ふたたびの青は柔らかな光に包まれて――さまざまな状況が大きく変化するなかで自分に向き合い、表現者として頼もしく成長した彼女がここから向かう行方とは?

自分を見つめ直した時期

 「(アイドルネッサンス解散を機に)ひとりで歌いはじめるようになってから曲を作るようになったので、始めたときは本当にわからないことだらけでした。曲の引き出し的にはいろんなアイデアや伝えたいことがたくさん思いついてはいたんですけど、自分の力じゃどうにもできない!って思う時期もあったりして。でも、いま振り返って聴いてみると、それはそれで初々しくていいのかなって思ったりもするんです」。

 ファースト・アルバム『はじめての青』を発表したのが2019年の春。当時、高校生だった頃をそう振り返る彼女――原田珠々華も、いまは大学生。この2年半ほどの間、コロナ禍もあり、受験もありと、なかなか音楽活動に集中できない時期もあったようだが、このたび届けられたミニ・アルバム『光の行方』には、多感な年頃ゆえの心の動きやシンガー・ソングライターとしての紆余曲折を経ながら逞しく前進する彼女の姿がしっかりと記録されている。

原田珠々華 『光の行方』 TOWER RECORDS(2021)

 「コロナ禍でライヴができないってなった時期は、音楽活動を続けていく意味みたいなものを見つめ直した時期でもあって。そういうなかで、ライヴもできてなくて音源も出せてないのに、SNSで〈いつも応援してるよ〉って伝えてきてくれる人たちがいてくれたことは、気持ちの面ですごく助けになりました」。

 その〈見つめ直した時期〉を経たことで、当然ながら創作に臨む気持ちにも変化が見えてきた。

 「以前は〈魂!〉みたいな(笑)、自分の気の強さが出てるなって思う曲がけっこうあって。もがいてる感じというか……周りの人からも〈生き急いでる〉ってずっと言われていたんですけど、ゆっくりと自分を見つめ直すのも大事だなと考えるようになって……そうですね、ゆったりとした曲も増えましたし、前よりも落ち着いたかなって思います。生き急ぐというよりかは、自分の身近にあるものとかを大切にしていきたいなっていう気持ちも強くなったし、そんなにすぐに大人になろうとしなくても、時はやってくると(笑)」。

 

イイと思った曲を作っていくのみ

 90年代後半からトラックメイカー/アレンジャー/マニピュレーター/キーボーディストとして多くのメジャー・アーティストをサポートしてきた守尾崇ら新しいチームで編まれた『光の行方』。そのタイトルにある〈光〉のイメージも、何かに向けて眩い輝きをビカーッと発しているイメージではなく、アートワークからも伝わるように、優しく、柔らかく射し込んでいるそれ。収められた5曲も、〈魂!〉と振り返るいくつかの過去曲とは明らかに異なるニュアンスを聴かせている。もっとも以前に書かれた“帰路”という曲は、「ロック・バンドがすごく好きなので、そういう方たちと同じ舞台に立ててるんだって、すごく嬉しかった」と、この2年ほどの間で特に印象深かったステージだったという下北沢でのサーキット・フェス〈Shimokitazawa SOUND CRUISING 2019〉で初披露されたもの。

 「付き合うまではすごく好きなのに、付き合った瞬間に醒めちゃうみたいな、〈蛙化現象〉っていう恋愛の現象を元にしている曲なんです。まだあまり人のことを好きになったことがない若い人たちに起きがちな現象らしいんですけど。〈一番街の隅にある 電灯はもう消えてしまいそう〉という歌詞は、たまたま下北沢で消えかかっている街灯を見て、そういう感情と当てはまったんです」。

 次に出来上がったのが、アルバムのラストに置かれた“光合成”。〈待とう光 照らされなくとも生きてる〉――光のある場所にがむしゃらに突き進むのではなく、光を〈待つ〉という心構えを示したスロウ・ナンバーは、現在の原田珠々華を象徴する楽曲と言える。

