4人組オルタナティブロックバンド、pollyの通算3枚目となるアルバム『Pray Pray Pray』がリリースされる。

事務所を独立し、自ら主宰するレーベル14HOUSE.より前作『Four For Fourteen』(2020年)を経て完成させた本作に於いて、全ての楽曲を手がけるフロントマン越雲龍馬はコンポーザーとして飛躍的な進化を遂げている。シューゲイザーやドリームポップ、ポストロック、エレクトロニカ、ゴスペルなど様々なジャンルを横断しつつ、J-Popに影響された美しいメロディーとコードワークを融合。すでに失ってしまった大切なものや、人との〈再会〉を祈る本作のテーマは、多かれ少なかれ誰もが一度は心に抱いたことがあるはずのもの。キャリアに裏打ちされたバンドアンサンブルや、越雲のジェンダーレスなハイトーンボイスも健在だ。

物事の始まりには必ず終わりがあり、だからこそ全てのものは美しく愛おしい。それでもこの一瞬が永遠に続くことを、私たちは祈らずにはいられない。本作『Pray Pray Pray』は、紛れもなくpollyの、現時点での最高傑作である。

polly 『Pray Pray Pray』 14HOUSE.(2022)

 

インスピレーション源はアイスランドの風景

――新作『Pray Pray Pray』、本当に素晴らしいアルバムでした。

「ありがとうございます」

――まずは、どのようなモチベーションでスタートしたのか、その辺りからお聞かせいただけますか?

「きっかけとなったのはネットサーフィンしているときに見つけた、アイスランドのおそらく白夜の風景を撮影した写真でした。アイスランドの音楽は以前から大好きで、それにも通じる世界というか……白い靄がかかっているような視覚的なインスピレーションを、自分たちのサウンドにも落とし込みたいと思ったのが最初のモチベーションですね。結果的にそういう作品になったかどうかは分からないですが」

――前作『Four For Fourteen』や、その前のEP『FLOWERS』(2019年)とは違うサウンドにしようという意識もありました?

「ありました。これまでの作品を手がけてくださったtriple time studioの岩田純也さんのエンジニアリングも僕は大好きなのですけど、今回のサウンドを目指すにあたって、新たにIvy to Fraudulent Gameの福島由也くんにお願いしたのもそれが理由です」

 

J-Popをリファレンスに追求したコード感

――今回はメロディーの良さがより際立っている印象があります。

「コロナ禍になって、バンドと一緒にスタジオで合わせることが難しくなったとき、ちゃんと音楽理論みたいなものをイチから勉強し直そうと思ったんです。コードワークも研究しましたし、そのコードワークに対して〈もっとハマるメロディーがあるんじゃないか?〉など、以前よりもさらに突き詰めるようになりました。その際、J-Popからのリファレンスもかなり多かったので、その影響はおそらく出ていると思いますね」

――ちなみに、リファレンスとしていたアーティストは?

「例えば嵐やPerfume、米津玄師さん、Official髭男dismなど、ジャンル問わず様々なアーティストの作品を聴きました。特にヒゲダンは計算され尽くしたと言ってもいいくらい緻密なコードワークとメロディーだと思いましたし、そういうものをアナライズして自分の中に取り込んでいきましたね。〈なぜ、ここで転調すると気持ちいいのだろう〉〈ここにはどんなクッションコードが入っているのだろう?〉といったことを突き詰めていくうちに、だんだん腑に落ちるようにもなっていきました」

――確かに今作は、転調の仕方が印象的な楽曲が多いと思いました。それに、例えば“窓辺”などヨナ抜き音階を用いたオリエンタルなメロデイーが印象的ですよね。その辺りは今おっしゃったPerfumeの楽曲からの印象を感じます。

「それもありますが、僕がPerfumeを好きなのは、バックトラックは洗練されたエレクトロミュージックなのに、メロディーとコードには日本人の琴線を揺さぶる要素がたくさん入っていて、それが違和感なく融合しているところなんです。

そこで肝になるのが〈コード感〉だと思いました。J-PopやJ-Rockで使っているようなコード展開をそのまま用いてしまうと、目指しているものとはかけ離れてしまう。なのでバランスにはこだわりましたね。

今回〈ボウイング奏法〉も多用しているのですが、ずっと同じ音をボウイングしている中でコードが展開しても、ちゃんと馴染むように細かい部分で調整したりしています」

『Pray Pray Pray』収録曲“窓辺”

