10年ぶりとなる待望の新作『ポルタス』、20年ぶりにアート・リンゼイが共同プロデューサーに!

 〈シルヴァ、マリーザ・モンチを歌う〉といったアルバム『Silva Canta Marisa Monte』がリリースされたのは、2016年のこと。この新進気鋭の才人シルヴァによるカヴァー・アルバムをきっかけに、マリーザがいかに素晴らしい曲を作ってきたかという事実に改めて気づいた音楽ファンは、ブラジル国内外にたくさんいるに違いない。また、同アルバムにはシルヴァとマリーザの共作による“Nocturna”という曲が収められているが、彼らのコラボレーションを再び望んでいたのは、僕だけではないだろう。

果たして、このほどCD化されたマリーザの新作『ポルタス』には、2人のコラボレーションによる“トタルメンチ・セウ(君のもの)”が収められている。シルヴァは楽曲の共作に加えて、ピアノでも貢献。この曲にはフルートとバスーンも取り入れられており、編曲は元ロス・エルマノスのマルセル・カメーロが手掛けている。それだけに、ビートルズ系チェンバー・ポップの遺伝子が受け継がれたバラードに仕上がっている。最新シングル“ヴェント・サルド(サルディニアの風)”も、きわめてメロディアス。これは、ウルグアイのホルヘ・ドレクスレルとの初コラボレーションである。イタリアのサルデーニャ島に向かうボートの上で書き上げた曲というだけあって、2人のデュエットもたいへん心地好く、地中海の風が頬を優しく撫でてくれるようだ。

MARISA MONTE 『Portas』 Sony Brasil/ソニー(2021)

 この10年ぶりのスタジオ録音アルバムには、アート・リンゼイが共同プロデューサーとして約20年ぶりに関わっているし(2曲)、アルナルド・アントゥネスやダヂ、ナンド・ヘイス等の気心の知れた仲間も協力している。また、その逆のパターンとして、シコ・ブラウンや、セウ・ジョルジ&フロール親娘との初顔合わせもある。カルリーニョス・ブラウンの息子であるシコは、マリーザと5曲も共作していて、彼女からすでに大きな信頼を得ていることがよく分かる。

 『ポルタス』は、深味のある色合いのベテランから冴え冴えとした色彩感の若手まで、マリーザが多彩な才能をひとつに束ねた花束のようなアルバムである。それこそアート・リンゼイが共同プロデューサーとして迎えられていた『Memórias, Crônicas E Declarações De Amor』(2000)に通じる麗しいメロディの花束でもあり、もちろんどの曲も芳しい。マリーザが今なおブラジルの誇る名花であることを示して余りある傑作だ。