Photo by Steve Gullick

アルバムに深く組み込まれたジョン・クレアの詩

――タイトルになったフレーズはジョン・クレアの詩「Love And Memory」から取られています。これは作品の軸として、最初からずっとあったんですか?

「うん。ただそのフレーズに関しては、当初僕が託していた意味からは、多少切り離されている。というのも、ジョン・クレアの詩集を僕は随分若い頃から持っていたんだよね。ある年の誕生日に母親がプレゼントしてくれて、以後そこに収められていた詩を長年愛読していたんだ。

中でも『Love And Memory』のあの1行だけは、何年も前にノートに書き写してあった。それを見つけて、このプロジェクトのテーマに掲げた時には、もはやどこから抜き出したのか思い出せなかったくらいだよ。でも、ロックダウンが始まってから『Love And Memory』を改めて読み返してみたら、本作に着手した時よりも、僕の気持ちにぴったりと寄り添っていることに気付いた。そんなわけで、最終的にはこの詩をさらに深くアルバムに組み込むことになったのさ」

『The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows』収録曲“The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows”

――だからタイトルトラックの歌詞を変えたんですね。去年5月のボイラー・ルームのストリーミングライブで初めて披露した時は、全く歌詞が違っていましたが、最終版では、クレアの詩をあなたの言葉で置き換えたものになりました。

※デーモンはリハーサル用に作ったオーケストラの音源に合わせて、ピアノを弾きながら数曲を歌った

「うん。当初は全く違う歌詞だった。最初の頃は、このクレアの詩の捉え方も違ったんだよ。それにボイラー・ルームのライブは、オーケストラと一緒に行なう予定だったコンサートのチケット購入者を、何らかの形で楽しませることができればと思って企画したものでね。本来であれば、あの時期にコンサートをやっているはずだったんだ。キャンセルになってしまったけど。

とはいえ究極的には、焦って仕上げたりせずに長い時間をかけて熟慮を重ねたことで、より素晴らしい結果に辿り着いたと思う。来年はツアーに改めて取り組む予定だけど、ここにきて、オーケストラが風景を描いているだけでなく、そこにちゃんとした楽曲の要素が加わったというわけだ」

2020年のボイラー・ルームでのストリーミングライブ

 

鳥、波、山、雲……対象を観察しながらの演奏

――アルバムの土台となった、アイスランドでの初期段階のセッションはどんな感じだったんでしょうか? インプロビゼーションだったそうですが、どんな指示を与えたんですか?

「まず、ミュージシャンのひとりひとりに、その人に観察して想いを巡らせてもらいたいコマを割り当てたんだ。例えばある人は鳥を観察しながら楽器を演奏し、別の人は海上の波のうねりを観察し、また別の人は山を眺め、雲を眺めている人がいて、ゴルフをしている人たちのカートを観察するミュージシャンもいたよ(笑)。そんなわけで、前もって定めたハーモニー構造の枠内で、各ミュージシャンが自分に割りふられたものを観察しながら、思い思いの解釈で演奏するんだ。

そうやって生まれた音源を出自から完全に切り離して集めてみると、今しがた外で起きていた出来事の、非常に奇妙でアブストラクトな音楽的証言みたいなものが形成されていた。だから、すごく興味深いプロセスだったよ」

――最終的にアルバムはアイスランドからイングランドに向かい、イラン(“Daft Wader”)とウルグアイ(“The Tower Of Montevideo”)にも足を延ばし、またアイスランドに帰っていきます。イランとウルグアイというチョイスに意図はあったんですか?

「というか、僕はイランにもウルグアイにも行ったことがあって、どちらの場所も深い印象を刻み、心に付きまとって離れないんだ。だからロックダウン中に、頭の中でちょっとばかり海外旅行を楽しもうかと企んだのさ(笑)。とにかくこれらふたつの場所について歌いたかったし、手元にあった音源の中に、ちょうど自分が表現したいことにぴったり合うものを見つけたんだよ」

『The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows』収録曲“The Tower Of Montevideo”

――紆余曲折を経たこのアルバムを完成に導いた、パズルの最後のコマみたいなものがあるとしたら、それは何だったんでしょうか?

「恐らく、今年の1~2月にデヴォンで行なったセッションだったんだろうね。僕は6週間にわたってサイモン・トン及びマイク・スミスと作業を行なって、アルバムを完成させた。その間に歌詞を書き上げてボーカルを録音し、完成に至って、その後はほかの作品に着手した覚えがある」

――本作のあなたのボーカルがとにかく素晴らしいんですが、シンガーの多くは、ラブとヘイトが入り混じっているというか、自分の声に複雑な気持ちを抱いていますよね。あなたはシンガーとしての現在の自分に、どんな気持ちを抱いていますか?

「どうなんだろう。僕は昔から自分のことをわりと平凡なシンガーだと思っているから、あまり自意識過剰にならないで、自分のハートとソウルを声に託すことさえできていれば満足だよ。たいしていい声に恵まれたとは思っていないけど、歌うことはすごく楽しいからね。それだけで僕としては十分なんだ」

『The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows』収録曲“Royal Morning Blue”

――制作中によく聴いていたアルバムは何かありますか?

「アルバムを作っている時は、あまりほかの音楽を聴かないようにしているんだ。気が散ってしまうからね。自分がやっていることに集中するべきだと思うし、何か作品作りに取り組んでいる間は、とにかく自分がやろうとしていることを信じていなければならないと思う。別のことをやりたいと思ってしまうようじゃ困るし。うん、100%集中していないと、とんでもない脇道に逸れてしまいかねないから(笑)」