 

人間の行為で最も尊いものの一つが〈祈り〉

――アルバムタイトル『Pray Pray Pray』にはどのような由来があるのでしょうか。

「三つ単語を並べたり、頭文字を揃えたりするのはプライマル・スクリームの“Ivy Ivy Ivy”からインスパイアされていて、フルアルバムを出すときには決まってそうするようにしています。

〈pray〉は〈祈る〉という意味ですが、僕は人間の行為で最も尊いものの一つが〈祈り〉だと思っているんです。大切なものや人に対し、僕は今〈祈る〉ということをしたいのだと思います。それで今回、そういうタイトルをアルバムにつけることにしました」

――人間にとって、〈祈る〉ことが最も尊い行為の一つだと思うのはどうしてですか?

「〈祈る〉ことって、目の前にいる人や目の前にあるものに対しての行為ではなく、遠くにあるものに対しての行為じゃないですか。例えば今、こうやって目の前にいる黒田さんに対して〈祈る〉ことはないけど、甥っ子が受験に受かるよう離れたところから〈祈る〉ことはある。そういう時、物理的には遠くても、精神的にはものすごく近くに甥っ子を感じることができます。同じように、もう会えなくなってしまったものや人に対して、〈向こうでも元気でやっているといいな〉と思って近くに感じることも〈祈り〉だし、僕はそれを尊い行為だと感じるんですよね」

――なるほど、とても興味深いです。そういう感覚って、越雲さんの中にどう芽生えていったのですか?

「もちろん、今までも〈祈る〉という行為はしてきたけど、亡くなった人に対して悼むこと、誰かの幸せや成功を遠くから願うこと、それを〈祈り〉だと自覚し言語化できたのはここ最近ですね。本作を作る半年くらい前からなのかなと。

昨年、祖母が亡くなってしまったんです。最近までずっと入院していたのですが、コロナ禍でお見舞いにも行けずにいて。そういう時に、今自分は何ができるのだろう?ということを自問自答したとき、遠くから祖母の健康を願う〈祈り〉という行為について、改めて深く考えたのも今作に大きく影響していると思います」

 

愛犬との日々が人生観を変えた

――以前のインタビューで、越雲さんが最近犬を飼い始めたことを知りました。その影響も本作には色濃く反映されていますよね。

「はい。僕は18歳の時まで飼っていた犬が死んだときに、〈もう犬なんて飼わない〉と決めていたんですよ。でもメンバーに付き添うかたちで数年ぶりにペットショップに行って、そこで子犬を抱っこさせてもらってしまったんですよね。その時に昔飼っていた愛犬と同じ匂いがして……〈これはもう、僕が引き取るしかない〉という気持ちになってしまったんです(笑)。この子が亡くなるまで、僕が面倒を見ていたいって」

――その愛犬を失いかけた出来事があったそうですね。

「去年の1月に癲癇を起こしてしまったんです。倒れて痙攣している姿を目の当たりにして、〈このまま死んでしまうかもしれない〉と思ったときに人生観が変わったというか。〈自分の寿命をいくらでも削って彼にあげたい〉と、心から思ったんです。そのことは、自分自身の生き方に決定的な影響を与えたし、もちろんそれが本作にも少なからず影響を与えています」

――“窓辺”の歌詞に、〈この命が縮まろうとも その寝顔が続けばいい〉というフレーズがありますが、まさにその時の気持ちを歌っているのですね。

「その通りです。人間って、ある程度の年齢になれば一人でも生きていける生き物じゃないですか。でも人間に飼われるために生まれてきた動物は、人がいなければご飯も食べられないし生きていくこともできない。それを考えたときに、愛犬に対して〈尽くす行為〉がだんだん愛情に変わっていったんです。〈今こうして生きていること自体が奇跡で、数秒先には死んでいるかもしれない〉ということを忘れないでいたいと思い、それを曲にしました」

――“愛している”も愛犬について歌う、タイトルからストレートなラブソングです。

「本当は〈愛している〉という言葉を使わずにそのことを表現するのが文学だとは思うのですが、とはいえ伝わらなくなり過ぎるのも癪だなあと以前から思っていて(笑)。〈自分はこう思っているよ〉ということを、ストレートに表現してみることを意識しながら作りました。なのでライブで歌っていると、我ながらグッときてしまう瞬間があります。変にかっこつけることなく、わかりやすい言葉で自分の思いを表現できたと思うし、それが自分の〈救い〉にもなっていると感じます。

