©2024 Copyright Up The Game Limited & blur

最新作とウェンブリー公演の舞台裏に迫る
ブラーの現在地を描いたドキュメンタリー

 90年代に吹き荒れたブリット・ポップ旋風のなかで、その頂点にのぼりつめたロック・バンド、ブラー。『Think Tank』(2003年)を発表後にバンドは活動休止状態になり、メンバーのデーモン・アルバーン(ヴォーカル)、グレアム・コクソン(ギター)、アレックス・ジェイムズ(ベース)、デイヴ・ロウントゥリー(ドラムス)は別々の道を歩み始めた。それでも時々、道は交差する。2015年には12年ぶりにメンバーが結集してアルバム『The Magic Whip』を発表。アルバムは見事チャート1位に輝いたが、それからさらに8年という月日を経てバンドは再び集結して新作『The Ballad Of Darren』を作り上げた。本作もチャート1位を記録。4人が集まるとケミストリーが生まれることを証明したが、そんな奇跡のアルバムの舞台裏を記録したドキュメンタリー映画が「ブラー:トゥー・ジ・エンド」だ。

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 映画はメンバーが『The Ballad Of Darren』制作のためにスタジオに集まるところから始まる。映画の冒頭でアレックスが鶏の世話をしている様子が紹介されるが、現在アレックスは酪農家として成功。政治の道に進んだデイヴは州議会議員を退いて、2022年からソロ活動を開始した。ずっとフルタイムで音楽活動をしてきたのはデーモンとグレアムの2人。久しぶりに一緒にスタジオに入った彼らの姿を見て印象的なのは、そこに流れる和やかな空気だ。お互いに冗談を飛ばし、楽しそうに語り合う。そこからは仲間と音楽を作ることに対する期待や喜びが伝わってきた。

 バンドがレコーディングに入ったのは2023年のこと。その年の1月にデイヴが初めてのソロアルバム『Radio Songs』を発表。2月にはグレアムのソロ・ユニット、ウェイヴのファースト・アルバム『The WAEVE』。3月にはデーモンのバンド、ゴリラズの新作『Cracker Island』がリリースされていて、それぞれがアルバム制作を通じて得た刺激をブラーのレコーディングに持ち込んだことが大きかったに違いない。なかでも、ゴリラズのツアー中にブラーの新作用の曲を書き、レコーディングに入る前に24曲ものデモを完成させていたデーモンが張り切っている。

 デーモンとグレアムが自分たちの母校を訪れるエピソードも興味深い。学校には彼らの名前がつけられた音楽室があり、そこで2人は10代の頃を振り返る。学校の不良たちによく殴られていたデーモンが、部活のミュージカルでは自信満々に歌と演技を披露。その時の写真を見ると王子様のように可愛い。そんな青春時代を、一度は仲違いをしたデーモンとグレアムが一緒に振り返る姿が微笑ましい。また、アレックスとデーモンがビーチで泳ぎに行くシーンでは、お腹をぷっくりさせたデーモンは海水パンツが半ケツ状態でふざけている。そういう姿を見ていると、デーモンはゴリラズとして活動しつつも、旧友たちとの再会を心から喜んでいることが伝わってくる。きっと他のメンバーも同じ気持ちなのだろう。

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 レコーディング中にデーモンが「もっと本気を出せ!」とメンバーにキレる瞬間もあるが、それでも彼らの間に笑いが絶えない。「俺たちは距離の取り方を学んだんだ」とメンバーの誰かが言っていたが、適切な距離と時間を置くことでブラーという場所を失わずにすんだことが彼らにとって重要なことで、それが新作の充実した内容に繋がったのだろう。だからこそ、ライヴをしている彼らの姿は実に楽しそうだ。

 本作はバンドにとって初めてとなったウェンブリー・スタジアム公演に至るまでの物語でもある。イギリス最大のサッカー場でのライヴに向けて、ウォーミングアップのためのツアーがスタート。その最初の公演となった教会ライヴのアットホームな雰囲気。イーストボーン公演では、“Parklife”で〈主役〉を務めた俳優のフィル・ダニエルズがゲストで登場して、バンドに負けないやんちゃぶりを披露。ツアーの途中でデヴィッドが怪我をするというアクシデントを乗り越えて迎えたウェンブリー公演では、冗談を飛ばしながらもメンバーから緊張感が伝わってくる。そこで繰り広げられる最高のパフォーマンスは本作のクライマックスだが、公演の様子をたっぷり楽しめるコンサート映画「ブラー:ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム」も同時期に公開される。

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 監督を手掛けたのは、こちらもトビー・L。ウェンブリーの舞台裏を描いた「ブラー:トゥー・ジ・エンド」と本作は兄弟のような関係で、続けて観れば盛り上がること間違いなし。観客を煽りながら広いステージを動き回り、トリックスターぶりを発揮するデーモン。その横でクールにギターを掻き鳴らすグレアム。アレックスは余裕の表情でタバコをふかしながらベースを弾き、デイヴは怪我をしているとは思えないほどパワフルなドラムでバンドを引っ張る。ライヴの3曲目“Tracy Jacks”でデーモンはステージからアリーナに降りて観客と一緒に歌い、グレアムのギター・ソロが炸裂して観客の興奮は早くも沸点に達する。

 ウェンブリー公演はバンドが持てるすべての力を出し切り、観客と同じように彼ら自身が演奏することを心から楽しんでいる。そんなバンドの生き生きした姿を、トビー・Lは会場のスケールを際立たせるダイナミックな構図で捉えてライヴの熱狂を伝える。映画館の大きなスクリーンと音響で楽しむために設計された本作は、臨場感たっぷりにウェンブリーを疑似体験させてくれる。友との出会い。別れ。そして、再会。人生の荒波を経て辿り着いたブラーの現在地が刻み込まれた2本の映画。そこから聞こえてくるロックンロールは、ヒネくれていながらも吹っ切れたような豪快さがあって、まるでブラー流人生賛歌だ。2023年の新作ツアーのあと、デーモンはブラーの活動休止をほのめかす発言をしたが、そうだとしても悔いはないだろうと思わせるほど、この映画にはバンドとしての幸福な時間が記録されている。

 


MOVIE INFORMATION
映画「blur:To The End/ブラー:トゥー・ジ・エンド」

監督:トビー・L
出演:デーモン・アルバーン/グレアム・コクソン/アレックス・ジェームス/デイヴ・ロウントゥリー
字幕翻訳:チオキ真理
字幕監修:粉川しの
原題:blur: To The End
©2024 Copyright Up The Game Limited & blur
配給:KADOKAWA
(2024年/イギリス/104分/ビスタサイズ/5.1ch)
協力:ワーナーミュージック・ジャパン
後援:ブリティッシュ・カウンシル
https://blur-movie.com/
2025年1月31日(金)、角川シネマ有楽町 他にて全国順次ロードショー!