、さよならニッポン”が日本でNo.1ヒットになったとされている。AからBに行くのにFとGに立ち寄る夢見がちな奇才ヴァン・ダイク・パークスの発言だから、さもありなんだが(笑)。