サウンドもすごく気に入っていますね。ギターを反転させたり、フルートの音にリバースディレイやリバースリバーブをかけたり、それをレイヤーしながら作った曲です。今回からシンセベースを導入したのですが、それもpollyの新たな〈武器〉になったと思っています」

『Pray Pray Pray』収録曲“愛している”

 

マイブラ、清竜人、ヒップホップ……多彩な影響元

――では、そのサウンド面についても曲ごとにお聞きしていきます。アルバムの冒頭曲“Laugher (feat. 志水美日)”では、清々しいまでのシューゲイズサウンドが鳴らされていますね。

「はい(笑)。昨年はマイブラ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)の『Loveless』リリース30周年だったこともあり、まずマイブラへの愛を素直に表現したいなと。前作『Four For Fourteen』や、その前の『FLOWERS』のときは、あえてマイブラはリファレンスから外してシューゲイズから距離を取っていたところもあったのですが、今回そういう思惑は一切抜きにして作ってみました。

『Clean Clean Clean』(2018年)の時のように、アンプを10台以上扇型に並べて一つひとつにマイクをセットした上で、さらに中央にアンビエンスマイクを立てて。それで録音したギターを4本くらい重ねています。しかも、ペラペラのギターサウンドからリッチなギターサウンドまでレイヤーしているので、トラック数でいうとギターだけで100トラックを超えていますね(笑)」

『Pray Pray Pray』収録曲“Laugher (feat. 志水美日)”

――凄まじいですね(笑)。アルバム3曲目の“A.O.T.O.”は、polly史上最速のBPMじゃないですか?

「そうですね(笑)。個人的に速い曲ってそんなに好きじゃないんですけど、でも例えばスウェーデンのラグジュアリー・レコーズから出ているバンド、ウェストカストやサン・デイズ、アルパカ・スポーツなどをリファレンスにしつつ、もうちょっとドリームポップやシューゲイズに寄せたら自分好みの曲になるかなと。最後にボソボソと呟いている部分は、ビーチ・フォッシルズのオマージュですね」

『Pray Pray Pray』収録曲“A.O.T.O.”

――“Daybreak”はアルバムの中でもとりわけメロディーの美しい曲ですが、音響面ではかなり実験的なことに挑戦した一筋縄ではいかないところも魅力です。

「ありがとうございます。僕は清竜人さんが大好きで、この曲は〈清さんみたいな曲が作りたい!〉というところから始まりました。コード進行もかなり考えましたね。普通にクリシェしていくだけでは清さんの楽曲みたいにならないんですよ。

ドラムも生ドラムだとつまらないかなと思って、ローランドのリズムマシンTR-808やTR-909のサウンドをレイヤーして作っています。単にメロディーがキレイなポップソングにはしたくなかったので、後ろの方で薄くボウイング奏法のサウンドが鳴っているようにもしました。今後のpollyの方向性を指し示すような、重要な曲になったと思います」

『Pray Pray Pray』収録曲“Daybreak”

――“One”は、生活音などを取り入れたエレクトロニカっぽいアプローチが新鮮ですね。

「この曲は音数を少なくすることがテーマで、その代わりに普段から趣味でやっているフィールドレコーディングの素材を取り込んでみました。大好きなトクマルシューゴさんや、高木正勝さんの作品からもインスパイアされていますね」

『Pray Pray Pray』収録曲“One”

――今回、他の楽曲でもサンプリングを多用していますよね。“Light us”では赤ちゃんの声が入っていたり、“Farewell Farewell”や“Yours”では時計の針の音がクリック代わりになっていたり。特に時計の針の音は、生きとし生けるもの全てには終わりがあり、だからこそ人はそこに〈美しさ〉や〈愛おしさ〉を感じるということのメタファーなのかなと思いました。

「おっしゃる通りです。愛犬と一緒にいても、〈あと何日一緒に過ごせるのだろう〉と思うことが多くて。自分も含めて生き物はみな有限で、その象徴として今回時計の針の音をいろんな楽曲に入れていますね」

『Pray Pray Pray』収録曲“Light us”“Farewell Farewell”

――“Life goes on”は、越雲さんのジーザス&メリー・チェイン愛がほとばしっていますね(笑)。

「おっしゃる通りです。ジザメリの“Just Like Honey”って、あのドラムパターンとコード1発だけで優勝じゃないですか。それこそが僕は〈音楽〉だと思うんです。そんな“Just Like Honey”に最大限のオマージュを捧げつつ、それだけだと単に模倣になってしまうので、ポストロック的なアプローチも加えてひらけた音像にしていきました」

『Pray Pray Pray』収録曲“Life goes on”

――アルバムの中で、特に思い入れのある曲というと?

