
人間の行為で最も尊いものの一つが〈祈り〉
――アルバムタイトル『Pray Pray Pray』にはどのような由来があるのでしょうか。
「三つ単語を並べたり、頭文字を揃えたりするのはプライマル・スクリームの“Ivy Ivy Ivy”からインスパイアされていて、フルアルバムを出すときには決まってそうするようにしています。
〈pray〉は〈祈る〉という意味ですが、僕は人間の行為で最も尊いものの一つが〈祈り〉だと思っているんです。大切なものや人に対し、僕は今〈祈る〉ということをしたいのだと思います。それで今回、そういうタイトルをアルバムにつけることにしました」
――人間にとって、〈祈る〉ことが最も尊い行為の一つだと思うのはどうしてですか?
「〈祈る〉ことって、目の前にいる人や目の前にあるものに対しての行為ではなく、遠くにあるものに対しての行為じゃないですか。例えば今、こうやって目の前にいる黒田さんに対して〈祈る〉ことはないけど、甥っ子が受験に受かるよう離れたところから〈祈る〉ことはある。そういう時、物理的には遠くても、精神的にはものすごく近くに甥っ子を感じることができます。同じように、もう会えなくなってしまったものや人に対して、〈向こうでも元気でやっているといいな〉と思って近くに感じることも〈祈り〉だし、僕はそれを尊い行為だと感じるんですよね」
――なるほど、とても興味深いです。そういう感覚って、越雲さんの中にどう芽生えていったのですか?
「もちろん、今までも〈祈る〉という行為はしてきたけど、亡くなった人に対して悼むこと、誰かの幸せや成功を遠くから願うこと、それを〈祈り〉だと自覚し言語化できたのはここ最近ですね。本作を作る半年くらい前からなのかなと。
昨年、祖母が亡くなってしまったんです。最近までずっと入院していたのですが、コロナ禍でお見舞いにも行けずにいて。そういう時に、今自分は何ができるのだろう?ということを自問自答したとき、遠くから祖母の健康を願う〈祈り〉という行為について、改めて深く考えたのも今作に大きく影響していると思います」

愛犬との日々が人生観を変えた
――以前のインタビューで、越雲さんが最近犬を飼い始めたことを知りました。その影響も本作には色濃く反映されていますよね。
「はい。僕は18歳の時まで飼っていた犬が死んだときに、〈もう犬なんて飼わない〉と決めていたんですよ。でもメンバーに付き添うかたちで数年ぶりにペットショップに行って、そこで子犬を抱っこさせてもらってしまったんですよね。その時に昔飼っていた愛犬と同じ匂いがして……〈これはもう、僕が引き取るしかない〉という気持ちになってしまったんです(笑)。この子が亡くなるまで、僕が面倒を見ていたいって」
――その愛犬を失いかけた出来事があったそうですね。
「去年の1月に癲癇を起こしてしまったんです。倒れて痙攣している姿を目の当たりにして、〈このまま死んでしまうかもしれない〉と思ったときに人生観が変わったというか。〈自分の寿命をいくらでも削って彼にあげたい〉と、心から思ったんです。そのことは、自分自身の生き方に決定的な影響を与えたし、もちろんそれが本作にも少なからず影響を与えています」
――“窓辺”の歌詞に、〈この命が縮まろうとも その寝顔が続けばいい〉というフレーズがありますが、まさにその時の気持ちを歌っているのですね。
「その通りです。人間って、ある程度の年齢になれば一人でも生きていける生き物じゃないですか。でも人間に飼われるために生まれてきた動物は、人がいなければご飯も食べられないし生きていくこともできない。それを考えたときに、愛犬に対して〈尽くす行為〉がだんだん愛情に変わっていったんです。〈今こうして生きていること自体が奇跡で、数秒先には死んでいるかもしれない〉ということを忘れないでいたいと思い、それを曲にしました」
――“愛している”も愛犬について歌う、タイトルからストレートなラブソングです。
「本当は〈愛している〉という言葉を使わずにそのことを表現するのが文学だとは思うのですが、とはいえ伝わらなくなり過ぎるのも癪だなあと以前から思っていて(笑)。〈自分はこう思っているよ〉ということを、ストレートに表現してみることを意識しながら作りました。なのでライブで歌っていると、我ながらグッときてしまう瞬間があります。変にかっこつけることなく、わかりやすい言葉で自分の思いを表現できたと思うし、それが自分の〈救い〉にもなっていると感じます。
サウンドもすごく気に入っていますね。ギターを反転させたり、フルートの音にリバースディレイやリバースリバーブをかけたり、それをレイヤーしながら作った曲です。今回からシンセベースを導入したのですが、それもpollyの新たな〈武器〉になったと思っています」