ブラーやゴリラズの中心人物として知られるデーモン・アルバーン。多数のプロジェクトで活動するデーモンだが、ソロ作品は数少ない。そんな彼の、『Everyday Robots』(2014年)以来となるソロアルバム『The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows』が2021年11月12日(金)にリリースされる。アイスランドの風景にインスパイアされたオーケストラ作品としてスタートしたこのアルバムは、パンデミック下のロックダウンを経て、脆弱性や喪失、再生を物語る作品として完成した。本作について、音楽ライターの新谷洋子を聞き手にデーモン本人が語った。 *Mikiki編集部
DAMON ALBARN 『The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows』 Transgressive/BIG NOTHING(2021)
このアルバムは僕が記したこの時代の記録、この時代への僕の貢献
――今日はあなたの新しいソロアルバムについて色々伺います。もっとも、〈ソロ〉という言葉は好まないそうですが……。
「うん、何もかも自分ひとりでやり遂げるなんていうことは、バカげたアイデアだからね。もちろん、実際に僕が全て自分の力で作り上げた作品であれば、〈ソロアルバム〉と呼ぶことに躊躇いはない。ただそれを実現させるには、長い時間をかけて技術面のスキルを身に付けなければならないし、人生はあまりにも短くて、そんなことをしている時間はないんだよね」
――本作『The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows』は、フランスのリヨンで開催されている芸術祭〈Fête Des Lumière〉から、新作の上演を打診されたことから始まったとか。内容について、一切条件は提示されなかったそうですね。
「条件がないというのは本当に素晴らしくて、アーティストがみんな夢見ていることなんだ。それに僕には、この作品にどうアプローチするのか、非常に明確なアイデアがあった。そういう意味では願ってもないことだったよ」
――あなたは確か、ブラーの97年発表のアルバム『Blur』の一部をレイキャヴィクでレコーディングして以来、アイスランドに長年通っています。そもそもアイスランドのどんなところに魅了されたんでしょう?
「そうだな、アイスランドへの興味はもとを正せば、子供時代に見た夢に辿ることができる。僕はアイスランドの地理に興味があって、あの国にある黒い砂の浜辺の上空を飛んでいる夢を、繰り返し見たんだ。で、そういうことが自分にはあるんだなという認識はあった。
その後大人になって、ある日アメリカに滞在していた僕は、ホテルの部屋でナショナル ジオグラフィック・チャンネルで放映されていたアイスランドに関する特集番組を見ていたんだ。その時に、昔の夢と映像がつながったんだよ。僕に強く訴えかけるものがあった。それで、実際に足を運んでどんな場所なのか体験したいと思ったのが始まりだね」
――では音楽でアイスランドを表現したいという想いも、随分前から抱いていたんでしょうか?
「僕は長年(アイスランドにある家の)窓から外の風景を眺めてきた。そのうちに、オーケストラで演奏しているミュージシャンたちを連れてきて、僕と一緒に同じ窓から同じ風景を見てもらって、その風景や天気の変化に音で反応するという形のセッションを行なったら、素晴らしい試みになるんじゃないかと思ったんだ。
アイスランドの天気は激しく変化する。しかも、非常に変わりやすいんだ。これは北のほうにある国ならどこでも該当することだけど、特に地面が雪に覆われている時期に太陽が照っていると、光が驚くほどまぶしい。ほとんど目が眩むくらいにね。かと思えば完全な闇に包まれることもあって、そのコントラストが本当に鮮烈なんだ」
――結果的には、アイスランドという場所に限定されない、遥かにスケールの大きな作品へと発展しましたが、当初はどこまで形が見えていたんでしょう?
「僕が選んだアプローチが、ある程度アルバムの方向性を示していた。それはつまり、オーケストラル主体の音楽で、僕がプレイするメロディーがあって、ほかのミュージシャンたちはそのメロディーに音で答えるようにして演奏していたんだ。
そして僕は同時に、窓の外の風景やそこで起きている事象を観察しながら気付いたことをどんどん書き留めて、それらを、自分を取り巻く環境について表現したいことに関連付けようとしていた。その後ロックダウンが始まって、アイスランドを離れなければならなくなったんだよね。
帰国してからはデヴォン※で生活し、ロックダウンの最初の8カ月間はこのプロジェクトを保留にして、ほかの作業をしながら頭の中で考えるだけに留めていたんだ。ゴリラズのアルバム『Song Machine, Season One: Strange Timez』(2020年)を先に仕上げなければならなかったし。
でもその間もずっと考えてはいて、そのうちにふと悟ったんだ、自分がこのプロジェクトで論じたいことは正確には〈喪失と再生〉であり、これらの曲を通じてそういうテーマを掘り下げて表現したい――とね。そんな想いの中から、アルバムが徐々に浮かび上がってきたんだよ。
今年の2月頃だったかな、完成した時には、ひとつの時期の終わりに辿り着いた気がした。このアルバムは、僕が記したこの時代の記録というか、この時代への僕の貢献というか、そんな感じだね」