「今作の中で、最も音楽的だなと思うのは“Yours”です。最近、趣味でアンビエントヒップホップみたいなトラックを作っているんですけど、この曲のビートはかなりヒップホップを意識していて。かと言って、あまりにもヒップホップ過ぎてもpollyらしくないので、ウォッシュト・アウトやボン・イヴェールのような声楽っぽい要素も入れようと思い、我ながらすごくうまくいった楽曲です。自分が将来的に表現していきたい、常日頃から趣味の延長で作っているような音楽に近いものになりました」

『Pray Pray Pray』収録曲“Yours”

――アルバム最後の曲“silence”も、それこそボン・イヴェールあたりを彷彿とさせるゴスペルソングです。〈祈り〉をテーマにした本作のラストにふさわしい曲かと。

「ゴスペルは、全然詳しくはないですがすごくよく聴くようになって。やっぱり鍵盤や弦楽器の和音では出せない、声ならではの揺らぎに美しさを感じます。そういう、声で音楽を作ることがしたくてチャレンジしたのがこの曲ですね」

『Pray Pray Pray』収録曲“silence (remaster)”

Spotifyプレイリスト〈polly『Pray Pray Pray』に影響を与えた音楽〉。選曲は越雲龍馬

 

大事なものや失いたくないものに気づいた時、世界の見え方が変わった

――これまでのpollyの作品は、人間のダークな部分に焦点を当てたものが多く、その暗闇の中から〈希望〉を見出そうとしているように感じていたのですが、今作は本当に光に包まれた作品というか。全体的に〈愛〉にあふれた作品に仕上がりましたよね。

「ありがとうございます。今までの自分は、いわば膝を抱えて体育座りしながら世界を見ていたようなメンタリティーだったんですけど、大事なものや失いたくないものの存在に気づいた時、今いる世界の見え方が変わったというか。年を重ねると、こういうことも起きるのだなと自分でもちょっと驚いています。〈これが生きるということなのか……〉って(笑)」

――ファーストの頃からインタビューさせてもらっている越雲さんの、そんな変化を見るのは感慨深いものがあります。

「嬉しいです。お会いしたばかりの頃は、中指を立ててあたり構わず斧を振り回して勝手に自分で傷ついていたところがありました(笑)。でも、それにも疲れたというか。きっと自分に自信がなかったからそんなことをしていたのでしょうね。今作『Pray Pray Pray』が完成したときには〈誰にどう評価されても構わない〉と思えるくらい、少しは自信がついたのかなと思っています」

 


RELEASE INFORMATION

polly 『Pray Pray Pray』 14HOUSE.(2022)

リリース日:2022年2月2日(水)
品番:14HS-1014
価格:3,000円(税込)

配信リンク:https://friendship.lnk.to/PrayPrayPray

TRACKLIST
1. Laugher (feat. 志水美日)
2. Light us
3. A.O.T.O.
4. 窓辺
5. Daybreak
6. 愛している
7. one
8. Farewell Farewell
9. Yours
10. Life goes on
11. silence (remaster)

■polly 3rd Album『Pray Pray Pray』特設サイト
https://www.polly-jp.net/ppp

 

LIVE INFORMATION
polly Release Tour「Pray Pray Pray」

2021年12月11日 千葉 LOOK *終了
2021年12月18日 北海道・札幌 SOUND CRUE *終了
2022年1月7日 広島 4.14 *終了
2022年1月8日 福岡・天神 LIVE HOUSE OP’s *終了
2022年1月10日 京都 GROWLY *終了
2022年1月28日 愛知・名古屋 CLUB UPSET *終了
2022年1月29日 大阪・南堀江 SOCORE FACTORY *終了

TOUR FINAL ONEMAN
2022年2月6日(日)東京・渋谷 WWW
開場/開演:17:00/17:30
前売り:3,800円(ドリンク代別)
チケット(イープラス):http://eplus.jp/polly22/