 「コロナ禍ド真ん中の時期に作った曲で、それこそ自分の曲の在り方を考えたりするうちに、とりあえずイイと思った曲を作っていくのみなんだなっていう開き直りのような気持ちを持てるようになって。そこからこの曲が生まれたんですけど、自分自身を励ましてくれたというか、この曲がコロナ禍での自分を守ってくれたような気がします」。

 そして“プラチナ”。この曲も“光合成”同様、言葉ひとつひとつを噛みしめながら優しく歌い紡ぐバラード・ナンバーだ。

 「いままで他人に対しての感情を書いたりすることがあまりなかったんです。〈あなた〉と言っていたとしても、その〈あなた〉は私自身のことで、他人に対して歌うのってちょっとエゴかなって斜に構えていたところがあったんですね。“プラチナ”は誰かを思って出来た曲なので、自分の中ではちょっと珍しいというか、お気に入りの曲です。街灯に照らされた涙をプラチナと喩えていて、曲の最後で恋が成就したことになっているんですけど、涙のプラチナから指環のプラチナに変わるっていう」。

 

日頃から生まれ変わっている

 一方、アルバムの1曲目に置かれた“秘密”は、さよならポニーテールによるハートフルなポップ・アレンジに。

 「初めはファンの人に向けて書いていて……だからといって感動系とかそういうのではないんです。私がいたアイドルネッサンスって、ちょっと珍しいアイドル・グループだったこともあって、いまでも忘れられないっていう方が多いんですね。解散して、それぞれがんばってるメンバーがいるんですけど、みんな先に進んでいてもファンの人はずっとあの場所にいるみたいな、そういうことを常々感じていて。それが〈手を引いたって振り返ったままずっと〉という歌詞に表れていて、だから、いまでもあの頃を好きでいてありがとう、っていう感じでもない(笑)。だからってもっと前を向いてよっていうことでもない……って、書いてたんですけど、曲が出来上がってみたら、ファンの人に向けてっていうよりかは、例えば好きな人にだったりとか、いろんな人にあてはまる曲になったなって思いました」。

 その“秘密”に続く“わたしに着替えて”は、近年のfishbowlに至るまでアイドル・ポップ界隈でも数々のイイ仕事をしているヤマモトショウとの共作。歌い方も可愛らしく、シンガー・ソングライターとしての新しいチャーム、まさにちょっと〈着替えて〉みせたポップ・ナンバー。

 「ヤマモトさんが以前やってらしたふぇのたすとか、ふぇのたすだったMICOさんがその後にやってらしたSHE IS SUMMERがすごく好きで、ああいう都会的でおしゃれで可愛い曲を作ってみたいと思っていたんです。ヤマモトさんと話していくなかで、私が喫茶店好きっていうところに注目してくださって、そこから世界観を広げていこうってなって出来た曲です。歌い方も“光合成”とは全然違う歌い方ですし、ちょっとアイドル感があると思うんですけど、これをアコースティックでやったら違う感じにもなるだろうし、披露していくたびに味が出てくる曲なのかなと思っています」。

 日々日常でさまざまなものを見つめ、ワクワクを感じながら表現者としてのキャパシティーを増していく原田珠々華。夏からマンスリーでのイヴェントを開催するなど、完全に息を吹き返した彼女のこれから、その期待値は『光の行方』を聴けばきっと高まっていくはずだろう。

 「対バン相手の方のライヴを観て学ぶこともありますし、MCが苦手なので……苦手なのにウケたいと思ってるんですけど(笑)、そこも勉強中です。それこそ学校もありますし、音楽サークルにも入って、関わっていく人たちからいろいろ学んでるというか、いろんな人と話して、曲もそうだし、MCのネタとかもいろいろ探してますね。日頃から生まれ変わっている、進化している自分を見てほしいって、曲を作るペースも上がってきてますね」。

左から、原田珠々華の2019年作『はじめての青』(TOWER RECORDS)、さよならポニーテールの2021年作『銀河』(T-Palette)、原田珠々華が客演したfishbowlのニュー・アルバム『客演』(payayaam)